見出し画像

新型コロナウイルスに関連して従業員を休ませる場合、賃金や休業手当はどうすべきか

[1]まとめ

多治見市内でも、まずは海外からの観光客の減少、国内旅行の自粛、そして、岐阜県による外出自粛要請(今月初めの「ストップ新型コロナ二週間作戦」や県独自の「非常事態宣言」)、さらには国の緊急事態宣言と、日に日に企業や商店の休業が増えています。

休業をし、従業員を休ませる場合、賃金や休業手当はどうすべきなのでしょうか。まとめると、次の通りです。

1 まず、使用者の故意又は過失等により休業する場合は、引き続き賃金全額を支払わなければなりません。
2 使用者側に起因する経営、管理上の障害により休業する場合は、民法536条の「責めに帰すべき事由」(=故意又は過失等)には当たらないので賃金全額支払義務は免れますが、労働基準法26条の「使用者の責に帰すべき事由」には当たるので休業手当は支払わなければなりません。
3 不可抗力を理由に休業手当の支払いを免れることができるかについては、個別具体的な検討が必要ですので、弁護士にご相談ください。
4 もちろん、休業手当の支払いを免れることができないかを検討する前に、雇用調整助成金が利用できないか検討すべきです。

[2]使用者の故意又は過失等により休業する場合は、引き続き賃金全額支払義務あり

使用者は、労働者に対して、賃金全額を支払う義務があります(労働基準法24条1項本文)。

労働基準法
(賃金の支払)
第二十四条 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、(略)
○2 (略)

ただし、使用者、労働者双方の責めに帰することができない事由によって休業となった場合には、そのリスクは使用者、労働者がそれぞれ負担すべきだとして、賃金を支払う義務はなくなります(改正後民法536条1項)。もっとも、就業規則などで異なる定めをしている場合は、これに従う必要があります。

この場合の「責めに帰することができない事由」とは、故意又は過失などがないことをいいます。

つまり、使用者の故意又は過失等により休業する場合は、引き続き賃金全額を支払わなければなりません。

民法
(債務者の危険負担等)
第五百三十六条 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

使用者・労働者双方の責めに帰することができない事由によって休業となった場合には、賃金を支払う義務はなくなります。

[3]使用者側に起因する経営、管理上の障害により休業する場合、休業手当を支払う必要あり

他方、労働基準法26条は、使用者の責に帰すべき事由による休業する場合、使用者は、休業期間中、労働者に対して平均賃金の60%以上の休業手当を支払わなければならないとしています。

(休業手当)
第二十六条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。

この労働基準法26条の「使用者の責に帰すべき事由」は、民法536条の「責めに帰すべき事由」と同じ概念と考えるべきなのでしょうか。

答えはNOです。

最高裁の判例によれば、労働基準法26条の「使用者の責に帰すべき事由」とは、いかなる事由による休業の場合に労働者の生活保障のために使用者に平均賃金の60%の限度での負担を要求するのが社会的に正当とされるかという考量を必要とするといわなければならなないことから、取引における一般原則である過失責任主義とは異なる観点をも踏まえた概念というべきであり、使用者側に起因する経営、管理上の障害を含むものと解されています(最高裁昭和62年7月17日判決。民集第41巻5号1283頁「ノースウエスト航空事件」)。

休業手当の制度は、右のとおり労働者の生活保障という観点から設けられたものではあるが、賃金の全額においてその保障をするものではなく、しかも、その支払義務の有無を使用者の帰責事由の存否にかからしめていることからみて、労働契約の一方当事者たる使用者の立場をも考慮すべきものとしていることは明らかである。そうすると、労働基準法二六条の「使用者の責に帰すべき事由」の解釈適用に当たつては、いかなる事由による休業の場合に労働者の生活保障のために使用者に前記の限度での負担を要求するのが社会的に正当とされるかという考量を必要とするといわなければならない。このようにみると、右の「使用者の責に帰すべき事由」とは、取引における一
般原則たる過失責任主義とは異なる観点をも踏まえた概念というべきであつて、法五三六条二項の「債権者ノ責ニ帰スヘキ事由」よりも広く、使用者側に起因する経営、管理上の障害を含むものと解するのが相当である。

したがって、使用者側に起因する経営、管理上の障害により休業する場合は、民法536条の「責めに帰すべき事由」(=故意又は過失等)には当たらないので賃金全額支払義務は免れるけれども、労働基準法26条の「使用者の責に帰すべき事由」には当たるので休業手当は支払わなければならない、ということになります。

[4]不可抗力による休業を理由に休業手当の支払い義務を免れることは……

では、不可抗力により休業するものであり、労働基準法26条の「使用者の責に帰すべき事由」にも当たらないとして、休業手当の支払いを免れることは可能でしょうか。

不可抗力により休業する場合、労働基準法26条の「使用者の責に帰すべき事由」による休業には当たらないとして、休業手当の支払いを免れることができるとされています。

とはいえ、不可抗力による休業といえるかどうかが大きな問題となります。

「不可抗力」に当たるといえるためには

(1)その原因が事業の外部より発生した事故であること、
(2)事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることのできない事故であること

の2つの要件を満たす必要があるとされています。

例えば、自宅勤務などの方法により労働者を業務に従事させることが可能なのにこれを十分検討していないなど、休業の回避について使用者として行うべき最善の努力を尽くしていないとなると、上の(2)をクリアできず、不可抗力による休業ではなく、使用者の責に帰すべき事由による休業に該当する可能性があります。

不可抗力による休業だとして休業手当の支払いを免れることができるかどうかについては、個別具体的な検討が必要ですので、弁護士にご相談ください。

もちろん、休業手当の支払いを免れることができないかを検討する前に、後で紹介する通り、雇用調整助成金が利用できないか検討すべきです。

[5]休業手当は、パートや有期契約労働者等にも

また、休業手当は、パートタイム労働者や有期契約労働者に対してもしっかり支払う必要があります。

4 労働者を休ませる場合の措置(休業手当、特別休暇など)
問10 パートタイム労働者、派遣労働者、有期契約労働者などの方についても、休業手当の支払いや年次有給休暇の付与等は必要でしょうか。
 労働基準法上の労働者であればパートタイム労働者、派遣労働者、有期契約労働者など、多様な働き方で働く方も含めて、休業手当の支払いや年次有給休暇付与が必要となっております。
 (略)
 なお、法定外の休暇制度や手当を設ける場合、非正規雇用であることのみを理由に、一律に対象から除外することは、雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保を目指して改正されたパートタイム・有期雇用労働法及び労働者派遣法の規定(※)に違反する可能性があります。
※大企業と派遣会社は令和2年4月、中小企業は令和3年4月からの施行となっています。

[6]雇用調整助成金が使えれば使うべきです

休業をする場合は、雇用調整助成金を使って雇用を維持することが望まれます。

「新型コロナウイルス感染症の影響」により、「事業活動の縮小」を余儀なくされた場合に、その雇用する対象労働者の雇用の維持を図るために、「労使間の協定」に基づき「雇用調整(休業)」を実施する事業主が支給対象となります。

新型コロナウイルス感染症の影響を受ける全事業者を対象に、令和2年4月1日から6月30日までの休業等に適用されます。【令和2年10月現在、12月31日まで延長しています】

売上高または生産量などの事業活動を示す指標の最近1か月間の値が前年同月比5%以上減少していれば、「事業活動の縮小」に該当します。なお、事業所を設置して1年に満たず前年同期と比較できない場合、または、前年同期に実質稼働していなかった場合は、令和元年12月との比較で判断します。

助成額は、

(休業を実施した場合に支払った休業手当に相当する額)×(助成率)

となります。

中小企業の場合、助成率は80%(さらに、解雇等をしていない等の上乗せ要件をクリアする場合は90%)となります。【令和2年10月現在では、助成率は更に拡充されています】

従来の支給限度日数100日とは別枠で利用できます。

詳細は、厚生労働省の下記のリンク先をご参照ください。

東濃地方の企業や人々の豊かなくらしが厚く守られるよう、微力ではありますが、今後も法的にしっかりサポートできればと思います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?