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2022年5月第四・五週の体操ニュース

遠くヨーロッパでは民族間問題が再燃し、日本では代表選考を控える中重要なニュースが舞い込みました。
5月下旬のニュースです。

▼2026年の世界選手権の開催地がオランダ・ロッテルダムに決定

2026年の世界選手権の開催地が決定しました。
場所はオランダのロッテルダム。2010年にも同大会が開催された場所です。
我らが内村航平さんが個人総合2連覇を達成した場所でもあります。

FIG:2026年世界選手権の開催地がロッテルダムに決定

クロアチアのドブロブニクで行われたFIG総会で決定されたもの。
オランダのスーパースターで昨年引退したゾンダーランドが開催地プレゼンを行うなどしました。

ロッテルダムでの開催は3度目。
会場は2010年に開催された時と同じ体育館だそう。

今後の世界選手権会場は
2022年 リバプール(イギリス)
2023年 アントワープ(ベルギー)
《2024年【オリンピック】パリ(フランス)》
2025年 未定
2026年 ロッテルダム(オランダ)


▼パセカが中国チームの指導者に

ロシア代表としてオリンピックでメダルを獲得、世界選手権では金メダリストにもなったマリア・パセカが中国代表のコーチを務めるそうです

タス通信:体操のパセカ、8月から中国チームでコーチ業をスタート

コーチにはもともと興味があったそうで、「オリンピックチャンピオンを育てたい」という目標があるという事です。
期間は「おそらく1年になるだろう」と言っており、8月には同胞のタチアナ・ナビエワと共に中国に行くことになるそう。


▼ワールドチャレンジカップ・ヴァルナ大会が終了

ワールドチャレンジカップがブルガリアのヴァルナで開催され、男子はキプロスのマリオス・ゲオルギウ、女子はアリン・フリースがそれぞれ3冠を達成しています。

FIG:ワールドチャレンジカップ開幕戦、フリースとゲオルギウが大活躍

ヨーロッパの強豪国や東欧諸国、コロンビアやアメリカの選手が種目別で戦い、技をぶつけ合いました。
各種目結果は以下の通り。

【男子】
ゆか:ベンジャミン・オズベルジェル(フランス)
あん馬:マリオス・ゲオルギウ(キプロス)
つり輪:ニキータ・シモノフ(アゼルバイジャン)
跳馬:ガブリエル・ブルタネーテ(ルーマニア)
平行棒:マリオス・ゲオルギウ(キプロス)
鉄棒:マリオス・ゲオルギウ(キプロス)

【女子】
跳馬:アリン・フリース(フランス)
段違い平行棒:アリン・フリース(フランス)
平均台:アナ・デレク(クロアチア)
ゆか:アリン・フリース(フランス)

キプロスのマリオス・ゲオルギウ、フランスのアリン・フリースは、ともに東京オリンピックに出場していた選手。

FIGがハイライト動画をアップしています。


▼コモンウェルスゲームズ 北アイルランド代表選手に出場禁止勧告

今年8月にイギリス・バーミンガムで開催されるコモンウェルスゲームズですが、FIGが北アイルランド代表の選手たちを出場禁止としました。

BBC:コモンウェルスゲームズ マクレナガンが北アイルランド選手を大会から封じる事を非難

コモンウェルスゲームズとは、その名の通りコモンウェルスつまり英連邦加盟国がスポーツで競う総合競技大会です。
北アイルランド代表として有名なのが、前回2018年大会種目別あん馬でオリンピックチャンピオンのマックス・ウィットロックを破って優勝した北アイルランド代表のリース・マクレナガン選手。
しかし、このほど、FIG(国際体操連盟)により、北アイルランドの選手を出場禁止とする勧告が出されました。
FIGの見解はこうです。

「この決定の根拠はFIG規約への違反である。FIGによって認可されたあらゆる国際競技会に参加する体操選手は、彼らが代表する国内連盟の有効なFIGライセンスを持っていなければならない」
「2017年、FIGはすでにアイルランド国内連盟のFIG登録下の体操選手と審判員はコモンウェルスゲームの参加資格がないことを、英国体操協会とともに体操アイルランドに文書で通知していた。」

https://www.insidethegames.biz/articles/1123787/birmingham-2022-gymnastics-norn-ireland

北アイルランドは、イングランド・スコットランド・ウェールズからなるグレートブリテン島の西にあるアイルランド島の北部地域の州を指します。
この地域はアイルランド島にありながらアイルランド領ではなく、イギリス領として現在も存在しています。
今回注目されているリース・マクレナガンを含む3人の体操選手はこの北アイルランドの住民。

この北アイルランドを巡って、1998年にイギリスとアイルランド間で「ベルファスト合意」というものが結ばれます。別名「聖金曜日協定」。
この合意により、北アイルランドの住民は自身をアイルランド人とみなすかイギリス人とみなすかの選択肢を持ちます。これがスポーツにも適応されています。
北アイルランドに住むスポーツ選手のほとんどは自身をアイルランド人とし、競技においてもアイルランドの代表として活動することが多いと言います。リース・マクレナガンも例外ではありません。

今回騒動になっているのは、コモンウェルスゲームズ。つまり英連邦加盟国間での競技大会です。
この大会に、イギリスはイギリスとしてではなく、イングランド、スコットランド、ウェールズ、さらにマン島とそれぞれ構成国や地域を代表することができます。北アイルランドもそのうちの一つとして前回2018年大会も出場していました。
ではアイルランドは?という話になりますが、そもそもアイルランドは1949年に英連邦から離脱しており、コモンウェルスゲームズに出場する権利を有しないのです。
そこで、アイルランド代表として競技していた北アイルランド住民のリース・マクレナガンは北アイルランドの代表として前回2018年のコモンウェルスゲームズに出場しました。リース・マクレナガンのみならず、北アイルランドの選手は同様に出場していました。
この事が、FIGから「大会によって都合よく国籍を変えて出場している」と判断され、今回の出場禁止勧告がなされたという事です。

FIGによって認可されたあらゆる国際競技会に参加する体操選手は、彼らが代表する国内連盟の有効なFIGライセンスを持っていなければならない」

先ほどのFIGの見解にもありましたが、北アイルランドを代表するためには、北アイルランド、つまりイギリス国籍を有する必要があると言います。
北アイルランドを代表するためには、アイルランドのライセンスは有効ではないという事です。

コモンウェルスゲームズは総合競技大会なので、体操競技以外の競技も行われます。
リース・マクレナガンのように、北アイルランド住民でありながら、アイルランド代表として国際大会に出場し、コモンウェルスゲームズでは北アイルランドを代表するといった選手はおよそ90名ほどいるそうです。
しかし、今回出場禁止勧告が出されたのはFIG(国際体操連盟)から。つまり、この措置を取らされているのは体操競技選手のリース・マクレナガン、イーモン・モンゴメリー、イワン・マカティアの3名だけなのです。

この措置に対し、リース・マクレナガンはBBCのインタビューでこう言っています。

「とても残念なことです。僕やチームメイトは、少しばかり宙ぶらりんな状態になってしまった。出場できるかどうかわからないというのは、毎日トレーニングに励み、その日に向けて重要な営みを積み重ねていく上で、良い意識が働かない。
それが、今回のような事件で中断されるのは、非常に残念なことだ。私は、国際体操連盟が、この決定が自分たち(体操競技)だけのものであることを認識し、その決定が覆る事を望む。」

https://www.bbc.com/sport/av/commonwealth-games/61610140

さらにSNSでも声明を出しています。

私は、FIGがベルファスト合意と北アイルランド固有の状況の重要性を理解していないと感じています。

反対声明を出しているのはリース・マクレナガンだけではありません。
アイルランド体操連盟も声明を出しています。

アイルランド体操連盟:コモンウェルスゲームズ参加資格に関する声明

歴史的に、FIGは、北アイルランドの市民とアイルランドのFIGライセンスを持つ体操選手がコモンウェルスゲームズに参加する権利を常に支持してきました。FIGが以前に取った支持の立場を継続し、問題の体操選手/役員が来る2022年のコモンウェルスゲームの北アイルランド代表となることを許可するよう要請しています。

さらにアイルランドの副首相がこの件に反応しました。

この判断は間違っている。FIGが再考することを望む。「聖金曜日協定」は、北アイルランドの人々に統一的な地位を提供するものです。それは、アイルランド人、イギリス人、またはその両方であること、そしてそのように受け入れられる権利があるという考えに基づいている

体操競技だけでなく、アイルランドスポーツ界全体に影響を与えています。

FIGは、これについて2つの解決案を提示しています。
①英連邦競技連盟がFIGのカレンダーから該当の競技を削除するよう要請する
②選手が国籍を変更する

①はつまり、「FIG認定の大会である」という事実をなくすという事です。FIGの見解をもう一度見てみましょう。

「この決定の根拠はFIG規約への違反である。FIGによって認可されたあらゆる国際競技会に参加する体操選手は、彼らが代表する国内連盟の有効なFIGライセンスを持っていなければならない」

ここから「FIGによって認可された」の部分を抹消してしまえば、北アイルランド代表が出場できるという案がひとつ。

②は単純に該当選手がアイルランド国籍ではなくイギリス国籍に移すというもの。
こうでもしなければ北アイルランドの3選手は出場できないと言います。


どちらの意見ももっともな気がしてしまいますが、大会まで3カ月、この問題がどのような形に収束するのか見守りたいと思います。


▼NHK杯で採点ミス発覚

先日行われたNHK杯の男子競技で採点ミスがあったという記事です。
大会後に行われた採点検証でミスが発覚したという事です。

デイリー:体操 NHK杯で採点ミス発覚

順位や得点は据え置きですが、代表選考の貢献度選出1人目の条件である「NHK杯10位以内」に影響が出ています。
NHK杯11位だった三輪哲平選手が1人目の貢献度選出の対象に認められるという事です。

これにより、6月の全日本種目別選手権の予選でエントリーしていない種目において、順位には影響しないものの、貢献度獲得のための演技が可能になります。

誰のどの種目のどのスコアにミスがあったのかは言及されていません。
ここで深く掘り下げるような事は避けます。
三輪選手も代表有力候補の一人なので、これが代表選考にどう影響するか。


画像出典

https://www.youtube.com/watch?v=9LqavkNec2Q
https://www.youtube.com/watch?v=0X_1r4aOGoI
https://www.bbc.com/sport/gymnastics/61596695
https://www.nikkansports.com/sports/news/202205310000059.html

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