「雇った方が用心しなきゃなんねえ《用心棒》だってあらァ」
何年かぶりに黒澤明の「用心棒」を観た。もう過去何度観たかわからないぐらいだけど、今回、図書館で借りたDVDは“字幕付き”だったので、改めて字幕を入れて鑑賞した。やはり字幕があるおかげで、ストーリーがこれまで以上によくわかる。
宮川一夫による三船敏郎の背中ごしのアングル、躍動感あるカメラワーク。佐藤勝の音楽。野良犬が人の手首を咥えて走ってゆくシークェンス。やはりグイグイ惹かれる。
ただ黒澤明の作品は登場人物が激情的すぎるところ。また役者陣が監督の駒となって動いてる感が否めない。まぁ、それら欠点も別の視点から言えば緊張感を醸し出す良い効果になっているともいえる。
この映画の凄いところは映像のみならず、シナリオが優れているところ。知恵と剣術を駆使し、たった一人によって、町の悪人どもをすべて壊滅させてしまうという面白さ。
ある農民の息子は農業を継がずに博打うちになると言って家を飛び出し、町では絹問屋を後見人とするヤクザと酒造側のヤクザが対立して、毎日死者が絶えない。八州廻りの役人は町の悪事に目を瞑ってもらうのに酒や芸者で接待されている。要は底なしに腐敗し切った町なのだが、主役の三十郎は町から悪人を一掃すべく、対立するヤクザの双方を欺き、互いの潰し合いを目論む。
クールだが、優しさを秘める一匹狼の主人公は、どこかハードボイルドのそれを思い起こさせる。と、そういえば昔、ダシール・ハメットの「血の収穫(赤い収穫)」を読んだ時に、その内容があまりにも似ていて、(え?「用心棒」のパクりでは?)と思って創作年を調べたのを思い出した。結局、その時は「用心棒」の方が年代的には後だとわかり、(え?天下の黒澤明がハメットを剽窃したのかな?この事実に気づいたのはもしかしてオレだけじゃ?)などと疑念を抱いたまま、長年そのままになっていた。
で、今回、視聴後に改めてネット検索してみると、なるほど、こういうことだとわかった。
これはやっぱり、「リア王」を原案にしたとする「乱」のように、きちんとクレジットに出すべきだったと思う。「用心棒」は黒澤作品の中でも特に優れたシナリオを持つ作品であるだけに。
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