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➀氷河期時代の紙ヒコーキ

その不可思議な内容が書かれた紙ヒコーキを拾ったのは、新橋から池袋へ向かう山手線の車内でのことだった。

1999年の冬。就職氷河期に就職が決まらず、やっとひっかかった所謂ブラック企業。入社後、初めて迎えたクリスマスイブ。薄給、女は皆無、素人童貞の三拍子。寒気が肌を刺し、ため息をつくと、吐く息が白く夜空に輝いた。

アキラは今日もダルい体を何とか引きずりながら、新橋で電車に乗って偶然空いていた座席目がけて一目散に座ったことまでは覚えているが、酒に酔ってすぐ眠りこけてしまった。

今日も飲み会が大嫌いなのに先輩に無理矢理居酒屋に連れて行かれ、とりあえず生を急ぎ注文し、灰皿を並べ、メニューを見せる。気ばかり遣ってしまい、何を話していたかさっぱり覚えていない。続いて二軒目からキャバクラに連れて行かれ、全く楽しめないまま顔がこわばり、何か前で歌えとブルーハーツの「人に優しく」を熱唱すれば、キャバ嬢の拍手と同時に、先輩からオメェほど優しくない詐欺師なんていねぇじゃねぇかと、今なら完全パワハラ認定の言葉を浴びせられてしまうのであった。

結局、山手線で何周してしまったのだろうか。渋谷駅で女子校生だか女子大生の騒がしい声と、何かが頭にあたったような気がして目を覚ました。

足元にはアキラの黒いカバンが落ちていて、中身が散乱していた。そう言えばさっき網棚の上に置いたんだった。慌てて書類や本をかき集めた。イタズラだろうか、誰かが故意にいれたのだろうか、アキラには全くわからなかったけれど、しわくちゃな紙ヒコーキがノートの上に綺麗に着陸していたのだった。

〜続く〜











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