見出し画像

くらしのてざわりの結晶

チューリンガと呼ばれるものは、僕たちの文化ではないけれど、くらしのてざわりの結晶のようなもののようです。

オーストラリア先住民(アランダ族、アルンタ族)たちの文化にあるもので、自身の生まれ変わりであった先祖たちを象徴とした石や木で、その石や木はくらす風景の中に溶け込み、その風景は先祖たちも自然と一緒になってつくりあげてきた風景です。


Tjurunga bb_cy_sa_4.0

石か木で作られた物体で、形はほぼ楕円形をしており、両端は尖っていることも丸みを帯びていることもある。そして多くはその上に象徴記号が彫り込まれている。しかし時には、単なる木片か石ころで、なにも加工されていない場合もある。外観がどうであれ、チューリンガはそれぞれきまったある一人の先祖の肉体を表わす。そして代々、その先祖の生まれ変わりと考えられる生者に厳かに授けられるのである。チューリンガは、人のよく通る道から遠い自然の岩陰に積んで隠しておく。定期的にそれを取り出して調べ、手で触ってみる。またそのたびごとに磨き、油をひき、色を塗る。それとともにチューリンガに祈り、呪文を唱えることを忘れない。

『野生の思考』 P286


オーストラリア先住民たちは、くらしのてざわりの結晶であるチューリンガがここかしこに潜む、先祖たちとともにくらすような文化をもちました。


僕たちの日本文化でも似たようなくらし方があったはずです。くらしの範囲、生まれ育った風景、目の届く範囲を此岸とし、まずそこから出ることのないその外側から向こうを彼岸とし、此岸と彼岸とのあいだに石や木などがあり、先祖たちを奉る神社の原型のようなものに、時おり訪れ、いのり、あるいは家から、はたらいているときに、時おりそちらに向かって拝んでいたのではないでしょうか。

僕たちもまた、昔は、先祖たちとともにくらす文化をもっていたはずなのです。過去と切れてしまった今をくらす生き方はクールですが、過去を温め、過去すらも今にあるようなくらし方があったことを、参考にしたいなぁと僕は思っています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?