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②謎の求人票

【求人票】

①社名 :ミク株式会社

②所在地:お電話にてご案内致します。

③T E L   :03−XXXX−YYYY

④内容 :誰にもできない難しい仕事です。

※詳細は面談にて。お気軽には連絡不要です。

紙ヒコーキ手にして開いてみると、何やら隙間から文字が見えて、中には下手クソに求人票と書かれていた。

所在地も明らかにせず、内容も明らかにせず、これはとにかく怪しい。以前に妙に時給が高い仕事で、メールを打つだけの簡単なお仕事です、という内容に安易に惹かれて面接に行ってしまったことがあるが、案の定そんなうまい話はなく1日で辞めた。

どうせそんな類だろうと思っていると、ふと隣の席から酒臭い中年男性が、競馬新聞を読むふりをして、アキラの手元の求人票を横目で見ている。その視線と酒臭さから逃れるようにカバンの中に紙ヒコーキをしまいこむと、池袋の手前の大塚で降りた。

こみあげる安っぽい性欲を抑えきれず、思わず格安の風俗にでも行ってしまおうかという衝動に襲われた。改札を出て裏道を歩き始めると、昭和時代に作られたような看板が煌煌と輝いている。

不意に虚しさが襲った。オレはあの会社でずっと働き、自分を演じながら生きていかなくてはならないのだろうか。いや、就職氷河期にこんな三流大卒のオレを雇ってくれただけでも感謝しなくてはいけない、会社のために貢献しろとオヤジにも言われたじゃないか・・・。アキラは心の中でつぶやき続けた。

そして、今宵もそんな葛藤がありながらも抗うことはできず、結局呼び込みの妙に愛想の良い声に誘われながら、卑猥な光の中へと消えていくのだった。

~続く~

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