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加法・減法筆算の土台③0の扱いその2「明示の0」「省略の0」|基礎計算研究所

0は確かに特殊ではあるのだが・・・

 暗算やそろばんでいうと、0は[計算をしなくてもよい]という合図になる。もう少し細かくいうと[計算をせずに次の行程へ行ってよい]ということである。
 ところが筆算では、目に見えている0も、他の計算の構成要素とかわらず[計算結果を書いて、次の行程へ行く]という同等のものであることを,水道方式では示したのである。そして、むしろ構成要素である素過程の中に0に関係する計算が省略されてきたことを発見し、指導体系の中に組み込むことを提案したのである。

 筆算における[0]は、他の数と異なる「特殊」なものであるのは、感覚として認識できる。水道方式の慧眼は[一般→特殊]の原則を導入し、0以外の「一般」の数の後に,特殊なものとして0が含まれているものを扱うべきとしたことである。

 水道方式の根本原理は,この,
             0は特殊である
という考えの中に秘められているといってもよい。
(増補水道方式による計算体系 p29)

増補水道方式による計算体系 p29

 さて,ここで,0の問題について少し考えましょう。2+22+0とでは、はたしてどちらがむずかしいでしょうか?(※2+2、2+0部分は筆算表記) 計算力の完成したおとなは文句なしに後者のほうが前者よりやさしいと思うかも知れませんが,完成以前の子どもにとっては,「加える」のに実際はその操作のない(あるいは無効な),0 の加法はかえってむずかしいのです。その証拠に,+0については,
              3+0=4
という、+1と同じにしてしまう誤りが多いのです。
 そこで,指導の順序は、0を含まないものから含むもの(中略)の順序に指導されることになります。
「水道方式入門 整数編」p31                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        

「水道方式入門 整数編」p31

 ところが、ここで問題にしたいのは、上記引用部分の直後である。

 ところが,これはちょうど,0を含まない一般的なものから0を含む特殊型へと進むことと同じです。
 だから,一般に計算は,
            一般型 → 特殊型
と進むほうが,子どもの認識の筋道や特質にも合致しているので,これが,水道方式のもう1つの基本的考え方となるのです。この考え方は,これからも計算のあらゆる段階に現われてきます。要するに,計算とはそういうものなのです。(「水道方式入門 整数編」p31)

「水道方式入門 整数編」p31

 3+0=4と間違える子がいるから,0の出てくる計算を全て特殊として扱おうとするのは議論が荒すぎる。このnoteでは、もうすこし0を細かく分析して扱いたい。残念ながら従来の水道方式の「0は特殊である」というだけでは、まだ分析が足りない、というのこのnoteでの主張になる。

 遠山が図らずも触れているように乗法・除法の計算練習に進む段階では、加法・減法の計算力は、「完成」とまではいかないかもしれないが,3+0=4とは答えないレベルには習熟していると考えてもよい。

 0を特別扱いをしすぎていて、ルールとして一律に0は他の数の後回しとすれば良いとして考えるのは、例えば乗法・除法に進んだときにもちょっと使いにくいのである。もう少し0の扱いについて、解像度をあげて分析してみる。

「明示の0」と「省略の0」

 開始の0/結果の0という軸に加えて、もう一つ0を見るための軸がある。 現在の算数教育の中では、筆算の分類で「空位」「欠位」の有無が注目される。

欠位 ・・・ 例にある3位数±2位数のような桁数が異なる数どうしの計算のとき、例の2位数の百の位のように表記しない位があるもの

空位 ・・・ 例の十の位のように、0を表記する位のこと

 その桁には何もないということは0がある、と考えるのが位取りの原理である。整数の場合、頭位でなければ0を書く(空位)し、頭位であれば0を書かず、それが桁あふれや欠位としてあらわれる場合がある。

 頭位でないときに書く0を[明示の0]、頭位の時に省略される(、そして必要なときに0を補う)0を[省略の0]と名づけておく。なお、省略の0は、小数の筆算のときに重要な役割を担うことにもなる。

「開始の0」と「結果の0」

 中学生ともなると,うっかりミスは除くとして3+0=4と答える生徒はほぼいない。しかし、例えば3-5+2を答えようとして、戸惑う生徒や1と書いてしまう生徒はいる。加えて、もう少し進んで$${3x-5x+2x = x}$$と答える生徒は、それよりも多い。0は気をつけなければならないポイントであるのは確かである。しかしそれでも3+0=4とは答えないし、3+0と、3-5+2との間に横たわるものは何だろうか。

 書いてある0は処理ができるが,自分が0と書かなければならないときに迷いが生じる,と考えられる。

 いやいや、そういう生徒は5−5=0も答えられるだろう、というかもしれない。5−5=0と答えられる生徒も、3-5+2=0と答えるときに迷い・戸惑いが生じるのはどういうことであろうか。そういう問題の立て方をしてみよう。

 5−5に0とすんなり答えられるのは「そういう時は0と答えてよいのだ」というルールを知っているからである。たぶん3+2−5もちゃんと0と答えることができるだろう。しかし、3-5+2の答えを0と書いてよい、というところまで敷衍して考えることができない、負の数なのでひょっとしたら自分の知らない新しいルールが待っているかもしれない、と考えているのかも知れない。そうすると、計算では0になっていても、これを0と書いてよいのか、と戸惑っているのではなかろうか。

 負の数が絡んだ計算でも演算結果が0となった時には0と書いてよい、という「許可」を待っている、と考えることができる。

 3+3のように計算の最初に現れる0を[開始の0]、5−5のように計算の最後に現れる0を[結果の0]と名づけておく。すると、先のことから開始の0はそんなに習熟に難しくないが,結果の0はちょっと答えるのに勇気がいり、ハードルが高くなる、ということが言えるのではないか。

 なお、開始の0結果の0は、$${0±0=0}$$や$${n×0=0}$$、$${0÷n=0}$$のように、混在する場合もある。

筆算における4種類の0

 この[明示の0]/[省略の0]を、先の[開始の0]/[結果の0]との関係とで見てみると、次の表のように4種類に分けることができる。それぞれにギリシャ文字をコードにしておく。(アルファ・ベータは大文字がアルファベットと見た目が同じになるので、ガンマ・デルタにしておく。開始の0を「ガンマ」、結果の0を「デルタ」とし、明示の0を小文字、省略の0を大文字に割り当てる。)

 これだけではわかりにくいので、具体的に加減のときの例を示すことにしよう。

種類による特殊の度合い

 水道方式にならって、0が「特殊」であると考えると、その特殊性の度合いにさらにランクをつけることができるのではないか。

書いてある0 < 書けばよい0 < 書かない0 < 書いていない0
γ < δ < Δ < Γ

 「書いてない0」(Γ:開始の0&省略の0)は、加減の欠位であらわれる。筆算そのものだけで考えれば,そこまでストレスに感じないかも知れないが、横書き算から筆算にするときには,通常数字は頭位から書くにもかかわらず「桁をそろえる」必要があり、気を遣う作業となる。

 くわえて、小数のわり算で小数点移動や「わり進み」でも書いてない0を見立てるところで登場する。書いていない0を“透視“するのは相当難しい作業である。この透視の作業を3+0の計算と同一視して「0を特殊」として一律に扱うのは、かなり荒い分類であったことは、ご理解いただけたであろうか。逆にここまで分析しておくと、0の扱いの順序についても理屈だって説明をすることができる、というわけである。

 なお、筆算時には、加減乗除それぞれの素過程に登場する0だけではなく、桁またぎ(くり上がり・くり下がり)によって関係する0もあるので、事態はやや複雑である。それぞれの算法の項目で、さらに細かく分析を加えていくことにする。



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