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音楽を通して自己表現する喜びを身につけた20歳男性【軽度知的障害】

※事例に関しては個人が特定されないよう一部脚色して作成しております




福祉の現場で長く働いていると、驚くほど楽器をやっている職員が多いことに気付く。特にギターやピアノをやっていた人が目立つ。


そういう職員が必ず遭遇するのが

「行事の時に利用者の前で何か弾いて欲しい」

という要望という名の無茶ぶり。これを喜んでやる人もいれば、徹底的に固辞する人もいる。ちなみに筆者はもちろん後者である。


さらにそのような楽器経験者がリーダーシップを発揮すると、「職員バンド」なる不気味なものが生まれ、施設の行事などで披露される。批判を恐れずにいうと、人生通して音楽をそれなりに本気で嗜んできた自分にとっては、これほどまでに「ダサい」ものはないと思っていた。


そういえば、30年ほど前に人気を博したアマチュアバンドのオーディション番組で、学校の先生が結成した「先生バンド」が出演。全員ジャージ姿で演奏。披露した曲は、日頃の先生の業務を綴りあげて「先生は忙しくて大変」という内容の歌詞をブギ調に歌うものだった。自分も当時まだそのような先生がたにお世話になっている年齢ながら、実に「見ていて恥ずかしい」思いに襲われたものだ。一方で本人たちが必死なのかふざけているのかはわからない。


こういう類のことは極端な事例だとしても、福祉の現場では常に音楽が余暇として使われる。これ自体は悪いことではない。ただ、日常と音楽の絡ませ方に「センス」が問われてしまう。


高齢者施設で、元気が売りの職員はお決まりの「うーさーぎ おーいし かーのーやま」と入所者の前で歌い、拍子を求める。なぜいつもこの曲なんだ?入所者がよく知る曲だから?そうだったとしても、なんとなくセンスのなさを感じざるをえない。


私が学生の頃、某障害者入所施設に実習に行った際、ちょうど余暇でカラオケ大会が催され「実習生も1曲歌うように」と突然無茶振りされた。私含め4人の実習生は、一人は十八番の「浪漫飛行」もう一人は曲は忘れたがB'zだった気がする。女子は当時放送していたNHKの連続テレビ小説の主題歌だったドリカムの曲。私は無難な線を考え、BOOMの「島唄」を歌った。今更ながら、誰も「演歌」や「童謡」を選択しなかったそのセンスに感銘する。




さて、私が一時担当していた20歳の男性のクライエントは、毎月ギター教室に通っていた。少ないお給料を元手に日々丁寧な生活費のやりくりしていたが、どうしてもギター教室の月謝の負担が多すぎた。引っ込み思案だったこの男性の数少ない地域との接点・そして立派な趣味としても続けさせたい思いは、彼の住む地域の支援員からも聞いていたし、自分も同じように感じていた。

ちなみに支援員の誰も彼がギターを弾くのを聞いたことがない。「絶対に人前では弾かない」と決めているようだった。


ある時、私がそれとなく、普段何を弾いているのか尋ねてみると「実は1曲もまともに弾けない」とのことだった。その教室は基本の弾き方を教えるばかりで、話を聞くとまるで音楽の授業のようだった。



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