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台風・大雨・大雪、コロナで休業等の措置を講じる場合に、賃金・休業手当はどうするか

このコロナ禍の中で、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い、売上減により休業を余儀なくされた企業や、国の緊急事態宣言や県独自の緊急事態宣言(又は非常事態宣言)下で休業の対象となり已むなく休業をした企業がありました。

また、新型コロナウイルス感染症とは関係なく、台風・大雨・大雪の場合に休業をしたり、従業員を早退させたりする場合があります。

こうした場合に賃金や休業手当を支払うべきなのか、悩まれる経営者が多いのではないでしょうか。

1 賃金を支払わなくてよくなる場合・休業手当を支払わなければならない場合とは?

労働契約は、労働者が労務を提供し、使用者が賃金を支払うという関係にある契約です。

労働者が自己に非がなく(=「責めに帰することができない事由」により)労務を提供することができなくなった場合で、使用者にも責任がないときは、使用者は労務の提供に対する反対給付の履行である賃金の支払いを拒むことができます(民法536条1項)。

もっとも、使用者に非がある(「責めに帰すべき事由」がある)ようなときに、労働者が労務を提供できなくなった場合には、使用者は、反対給付の履行である賃金の支払いを拒むことはできません(民法536条2項)。

民法
(債務者の危険負担等)
第五百三十六条 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

さらに、使用者の「責に帰すべき事由」による休業の場合、使用者は休業手当を支払う義務を負います。

労働基準法
(休業手当)
第二十六条 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。

「使用者の責めに帰すべき事由」については、民法536条と労働基準法26条とでは意味合いが異なります。

民法536条の「債権者(←この場合は使用者)の責めに帰すべき事由」では、使用者の故意や過失、そしてこれと同視すべきようなものをいいます。

これに対し、労働基準法26条の「使用者の責めに帰すべき事由」は、休業手当が労働者の生活保障のための制度であることに照らし、使用者の故意や過失・そしてこれと同視すべきようなものに限定されず、使用者側に起因する経営判断が介在する場合も含まれるものと理解されています。

他方、不可抗力によるものは、労働基準法26条の「使用者の責めに帰すべき事由」には当たらないとされています。

不可抗力とは、

その原因が事業の外部により発生したものであること、
使用者が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることができないものであること

の2つをクリアしているものをいうと考えられています。

2 台風・大雨・大雪で休業措置を講じる場合

昨今、台風の接近に伴い、被害拡大の防止のため、公共交通機関があらかじめ計画運休を発表するようになっています。

そのような事前の情報を受け、休業措置を講ずる場合、休業手当を支払わなければならないのでしょうか。

また、交通機関が計画運休を発表しなくとも、実際に朝から交通機関がストップし休業措置を講ずる場合もあるでしょう。こうした場合も、休業手当を支払わなければならないのでしょうか。

台風や大雨・大雪は、明らかに事業の外部により発生したものであり、休業措置は、使用者が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることができないものであることは明らかですから、「不可抗力」による休業に当たります。

したがって、理論上は、休業手当を支払わなくてよいということになります。

3 台風・大雨・大雪に備えて従業員を早退させる場合

台風の接近や大雪の予報を受け、交通機関に混乱が予想されることから、従業員を早退させる場合はどうでしょう。

交通機関の混乱を予想しての早退は、職場からの帰宅について支障が生じるのみであり、業務遂行そのものには支障はなさそうです。

そうすると、不可抗力ではなく、使用者の経営判断が介在しての早退となり、休業手当は必要となる場合があります。

具体的には、実際の就労時間に対して支払われる賃金が平均賃金の60/100に満たない場合は、その差額を支払う必要があります。

早退の時間が短く平均賃金の60/100以上であれば、休業手当は不要です。

休業手当は、パートなど非正規雇用労働者に対しても支払わなければなりません。

4 コロナの影響で休業をする場合

新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく休業・自粛等の協力要請や要請を受けて休業をする場合や、県から特措法に基づかず休業への協力を求められこれを受けて休業する場合はどうでしょうか。

すでに4月に詳しく説明しています。

特措法による対応下で休業要請を受けた場合で、使用者において休業回避のためのための具体的努力を最大限尽くしている場合には、休業手当は不要だとしています。

もっとも、新型コロナウイルス感染症に起因する休業の場合は、雇用調整助成金(新型コロナ特例)が拡充されています(現在12月31日まで延長されています)。

このコロナ禍において、雇用をなるべく維持することが社会的なコンセンサスである中で、雇用調整助成金を用いず、あえて休業手当を支給しないという判断をすることが、果たして社会経済的観点から妥当なのかについては大いに疑問が残るところです。





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