大腸憩室出血に対する内視鏡的止血法

大腸憩室出血に対する内視鏡的止血法の治療成績

https://doi.org/10.11641/pde.96.1_30

【目的】大腸憩室出血に対する内視鏡止血法の治療成績を明らかにする.

【方法】大腸憩室出血のなかで大腸内視鏡(CS)で出血憩室を特定し内視鏡的止血法を行った122例を対象とした.対象の背景因子や内視鏡止血法の治療成績について検討した.

【結果】1)平均年齢は66.3±12.0歳,性別は男性90例,女性32例.基礎疾患は91例(75%)で認め,59例(48%)が抗血栓薬やNSAIDsを内服していた.2)出血憩室と特定したCS所見は,活動性出血が106例(87%),露出血管11例(9%)などであった.出血当日から翌日にCS施行の89例中81例(91%)で活動性出血を確認でき,それ以降にCS施行の33例中25例(76%)より高頻度であった(p<0.027).3)内視鏡止血法は,クリップ法が119例(98%)で多くを占めた.活動性出血を認めた106例での内視鏡的一次止血率は97%(103例)であった.内視鏡的止血法施行後の早期再出血は21例(18%)で認め,18例は内視鏡的止血に成功したが3例は緊急手術を要した.

【結論】大腸憩室出血は,出血後早期にCSを行うことが活動性出血の確認に必要である.クリップ法による内視鏡的止血法は一次止血には有効であるが,再出血が多いことが問題である.

下部消化管出血の原因として,大腸憩室出血は頻度が高い疾患である.大腸憩室出血の73~88%は自然止血するとの報告がある反面,再出血が33~42% で起こるとされる.なお抗血栓薬のなかでアスピリンやNSAIDs
は,再出血のリスクを高めるとされており,本検討でも約半数の患者が服用していた.大腸憩室症ガイドラインでは,再出血を防止するために可能な場合はNSAISs の中止や一次予防で内服している抗血小板薬は再開しない選択肢が記載されている.
大腸憩室出血に対してCS は,出血憩室の同定のみならず内視鏡的止血法を引き続き行うことができ,再出血を抑制することも報告されている.大腸憩室症ガイドラインでも大腸憩室出血を疑った場合の初回診断法としてCS が推奨されている.CS で止血処置を行うためには出血憩室の同定が必要であり,そのためには腸管前処置が重要となる.本検討では出血憩室の過半数は盲腸から上行結腸に存在しており,患者の循環動態が安定していれば腸管洗浄液による腸管前処置が望ましく自験例では76% に行っていた.出血憩室の同定には出血後早期にCS を行うことが有効で,出血後24 時間以内のCS が出血憩室の同定率を上昇させることが報告されている.本検討でも出血翌日までにCS を行った場合の活動性出血の確認頻度は,2 日目以降のCS 施行例より有意に高率であった.
大腸憩室出血に対する内視鏡的止血法としては,クリップ法やエピネフリン局注,凝固法などに加えEBL や留置スネアを用いた結紮法がある.凝固法は穿孔のリスクがあり推奨されていない.エピネフリン局注は,止血効果が一時的で再出血率が高いため,他の止血法との併用が望ましい.本検討では,EBL が本邦で保険適応となる以前の症例が多くを占めており,クリップ法を大部分の症例に用いていた.クリップ法では,憩室内の出血血管を直接把持する直達法が有効である.しかし憩室底部からの出血が多いため,直達法で止血できる頻度は低い.憩室口をクリップで塞ぐ縫縮法では憩室内の出血血管を把持できないことから再出血が多いのが問題で,自験例では短期再出血を17.6% に認め,TAE や外科手術が必要になる症例も認められた.過去の報告の集計でも,クリップ法では早期再出血を24% に認め,外科手術やTAE が7.8% に必要であったと報告されている.

結紮法は,出血憩室を吸引し翻転させた後に基部をO-ring または留置スネアで結紮する方法である.結紮法は,クリップ法などの従来法と比較し,早期の再出血率やTAE および外科手術への移行率が低いことが報告されている.
しかしEBL を行う場合は,スコープの再挿入が必要になり,結紮後の穿孔も稀ながら報告されている.また出血憩室や周囲組織が線維化で固い場合や憩室口が非常に大きい場合,憩室口が小さく吸引翻転が難しい場合はO-ring や留置スネアでの結紮が困難になる.適切な内視鏡的止血法の選択が必要であり,憩室内の出血血管が視認できる場合はクリップ法(直達法)出血血管の視認が困難な場合はEBL などの結紮法を選択するのが良いと考える.しかし実際には憩室内の出血血管を視認できる頻度は低いことから,今後EBL などの結紮法を選択する症例が増加すると考えられる.

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