新年快樂(雑記)

 数日前のことである。冬休みに入り時間に自由がきくようになったので、久々に自分で料理でも作ろうと思い、近所のスーパーへ足を運んだ。
 新年前ということで、スーパーへ買い物に来る客はとても多い。入口の自動扉は、入っていく人あり、出てくる人あり。中もどうやら人でごった返しているようなのが、ガラス扉の向こうに見て取れた。その、スーパーの中へ自分も足を踏み入れようとしたその時である。自動扉が開いて中から出てきた人の中に、見知った顔を見かけた。

 向こうもこちらに気づいたようで、ニコリと微笑みながら「シンネンクゥヮイラァ」と声をかけてくれた。大家さんだった。大家さんとは、ついこの前部屋の更新をしたときに半年分の家賃をお渡ししたばかりで、次に会うのは次回更新の時かな、と思っていた。うちは電気代と水道代も自分で払うタイプの部屋なので、大家さんとは年に2、3回会うか会わないかというくらいである。それがこんなところでエンカウントするとは。ちょっとびっくりしながらこちらも立ち止まって軽く頭を下げて「シンネンクゥヮイラァ」と返した。引きこもりの日本人である私は自宅の付近にあまり知り合いが少ないので、道でばったり会った人とこの挨拶を交わすのは、実に初めてのことであった。初めてここに越してきてから、初めての新年を迎え、近所に住んでいると思しき人々がこのやり取りをしているのを見ていいなぁ、と思ってから、三年の月日がたっていた。

 シンネンクゥヮイラァ、のシンネンはつまり新年という意味だ。初めて聞いたときは明けましておめでとうの意味かと思ったが、この挨拶はどうやら年末から年始にかけて使うことができるようである。「良いお年を」と「明けましておめでとう」、両方の意味が込められているというわけだ。そのせいか、日本語をかじったことのある台湾人に年越し前に笑顔で「明けましておめでとう」と言われる場面に出くわす。もし皆さまがそんな場面に出くわしたら、その時はぜひ失笑したりせずに、年越し前は「よいお年を」というのだということを教えて差し上げてほしい。文化の違いなのだ。

 そういえば、何でいまさら新年の話なんか、と思われる方もいらっしゃるかもしれない。お話をするのが遅くなったが、台湾の今年のお正月が始まるのは今日(1月25日)からだからだ。台湾のお正月が農曆(旧暦)に沿って行われるためである。農曆の1月1日は西暦の1月1日とは一致しない。大体1月下旬~3月初旬までの間で、毎年日付が異なるのである。
 まだ大学の言語センターにいたころ、クラスメイトの超美人インドネシア人の子やめちゃくちゃかわいい韓国人の子、とっても頭のいい人のベトナム人の子などから、この時期に新年をお祝いするのだという話を聞いた。案外アジアでは日本の方が少数派なのかも、と思い調べてみたところ、中国、香港、マカオ、台湾、韓国、北朝鮮、ベトナム、シンガポール、マレーシア、インドネシア、ブルネイ、モンゴルといった所で、旧暦(台湾では農暦、と呼ばれる)の1月1日にお祝いをするようだ。東アジアの中で考えると、日本のほうがマイノリティかもしれない。

 新年にはどうやって過ごすのかというと、除夕と呼ばれる大みそかには家族で年菜とよばれるお節料理のようなものを食べたり、過行く年を惜しみ、両親の長寿を願うという理由で守歲といって夜更かししたり、紅包とよばれるお年玉を送ったり色々である。紅包には、9以外の奇数が入る金額を包まないとか、ピン札を入れるとか、色々ルールがあるらしい。他には拜拜したり、ご先祖をお祀りしたり……新年なんて来なけりゃいいのに、という人の話もよく聞くくらい忙しい。見た感じ一家のお母さんが一番大変そうだ。

また、新年の時にはしてはいけないということも多い。私がしっているものをざっと書き上げてみると、

1.水神様の誕生日なので、シャワーを浴びたりお風呂に入ったりしてはいけない。運気が水で流れてしまう(1~2日)。
2.上と同じ理由で、洗濯をしてはいけない(1~2日)。
4.料理をしてはいけない。除夕まで作ったものを余らせて、食べ物が余りあるように願う。
3.おかゆを食べてはいけない。おかゆは昔は貧乏の象徴で、たべるとその年1年貧乏になってしまう。
4.お医者さんに言われている指定のもの以外は、薬を飲んではいけない。でないと1年中薬を飲むようになってしまう。
5.昼寝をしてはいけない。だらけていると仕事運が悪くなってしまう。
6.刃物を使うと縁起が良くない。
7.ごみを捨てたり箒で掃いたりなど、掃除をすると財運まで掃きだしてしまう。
8.殺生をしてはいけない。同じ理由で肉や魚を食べてもいけない。
9.お金の貸し借りをしてはいけない。借りた人はお金にこまる1年となり、貸した人は財産が流れる一年となる。
10.寝ている人の名前を呼んで起こしてはいけない。呼ばれた人が周りから催促される一年になってしまう。
11.寝ている人に新年のあいさつをしてはいけない。その人の健康運が下がる。
12.汚い言葉を使ってはいけない。もし子供がうっかり汚い言葉を使ってしまったら、周囲の大人が「童言無忌、童言無忌(子供の言葉に禁忌無し)」と言う。
13.食器を割らないように気を付ける。もし割ってしまったら「歳歳平安」と言う。
14.3日目は鼠の嫁入りの日なので、明かりを消して早く寝る。外出も控えて家でゆっくり休む。
15.4日目は竈王爺(かまどの神様)が家人を点呼する日なのでうちにいる。
16.6日目は送窮といって、家をきれいにし、ごみを出して、窮神(貧乏神か?)を追い出す。

台湾人の皆様は本当に全部守っているのだろうか? という多さである。せっかく台湾にいるので、なるべく台湾の方々と同じように過ごしてみたいものである。

台湾在住者による台湾についての雑記と、各ウェブサイトに寄稿した台湾に関する記事を扱っています。雑記については台北のカフェが多くなる予定。 そのうち台北のカフェマップでも作りたいと思っています。