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2023年世界選手権予選 各種目でEスコアが最も高かった選手

パリ五輪まで100日を切り、すっかりムードはパリ五輪を鶴望するばかり。
2023年の世界選手権は、パリ五輪の出場権を懸けた予選とも言える大会でした。

その世界選手権の予選の男女全演技が、FIG(国際体操連盟)公式チャンネルにアップされています。
再生リストは男女全選手全演技、実に1500ほどのビッグデータが格納されています。

今回はその中から、男子各種目予選でEスコアが最も高かった選手の演技を紹介します。

技を積み重ねることで加算方式を取るDスコアに対し、不確実な実施に対して10点満点から減点方式を取るのがEスコア。
Eスコアが高いということは、実施が正確または美しいと判断された演技といえます。

それでは男子各種目のEスコアトップの演技を見ていきましょう。


▼ゆか:アルトゥール・ダフチャン(アルメニア)

Eスコア:8.933

ゆかのEスコアトップはアルメニアのアルトゥール・ダフチャンでした。
種目別跳馬で世界チャンピオンにもなった彼ですが、オールラウンダーでもあります。
低めのDスコアを堅実に通す事でEスコアを稼ぐ戦法で個人総合を戦います。

彼のゆかはC難度を中心とした構成で、加点も取りつつ、着地を取りやすい技を選んで構成しているのだと思います。
あん馬も得意なので、グループⅠは旋回技で稼いでいますね。


▼あん馬:李智凱(台湾)、千葉健太(日本)、ハルチュン・メルディニヤン(アルメニア)、ドミトリー・ミッケビッチ(ラトビア)

Eスコア:8.600

例年だとEスコア9点近くを取る選手が数人はいるものですが、この年の世界選手権ではそうもいかなかった様子。
Eスコア8.600が4人並んでトップです。

まずは台湾の李智凱
雄大な開脚旋回を武器に高いDスコアとEスコアで東京五輪種目別あん馬で銀メダルを獲得。
2023年はオリジナルの新しい技を取り入れています。


続いて日本から千葉健太選手。
初の世界選手権代表で、以前から得意とするあん馬では種目別決勝に進みました。
スピード感のあるシャープな旋回が特徴。
リーニン、ブスナリといった減点リスクの高い技を華麗に決めています。


続いてまたまたアルメニアから、ハルチュン・メルディニャン
世界選手権あん馬決勝の常連。メダル獲得経験もある大ベテラン選手です。
軽やかな旋回で高難度の構成を堅実に施します。

最後はラトビアから、ドミトリー・ミッケビッチ
有名な選手ではありませんが、特徴的な腕の動きで旋回をします。
体のラインも美しく伸びていて、高難度技を中盤に入れるおもしろい構成を持ちます。
ウ・グォニアンで足割れが見られますが、それでも高いEスコアを出しています。

今回は予選の演技のみを取り上げていますが、種目別あん馬決勝ではアイルランドのリース・マクレナガンがEスコア 8.700を出しています。


▼つり輪:パトリック・サンパイオ(ブラジル)

Eスコア:9.066

年々減点が厳しくなるつり輪ですが、この大会唯一9点台を出したのがブラジルのパトリック・サンパイオ
特に減点されやすい高難度の力技を入れていないこともEスコアトップの理由のひとつと言えるでしょう。
注目すべきは、振動倒立技の揺れの少なさ。
ケーブルの揺れが発生しやすい振動倒立技でここまで揺れを抑えられる実施は貴重です。


▼跳馬 1本のみ:アルトゥール・マリアーノ(ブラジル)、南一輝(日本)

Eスコア:9.500

1本の技のみで完結するため、その一瞬の跳躍に数多の減点項目が存在します。
それでも比較的Eスコアのでやすい種目ではあるため、最高9.500を出した選手が2人いました。

まずブラジルのアルトゥール・マリアーノ
種目別ゆかと鉄棒でメダル獲得経験のあるマルチタレントですが、跳馬はユルチェンコとびを持ち技としていて、ここではシューフェルトを跳んでいます。
着地こそ1歩動いていますが、それでも9.500と高いEスコア。空中姿勢や着地姿勢が評価されたのだと思われます。

そして同じくEスコア9.500を出したのが日本の南一輝選手。
マリアーノと同じシューフェルトを跳んでいますが、こちらは着地を止めています。
同じシューフェルトで同じEスコアでも、空中姿勢や跳躍の高さなど、違った印象を得ることができます。


▼跳馬 2本跳躍:アルトゥール・ダフチャン(アルメニア)

2本の跳躍のEスコア平均:9.466

跳馬は種目別を戦う選手の場合、2本の跳躍の平均スコアで戦います。
予選も1本だけ跳ぶ選手と2本跳ぶ選手がいます。
その2本のEスコアの平均が最も高かったのが、アルメニアのアルトゥール・ダフチャンです。
2本ともDスコア5.6を持ちながら2本ともEスコア9.466という驚異的なスコアで予選をトップ通過しています。


ダフチャンは決勝では1本目の跳躍で着地が乱れてしまい、メダル獲得とはなりませんでした。
しかし、その後の2本目の跳躍でEスコア9.533を出しています。


▼平行棒:杉本海誉斗(日本)

Eスコア:8.866

平行棒トップは日本から杉本海誉斗選手でした。
技術の発展した今の平行棒は、9点に近いスコアを出す選手もいますが、ここでは平行棒を得意とする杉本選手が頭ひとつ抜けていました。
杉本選手は種目別決勝で銅メダルを獲得しています。


▼鉄棒:千葉健太(日本)、グレン・カイル(ベルギー)

Eスコア:8.800

鉄棒トップは2人、まずはあん馬でもトップだった日本の千葉健太選手。
近年の千葉選手のEスコア重視の体操が如実に結果として表れています。
減点されやすいひねり技は1つだけ、倒立に収める技は確実に倒立を狙いに行っている様子が演技から窺えます。


もう1人はベルギーのグレン・カイル
つり輪・平行棒が得意な選手ですが、鉄棒では低いDスコアを丁寧に実施してEスコアを稼いでいます。


ふたを開けてみれば、日本・アルメニア・ブラジルと、Eスコアトップを取る国が偏っていました。
その国の指導方針などもあるかもしれませんが、興味深い結果です。
日本の美しい体操がこうして数字として表れるのは大変誇らしいことです。

今はあん馬や平行棒ではDスコアインフレが起きてより高いDスコアで構成する選手が多くなってきました。
反対に減点項目は年々増え、Eスコアはどんどん厳しくなります。
そんな競技の傾向から、Eスコアで勝負する選手、Dスコアで勝負する選手の二極化が進んでいるように思えます。
パリ五輪、そしてその後の体操界で高いEスコアを取る演技はどんなものになるのでしょうか。
今から楽しみでなりません。

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