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【時事抄】 農林中金の外債売却、金利上昇と為替変動の波乱要因に

農林中央金庫は1923年(大正12年)に設立された金融機関で、銀行免許を持つ金融機関でありながら、金融庁ではなく農林水産省が所管してます。かつては特殊法人でしたが、農林中央金庫法を根拠法とする純粋な民間金融機関となり、約3千人の職員を抱え、JAバンクなどから上がってくる約80兆円の貯金を各県の信用農業協同組合連合会(県信連)を通して運用しています。

実は国内最大規模のヘッジファンドでもあります。農業協同組合(JA)、森林組合(JForest)、漁業協同組合(JF)の系統中央機関の役割を担い、潤沢な資金を背景に資産運用へ軸足を移し、故に米国一流大学のMBA取得者を多数抱えた投資部門を擁しています。同社社員のMBA留学比率は日系企業においてもトップクラスとのこと。略称は農林中金。

そんな”賢い”社員を多数抱える農林中金ですが、巨額の含み損を出して台所は火の車。今年中に「損失確定」させるとのことでが、その額なんと10兆円。今年5月の財務省・日銀による為替介入9.7兆円に匹敵する規模です。

6月19日に掲載された日本経済新聞の記事を見てみます。掲載から少々時間が経過しましたが、市場に影響が出てくるのはこれからという、まだまだ食べ頃のニュースだと思います。

<要約>
農林中央金庫は、2024年中に保有する米国債や欧州国債を売却する。約2.2兆円の含み損を抱えて運用収支悪化の主因となっていた債権の損失を確定させる。売却規模は10兆円以上で、損失処理に伴って当初5000億円超と見込んだ2025年3月の最終赤字は、1兆5000億円規模に拡大する。

約56兆円の運用資産を有する農林中金は、うち4割を占める約23兆円を外国債券で運用する。日銀によると、国内預金取扱機関の外債残高は3月時点で117兆円。その2割を農林中金が占める計算で巨大投資家だ。

欧米の金利上昇に伴い、過去の低利回り時に購入した外債の評価額が低下し、含み損になっていた。欧米の利下げ時期の後ずれを見込み、24年度中に外債売却を進めて含み損を圧縮する。代替の投資先は株式や社債、企業向け融資、プライベートエクイティ(PE)、企業のローン担保証券(CLO)などの証券化商品も検討に加え、多様な資産に分散投資する。

農林中金は25年3月期に損失処理を一気に進めることで、財務と運用資産配分を改め、翌期の黒字化をめざす。財務基盤の強化のため、総額1.2兆円の資本増強に向けた協議を出資者のJAなどと協議中だ。有力機関投資家である農林中金の外債大量売却は、市場にも一定の影響を与える可能性がある。

(原文1150文字→546文字)


債券価格と金利は正反対の動きを取る関係にあります。金利低下で債券価格が上昇し、金利上昇で債券価格が低下します(詳しくは他サイトの解説記事をどうぞ)。

10%近い物価上昇に肝を冷やした米国・欧州の中央銀行が急速に利上げを進めました。恐らくこの利上げ局面の前に購入していた農林中金の外国債券(低利で購入=債券価格は高額)が、その後の利上げ(=債券価格は低下)により多額の含み損になっていたようです。

外国債券の売却を通じて、農林中金は多額の現金(海外通貨)を手にします。資産配分と財務の改善のため、多様な資産に分散投資するとのことですが、財務改善したいのなら、海外通貨を売って、安くなった円を買い、為替差益を手にするのが最も手っ取り早いでしょう。利上げ前に購入した外国債券なら、当時の為替水準はドル円100~110円/$程度だったはずです。

そうなれば、当局の為替介入に匹敵する円高要因になります。

一方、巨額の外国債権の売却によって、一時的にであるにせよ、欧米の主要金利が上昇します(債券売却→債券価格の低下→金利上昇)。米国債売却ならば、米金利の上昇によって米政府の金利負担を増やし、さらには企業の支払金利も増えて、当該国の実質経済に負の影響を及ぼします。

いずれにせよ農林中金の巨額債券売却は、年後半の波乱要因になりそうです。近い将来、意味不明な為替変動、金利変動があれば、「農林中金が動いたのかも」と連想が働くよう、頭の片隅に残しておきたいニュースです。


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