見出し画像

ウルトラセブンに夢中にさせてくれたかけがえのない恩人【20代後半知的障害男性とのひととき】

※事例に関しては個人が特定されないよう一部脚色して作成しております



新型コロナウイルス感染症との闘いももう1年半に及ぼうとしている。

昨年、初めて政府が感染症対策のために小中高校の一斉休校の要望を出した際、「子供を預けられないシングルマザーはどうするのか」など批判的な声が上がった。


私は小学校の頃から母親が働きに出ていたため、当時の言葉でいう「鍵っ子」だった。学校が終わると誰もいない家に一人帰り、一人で本を読んで過ごしたり、近くの空き地で「壁打ち」(野球のボールを建物の壁に投げて跳ね返ってくるのを捕る)をして遊んだりしていた。多くの子供が家庭用ゲーム機を所持する時代はもう少しだけ先の話。


先程の政策に関しても「一人で留守番させるのも教育ではないか」と思ったりもしたけれど、時代が違うため一概には言えない。ただ、今の子供達が「守られ慣れ」してしまっていることが少し気がかりである。



そんな当時、一人で過ごす時によくビデオで見ていたのがウルトラマンシリーズ。特にウルトラセブンが大好きだった。



多少ウルトラシリーズに造詣がある方はお分かりかと思うが、ウルトラセブンは、怪獣とドタバタ劇を繰り広げる他のウルトラマンとは異なり、知的宇宙人との頭脳戦であったり(登場する敵はほとんどが○○星人という名前)、戦争や公害、人種差別など当時の複雑な時代背景を催したサスペンスであったり、社会への問題提起であったりと、「大人社会」のウルトラマンであった。

その渋さが小学生の頃の自分にとって、ちょっと「大人の世界」に浸れたような、他のウルトラマンが好きな友達よりもちょっとだけ大人でいられるような、そんな気分を味わせてくれた。


「一人で留守番」という貴重な時間が、思いがけず子供達の自発的な「発見体験」につながることもある。「守る」だけではなく、小さな「冒険」もさせてみてはどうだろうか。




そんな幼き時代から15年ほどすぎた頃、私は社会福祉の世界を志し、とある知的障害者入所施設に支援員として勤め始めた。


利用者の一人、20歳半ばのCさんはADL全般にわたり介助が必要な、いわゆる重度知的障害の利用者だった。言語コミュニケーションもなし。ただ、ぱたぱたと一人でも動き回れたり、悪戯して回って遊んだりと、愛嬌のある人だった。


そのようなフリーダムな生き方も素敵だったけど、Cさんの魅力は趣味がとても充実していたところ。車に乗ったり、スポーツ中継を見たり、音楽を聴いたりと、毎日「好きなことに時間を費やす」ことには事欠かない。


ただ、素直に支援員の援助に従わず、常に「自分のやりたいこと」を貫いていた。人への好き嫌いも激しく、受け付けない職員や他利用者に対してはあからさまに敵意を抜き出しにする傾向もあった。



そんな彼の支援をするには、彼に「認めてもらう」必要があった。そうでなければ全く支援に応じてはくれない。

ただ、私は早くから彼の魅力的な部分に惹かれ、前向きに関わる時間を極力作った。

ここから先は

2,151字 / 1画像

¥ 100

最後までお読みいただきありがとうございました。皆様のお役に立てるようなコラムを今後も更新してまいります。ご縁がつながれば幸いです。 よろしければサポートお願いいたします。