見出し画像

ゾンダーランドの鉄棒におけるシュタルダーリバルコ

2021年の東京オリンピック出場を最後に現役を引退した鉄棒の神ことオランダのエプケ・ゾンダーランド。
彼の鉄棒の特徴といえば、コバチ系の連続にありました。
2012年のロンドンオリンピックで披露したカッシーナ+コバチ+コールマンの3連続手離し技は世界に衝撃を与え、以降は鉄棒の神として追われる存在になりました。

ロンドン五輪以降も手離し技の連続を武器に世界大会で活躍してきたゾンダーランドですが、
いくらゾンダーランドといえど、得意とする手離し技の連続が成功する時と失敗する時とがあります。
ゾンダーランドは手離し技が予定していた通りにうまくいった時とうまくいかなかった時とで演技構成を変えているのです。

まずは手離し技の連続がうまくいったときの演技を見てみましょう。

※演技構成表は2017-2021ルールを基に作成しています。

手離し技の連続が成功した時

◆2018年世界選手権種目別決勝

画像1

この演技で2018年世界選手権種目別鉄棒金メダルを獲得。
銀メダルにはまだ鉄棒に専念する前の内村航平が付きました。


◆2019年ヨーロッパ選手権種目別決勝

画像2

ひとつ前の動画と同じ演技構成です。
ここでももちろん優勝しています。

◆2020年W杯メルボルン大会種目別決勝

画像3

2019年の世界選手権で予選落ちしてしまったため、2020年は東京オリンピック出場権を懸けてW杯に出場していました。
W杯としてはハイレベルの演技構成を披露し、余裕の優勝を飾ります。

ここまで見てわかるように、ゾンダーランドの鉄棒の演技構成は、
【一】エンドーで入る
【ニ】コバチ系2連続を2本
【三】ひねり技
【四】終末技

という構成になっています。
ここで注目してほしいのが1・2本目の動画でやっている⑧シュタルダーです。

シュタルダーとは、「後方開脚浮腰回転倒立」というB難度の技で、ジュニアからシニアまで、鉄棒のトップ選手まで普く使われています。

シュタルダー

ゾンダーランドはコバチ系の連続技が成功した時はこの⑧シュタルダーを演技に入れる傾向があります。
3本目の演技ではシュタルダーは入れていませんが、3つのDスコアを比べてわかるように、シュタルダーを入れることでDスコアが0.1上がります。

では、コバチ系の連続技が上手くいかなかったときはどうなのか。
いくつか見てみましょう。


手離し技の連続が上手くいかなかった時

◆2018年世界選手権予選

画像7

先ほど1本目の動画で見せた2018年世界選手権の予選の演技です。
ここではコールマン~ゲイロード2と繋げるところをコールマン単独での実施になってしまいました。
しかし、その後にE難度の⑥シュタルダーリバルコを実施しています。
シュタルダーリバルコとは、シュタルダー(後方開脚浮腰回転)から倒立に上げる勢いを使ってとび局面を見せ、その間に1回半ひねって大逆手でバーを握るという大変難しい技です。

「シュタルダーリバルコ」とは通称であり、正式には「シュタルダーとび3/2ひねり大逆手」という技になります。

シュタルダーリバルコ

予定していた演技構成を実施できなかったとあれば、当然Dスコアは予定していたものよりも下がってしまいます。そこでB難度のシュタルダーの代わりにE難度のシュタルダーリバルコを実施して0.3だけ補っているのです。

この演技は2018年世界選手権の予選の映像ですが、先ほど1本目の動画で見せた決勝の演技ではシュタルダーリバルコは入れておらず、決勝では連続技2つを成功させ、終盤にシュタルダーを実施していたという事です。


◆2021年ヨーロッパ選手権予選

画像8

こちらも連続技が上手くいかなかった例。
カッシーナ+コバチと繋げるところをコバチまで繋げられず。
コールマン+ゲイロード2と繋げるところをゲイロード2まで繋げられませんでした。
ゾンダーランドの演技構成における【ニ】コバチ系2連続を2本が上手くいかなかったとなれば、【三】ひねり技にシュタルダーリバルコを入れるという法則が出来上がります。

次は別の例を見てみましょう。

◆2018年ヨーロッパ選手権種目別決勝

画像6

こちらは2018年のヨーロッパ選手権の種目別決勝の演技。
【一】エンドーで入る【ニ】コバチ系2連続を2本ここまではスムーズに成功しました。
しかし、【三】ひねり技の初めのアドラーひねり倒立で車輪が反対側に流れてしまいました。これはEスコアで-0.5の減点がなされます。
そこでゾンダーランドはアドラーひねり倒立の直後にシュタルダーリバルコを実施しました!
Eスコアを失った直後にDスコアを上げて補填するという機転。
元々うまくいかない時を想定しているからこそできる事ですね。

これに似た話だと、橋本大輝選手が跳馬で手を着いた瞬間にロペスにするかヨネクラにするか決めているといった話がありました。
やはり世界のトップに立つ強い選手はいろいろな想定をしたうえで試合に臨んでいることがわかります。

長らく鉄棒のスペシャリストとして活躍してきたゾンダーランドも東京オリンピックを最後に引退しました。
彼の鉄棒は、どんな演技をしてくれるんだろうと胸を高鳴らせてくれました。
北京・ロンドン・リオ・東京と4大会の五輪を駆け抜けたオランダのスター。本当にお疲れさまでした。引退おめでとうございます。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?