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【ニアーライト考察】カジミエーシュの栄光、斜陽。そして太陽は再び昇る(アークナイツ)

【注意】この考察は非公式であり、ネタバレや個人の見解、推測を含んでいます。また、今後の展開次第で公式設定とはかけ離れた考察となる可能性がある点を予めご了承ください。


騎士道という言葉があります。

Cambridge Dictionaryによると、騎士道(Chivalry)とは「名誉、慈愛、武勇を重んじる中世の騎士の行動様式を指す」言葉とされています。

12-13世紀にかけて発展したこの行動規範はキリスト教とも縁が深く、神への献身を誓う戦士の規範でもありました。騎士にして神学者であったラモン・リュイによって執筆された『騎士道の書』…「騎士道の法典」と呼ばれるこの書物に騎士道の起源を求めると、次のような説明がなされています。

博愛心、忠誠心、品格、正義、そして真実が世に陰る時、残虐さ、暴力、不実と偽りが姿を表す。そして世に秩序を戻すために選ばれし者こそ、騎士である。 愛と尊敬、それは憎しみと不正義の対極である。騎士は、その気高い勇気、善い振る舞い、寛大さ、そして名誉をもって、人々より愛され畏敬される存在たらねばならない。そうして騎士は、愛によって博愛と秩序を世に回復させ、畏敬によって、正義と真実を世に取り戻すのである。

レオン・ゴーティエ「騎士道」(武田秀太郎 訳、中央公論新社)

忠誠、公正、勇気、武勇、慈愛、寛容、礼節、奉仕、高潔、清貧…これらの価値観を美徳とする騎士は、吟遊詩人たちによって美化され謳いあげられていたものの、現実として必ずしもその建前を忠実を守っていたわけではありません。

中世ヨーロッパでは敵地を攻城戦の末に落とした際、略奪や破壊、虐殺といったことが頻繁に行われていましたが、騎士たちもそうした狼藉に無縁と言えず、有名な事案では13世紀のローマ王であるルドルフ1世は略奪を働いた強盗騎士たちを処刑しています。

騎士とは生まれついての身分や階級ではなく叙任されるものであるため、貧しい兵士が騎士身分に取り立てられることもありました。生まれと問われないことから騎士としての栄誉に憧れ、田舎から旅立った者も少なくありません。

自らの力を試すために方々を渡り歩く騎士は「遍歴騎士」と呼ばれ、中には各地の大領主が主催する武芸試合に出て金を稼ぐ者も。武芸試合では騎士たちによる模擬戦があり、勝った側のグループが捕虜を取って獲得する身代金は、騎士の収入のひとつでもありました。

本来の使命を見失った騎士たちに待ち受けていたのは没落で、軍事的価値を喪失し始めた15世紀には傭兵部隊が主流となり、転身を余儀なくされた騎士たちは少なくありませんでした。

やがて戦闘において火器の使用が一般的になると、騎士たちは戦士としての役割を終えます。

さて、アークナイツに目を移すと、”競技騎士”たちによるエンタメで成り立つ街を舞台にした「ニアーライト」は、史実における騎士たちをベースとしながらも、スタジアムを思わせる建物を有し、無線飛び交う現代的な都市を描いており、様々な組織による数多の陰謀渦巻く群像劇を演出していました。

レッドパイン騎士団、二アール家、ロドス、無冑盟、商業連合会、監査会、競技騎士たち…登場する組織や人の数だけ物語があり、メインストーリーで最も長い8章のテキスト量を凌駕するサイドストーリーは、メインシナリオ8.5章と称しても過言ではないほどの物語性を秘めたお話です。

掘り下げるほどに新たな発見のあるニアーライトではありますが、その全てを詳らかにすると膨大な文章量となってしまうため、本記事ではカジミエーシュはどのような国で、耀騎士二アールは何を考え、その国に対してどのような影響をもたらしたのか、まとめていきます。


カジミエーシュとポーランドの歴史

かつて、騎士の存在により台頭したカジミエーシュは、今では騎士競技でその名をテラに轟かせている。大騎士領カヴァレリエルキ。このネオンと騎士が彩る都市で、伝統的な騎士道と利益至上主義のビジネス志向が今なお激しく衝突を繰り広げている。

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カジミエーシュ(Kazimierz)という単語は、かつてポーランドに存在した王朝「ピャスト朝」にて王位に就いたカジミェシュ(Kazimierz)という王の名と同じ綴りです。

13世紀、ピャスト朝のポーランドは内部紛争と経済・社会的な衰退の最中にありました。モンゴルによる西への侵攻は当時のヨーロッパ全土を震撼させ、ポーランドもまたこの侵攻による国の荒廃に悩まされています。

代弁者マルキェヴィッチ:

カジミエーシュの歴史書をいくつかお読みになったことがあれば……今日ある我々の社会が、どれほどの「正しくない」行いの上に建てられたものか、お気付きになることと思います。

貴殿は理解していらっしゃらないかもしれませんが、ペガサスの国がナイツモラのもたらす混乱によって転覆し、次いで騎士の国が建てられたあと、真っ先に団結し始めたのは従者たちだったのです。

ニアーライト NL-7 戦闘前 夢の余韻

ナイツモラ…ニアーライトにおいて、他の競技騎士たちとは一線を画し、自らは「ケシク」という戦士であり、ハガンを追い求めた追魔騎士トゥーラには、上述の要素を見出すことができます。

ハガン(Khaghan)とは北・中央アジアの遊牧国家、とりわけモンゴル帝国皇帝の称号を意味することのある言葉であり、ケシク(kesik)とは、その皇帝を護衛した親衛部隊を指します。

モンゴルの侵攻に際して、ポーランドの諸王侯はプロイセンのドイツ騎士団と共同防衛にあたり、以後ドイツ系住民の急増によってポーランドの伝統的な慣習は新しい価値観を獲得します。


その後、分裂状態にあった14世紀のポーランドを武力ではなく外交によって統一したカジミェシュ3世ヴィエルキは、貴族の権力によって疲弊していた国家を司法制度の導入によって改め、社会的弱者によって農民を手厚く保護してその生活改善に努めた他、西ヨーロッパで迫害されていたユダヤ人を保護することで移民による商業的発展を実現する功績を残しており、大王という異称で今でもポーランド紙幣の肖像として使われているなど、名高い人物となっています。

保護されたユダヤ人は都市を築き、商業や銀行業を始め、彼らのビジネスノウハウや文学や進んだ技術や高い能力を認められ大公などの側近を勤めポーランド経済の柱となりました。

ナイツモラによる混乱、騎士の国、団結した従者たち(商業連合会の始まり)…といった要素は上記の歴史にインスパイアされたものでしょうか。

ポーランドと上述のドイツ騎士にまつわる最も有名な歴史の一つが、1409年に勃発したポーランド・リトアニア・ドイツ騎士団戦争です。

異教徒の改宗という口実でポーランド・リトアニア合同を侵攻したドイツですが、全面戦争の準備が整っていなかった両陣営は停戦を挟み、中世ヨーロッパ最大級の戦闘とされるタンネンベルクの戦いで、ドイツ騎士団は衰退の一途をたどります。

以後、ポーランド・リトアニア合同は中東欧の覇権国家にのし上がり、ポーランドの軍隊は重騎兵から槍騎兵へ、やがては比類なき戦力を持つ部隊として世界的に名高い有翼重騎兵フサリア(ユサール)へと進化を遂げました。

カジミエーシュは馬をモチーフとしたクランタの国ですが、このフサリアは当時のポーランドで最先端だった品種改良によって生み出された軍用馬による突撃が特徴となっています。

都市と文明、塔

――都市とは、怪物である。際限なく人を喰らい、飲み込んで、ひとつところに押し込める。それでもなお、我々は胃袋の底で、もたらされる恩恵を戴いて過ごさねばならぬのだ。

ニアーライト NL-ST-1 幕間 生成発展

冒涜的な存在により常識の崩れ去った街を舞台にした冒険譚『潮汐の下』、摩訶不思議で幻想的な水墨画の世界へ誘われた『画中人』といったイベントとは対象的に、『ニアーライト』は騎士という西洋の歴史的文化を添えながらもその根底には、資本によって肥大化し、個を貪り喰らう”都市”という極めて現代的な機構が描かれていました。

ネオンの光に慣らされた人々の目には、道標とするような星々の燦きは見えず、どこに向かっているのかも分からないまま”怪物”に飲み込まれていきます。

ごく少数の生き残った者たちはみな――このカジミエーシュの社会に取り込まれて、時代を動かす器官となった。

ニアーライト NL-ST-3 幕間 眠れる都市

経済という合理性を受け入れた都市は自己を拡張することを追求したシステムであり、そこに住まう人々を栄養源に変えながら”繁栄”を目指す。カジミエーシュの外から来た人間の眼にこの怪物は異様に映り、その歪な有様に不快な感情を抱く描写がなされていました。

文明とは、ヒトが作り出した高度な文化や社会を包括的に指す言葉ですが、それ自体に善悪の概念はありません。都市は、追魔騎士トゥーラの言葉を借りるならば、野蛮を征服したのちに自らの塔を打ち立てます。

すべての苦しみの上にそびえ立つ、塔が。

ニアーライト NL-4 戦闘後 詩の容貌

文字は想像を表現するための符号だと口にした燭騎士ヴィヴィアナは、幼少期に高塔へ幽閉された経験から”塔”という単語を自らを縛る、逃れることのできない不条理な運命そのものを表現する言葉のように使いました。

歪なカジミエーシュを表す”塔”という表現は、繰り返し登場します。

カジミエーシュって……まるで塔みたいになってるんだよ。一番下から、らせん状に伸びていく階段の頂上を見上げようとしたところで、そんなもの永遠に見えやしない。

ニアーライト NL-4 戦闘後 詩の容貌

権力で築かれた塔の上には、一つ前の時代では騎士が、現在ではドクターの言葉を借りるならば「今のロドスが接触するには、時期尚早の手合い」である商業連合会の取締役が。時代の変化に応じて都市はその首を挿げ替え、文明の繁栄と共により強固なものへとその身を変えていきます。

この都市への向き合い方として、ニアーライトでは大きく分けて3つのパターンが描かれました。


1つは、都市を受け入れる者。

都市は輝かしい未来という甘美な餌によって人々を誘い、やがてはその大きな口で獲物を飲み込みます。なまじ実力がある者ほどその有用性を見出され簡単には手放してはもらえず、突きつけられる要求の数々にいつしか摩耗し、価値が無くなれば有効期限の過ぎた商品のように捨てられる運命です。

多くのカジミエーシュの競技騎士たち、そして無冑盟や商業連合会の取締役さえも都市が伸ばす不可視の手からによって、ひたすらにカジミエーシュという名の高い塔を建設させられ続けます。

この大地にいる限り、この手からは逃れられない。

赤松林 幕間 風にたゆたう


1つは、都市に刃向かう者。

カジミエーシュの歪んだ一面に嫌悪感を抱き、その堕落し果てた文明を討ち滅ぼす。感染者騎士のように、現在のカジミエーシュがもたらす恩恵に与っていない立場の人々ほど都市に抗います。

しかし、都市にとってはそんな抵抗でさえも糧でしかありません。

ソーナは初めて知覚した。
自分は、得体の知れない大きな存在によって、踊らされているにすぎないのかもしれないということに。

ニアーライト NL-6 戦闘後 包囲された者

抵抗の果て、仮に塔の上にいる存在を討ち果たしたとしても、都市の前進は止まらず、”怪物”は次なる首を用意するだけです。


そして、最後の1つを言葉にするならば「都市を照らす者」。

受け入れるのでなく、抗うのでもない。そんな第3の選択肢をとった騎士とよく似た栄光は、過去にも存在していました。


かつての栄光、斜陽

ニアーライト本編から遡ること幾年前。希望の見えない戦火の中、カジミエーシュ騎士の一部が、補給も通信手段もない状況下で孤立しました。

敵の師兵団砲兵師と機動部隊が捜索を続ける中、わずか7人の騎士たちが救助作戦に参加し、30人以上の同胞を救出、その後東に向けて包囲を突破した騎士たちが最終的に3,000人もの敵を討ち果たしたという伝説は、カジミエーシュにおいて「黄金平原の夜明け」として語り継がれています。

包囲を受けたすべての騎士を救うと誓った英雄こそが、耀騎士二アールの祖父であるキリル・ニアールです。

苦難と闇を恐れるべからず

ニアーライト NL-10 戦闘後 耀騎士

元々ニアール家の家訓だったこの言葉は、シルバーランスペガサス騎士団の武具に刻まれ、規範となりました。

伝説を打ち立てた当時の戦で、キリルと共に戦い続けたイオレッタ・ラッセルは後に大騎士長…監査会のトップとなり、カジミエーシュ指折りの戦力である征戦騎士たちを率いる立場となります。


しかし、大地を照らす太陽は、いつまでも空で輝き続けているわけではありません。時間と共に陽の光は傾き、やがて夜の帳が下ります。

耀騎士ニアールのプロファイルによると、マーガレットの両親は監査会が下した重大な任務の中で失踪を遂げました。マーガレットが「監査会の腐敗と堕落」と口にしているように、民を守るべき立場にあった征戦騎士たちにも陰りが見えます。

……商人が台頭してきて、カジミエーシュが商業連合会に掌握されるまで――貧民から搾取し、民衆を抑圧していたのは誰だと思う? 感染者を吊るし上げて殺し、権力で築かれた塔に籠もっていたのは、一体誰だと思う?

答えは、騎士さ。

ニアーライト NL-ST-4 幕間 未知と未来

英雄キリルでさえも都市の変貌は止められず、腐敗と毒に満ちた土壌ではなく外の、厳しくも広大な大地で優秀な苗木を植えようと試みた結果、若きマーガレットはカジミエーシュを後にします。


苦難の果てに導き出した答え

………私が経験したものは……惨劇だ。天災の中で、都市が崩壊するさまを。

――感染者が罪のない民間人を殺戮し、警告としてその遺体を積み上げて燃やすさまを。

――貧しい人々が賞金稼ぎに虐げられ、弄ばれるさまを。

――汚染されていない食糧や水を手に入れるために、両親が幼い子供を売るさまを……すべて、目にしてきた。カジミエーシュにいた頃は想像もしていなかったような、苦難と闇を多く見てきた。だが、同時に……その苦難の中、地を這ってでも進んでいく人々をも見てきたんだ。

ニアーライト NL-10 戦闘後 耀騎士

龍門やチェルノボーグなどの都市を巻き込んだ、大きな反乱と対峙したマーガレットは、怒号と悲鳴の飛び交う戦場を目にすることとなります。

マーガレットは、レユニオンによる暴動の中で大地を破壊する天災よりも強大な炎をその身で受けました。

ニアール:世界の全てを……燃やし尽くす火焔だ。

暗黒時代・下 1-7 戦闘後 暴君


レユニオンとの抗争の中で血の通った人間たちと相対し、信念を知り、最終的にロドスは黒蛇の息がかかった炎との戦いに終止符を打ちます。


何が正義で何が悪かを簡単に断じることのできない混沌とした戦いの果て、マーガレットはただ敵を討ち果たすだけでは本質的な問題を解決することはできないのだという価値観を芽生えさせました。

炎では、人々の心の矛盾は焼き払えない。

はるか遠くの人々も、その黒煙を見るだろう。だが、その塔は彼らの故郷、日々を暮らす我が家かもしれないんだ。

ニアーライト NL-4 戦闘後 詩の容貌

そして、マーガレットが導き出した答えは「大地を照らす」ことです。

かつての栄光を取り戻すことで腐敗を打破しようとする監査会と、強固な経済基盤を築き上げることで他国に引けを取らない国力をつけると豪語する商業連合会。

自らの陣営の都合を優先する権力闘争の根底には、手段や方法は異なれどもカジミエーシュという国をより良きものにしようとする思想が存在します。

その本質を見抜いたマーガレットは、築き上げられた塔を焼き尽くすのではなく、正義とは、栄光とは何かを自らの行動によって示すことで、都市を、ひいては大地を照らすことを決めました。

その行動の一つが、ニアーライト本編におけるクライマックス、最後の行進です。


2人のチャンピオンによる凱旋

商業連合会は、企業の息がかからない独立騎士、そして感染者が優勝することで変わりゆく世論を危惧し、2つの勢力が結びつくことを阻止しようと画策します。

その一手が、耀騎士二アールが感染者でないことを宣言し、無冑盟を動かした一幕でした。

感染者でないと宣言されたことを逆手に取り、マーガレットは感染者である血騎士を支えながらその後チャンピオンウォールで執り行われる授賞式へと向かうことで、感染者・非感染者という括りを超えてその栄誉を分かち合うという意思を表明しました。

その様子はさながら戦争に勝利した凱旋パレードで、傍目には決勝戦で敗北した血騎士でさえもその栄誉を讃えられているようにも映ります。

「卑怯だ」と感染者騎士から声が飛んでいる通り、この行進だけではマーガレットの持つ考えの全てを示すに不十分ですが、少なからずレッドパイン騎士団は彼女の行動に心動かされ、二人の護衛についています。

マーガレットと血騎士による行進は、耀騎士に照らされた人、賛同する人、支える人の存在を浮き彫りにしました。

観客席にいたアーミヤとシャイニング、そしてバー常連メンバーが無冑盟の刃からマリアとゾフィアを守り、無冑盟でもトップクラスの実力を持つラズライト二人の動きをトーランド・ムリナールが妨害、追撃を試みる代弁者マッキーの動きは燭騎士ヴィヴィアナが牽制、そして極めつけは一騎当千の軍隊である「銀槍のペガサス」が護衛についたことで、商業連合会の狙いは崩されます。


この行進は、耀騎士ニアール一人では、決して成し得ない行為でした。


空虚な理想

カジミエーシュにおいてどれだけ輝かしい人物であろうとも、個人である限りは塔に取り込まれ、その光は地上を照らすことができなくなります。

その事実を正しく認識していた一人が、ムリナールでしょうか。

マーティンや皆が無冑盟の標的となる可能性を、考えていなかったのか?
マリアとゾフィアが大騎士領で平和に暮らしていくことなど、できなくなるかもしれないとは思わなかったのか?
お前が手にしているのは、空虚な理想だけだ。

ニアーライト NL-9 戦闘後 溜息

物言いは厳しくも、ムリナールはカジミエーシュでの現実を正しく示しています。彼もかつては、屍が山と重なる戦場や、荒廃した死の土地、果てには砲火に焼き尽くされた要塞を越えた生ける伝説の一人でした。

しかし、かつてカジミエーシュを照らした英雄キリル・ニアールでさえも大地を照らし続けることは難しく、いつしか陰り、騎士時代の栄光はやがて色褪せます。

ムリナールはそんな父が築き上げた都市の変貌と、堕落した監査会の暴走の果てに兄夫婦が姿を消した事件から、大地を照らす英雄ではなく、都市という”怪物”に目をつけられないようひっそりと親族を守る一人の家長へと自らの立ち位置を変えました。

ムリナールにとっては不特定多数の民衆を率いる存在であるよりも、大切な家族を守ることの方が重要であったのかもしれません。だからこそ、ムリナールが言い放った「心底失望した」という発言の裏側には、彼が必死に守ろうとした親族の平穏を崩す結果をもたらしたマーガレットへの憤りが隠されており、これは幼き頃からマリアやマーガレットを支えてきたムリナールだからこそ言える言葉です。


英雄である父の背中を見てきたムリナールは、一つの太陽が永続的に大地を照らせないことを誰よりも理解しています。

たとえどれだけ輝きが強かろうと、時間と共に陰る運命を変えることはできません。

ムリナール:お前が理解されることなど、ないんだぞ。

ニアーライト NL-ST-4 幕間 未知と未来


誰も塔に抗い続けることなど。





しかし、もし大地を照らす存在が一人でないのだとすれば、その運命が辿る結末はどうなるでしょうか。



大地を照らす数多の光

せめて、私とリズは彼女の背中を照らせますように……。
――シャイニング

ニアール第四資料

マーガレットの側には、同じく光を放つことのできる心強い仲間がいます。

シャイニングと対峙したモニークは、耀騎士の仲間はキラキラするのが好きな連中なのかと冗談を飛ばしましたが、彼女はその穏やかな光の中に底知れない強さを感じました。

光をもたらす存在となるためには、その崇高な精神と、それを実現できるだけの確かな実力が必要となりますが、夕日の如くと比喩される圧倒的な光を放つシャイニングもまた、マーガレット同様に大地を照らすことのできる存在です。

ロドスが誇る一線級のサルカズ戦士によって、ニアール家暗殺計画を妨害された無冑盟は一矢報いることすら許されませんでした。

そしてシャイニングは、ある方向を見やり……僅かに口を動かす。

モニーク:……「四本目」、って言いたいんでしょ?ほんと……恐ろしい相手だわ。

ニアーライト NL-10 戦闘後 耀騎士

そんな輝き(Shining)が太陽の及ばない陰を照らしてくれるからこそ、マーガレットは前へ進むことができるのです。


大地を照らす手段は、何も太陽だけに委ねられているわけではありません。

燭騎士は、「蝋燭1本分」の尺度を意味する「燭」という名を持つ自らを卑下しますが、マーガレットは「燭」称号ではなくヴィヴィアナを名前で呼ぶことで、その輝きに制限が無いことを示しました。

ヴィヴィアナの好んだ詩集『双とカレンデュラ』。カレンデュラとは、ラテン語「月の最初の日」を意味するKalendaeに由来し、元々はローマ人が新しい月の満ち欠けの始まりを指す言葉として使用していました。

か細い燭火ではなく、太陽からの光を受けることでその燐光のような輝きを放つ月であれば、漆黒の闇夜を明るく照らすことができます。

今宵、カレンデュラは彼女のために咲き誇る。

敵図鑑「燭騎士」ヴィヴィアナ



メジャー優勝後、マーガレットはレッドパイン騎士団と共にロドス駐カヴァレリエルキ事務所を設立します。

ロドス・・・方舟の騎士たち。

救いのない夜が、何度も通り過ぎてゆく名もなき世界。たとえ冷たい運命に飲まれようとも、方舟の騎士たちは灯火を手に、潰れそうな夜も歩みを止めることはありません。

一つ一つの灯火が小さくとも、その焔が受け継がれる限り、行くべき道は照らされ、ながいながい夜の後には、再び太陽が昇り、夜明けが訪れます。


かつてメジャー優勝という栄誉によって輝いていたマーガレットですが、複雑に絡み合う思惑により、その光は一度地平線へと沈みました。

故郷を追われたマーガレットは、結果としてシャイニングとリズという心強い二人の仲間に出会います。

3人は感染者援助団体『使徒』として、感染者を治療しながら各地を回り、やがてロドスへとたどり着きました。

『使徒』とは、狭義にはイエス・キリストに選ばれた福音を宣べる十二使徒を指す言葉です。

十二使徒は「伝道」を目的としていました。

正義と信仰のために自らの命を危険に晒すことを厭わなかった使徒たちは、都市や国を超え、世界中に彼らの信仰を広めることに成功します。


カジミエーシュを照らす騎士であることを選択したマーガレットは、ロドスでの経験によって固めた信念を広める伝道者であるといえ、シャイニングやリズたちもまた、己の過去に決着をつけることでロドスの信念を伝える存在となっていくのかもしれません。


マーガレットは方舟騎士の一員として、ロドスの『使徒』として、大地を照らす存在であり続けます。

無数の理想主義者が時代という巨大な車輪に轢かれて我を見失い、他者を変えようとする中で自身までも変わってしまっているが、ニアールは常に、己の道を行く。何度も何度も、天をも覆う巨大な波に突進して行くのである。

耀騎士ニアール第四資料





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