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悪人の「くらし」と納税拒否

では、ファリブリズムとはどんなであるか深掘りしていきましょう。

とその前に、
ファリブリズムが誕生する少し前を、今回含め何回かにわたって見ていきます。ファリブリズムを現代思想に持ち込んだのはパースと考えられますが、そのパースの生まれ育ったケンブリッジから歩いて数時間ほどのところ、コンコードという街に有名な哲学者たちがいました。

ガンジーやキング牧師に大きな影響を与えたと言われるソロー、そのソローや内村鑑三、宮沢賢治にやはり大きな影響を与えたと言われるエマソン。このふたりはパースの20〜30くらい年上で、すぐ近くにくらしていたのです。

ふたりは超絶主義と呼ばれたりします。どんな考えをもっていたのでしょうか。またどんなくらしをしていたのでしょうか。まずはソローを見てみたいと思います。

いちばん近い人家から一マイルほど離れたマサチューセッツ州コンコードの森に入って、ひとりで暮らした時のことです。私はウォールデン池のほとりに家を建て、自分の手で得た糧だけで生活しました。私はそこで二年と二ヶ月を生きました。
『ウォールデン 森の生活』 小学館文庫

人里から離れたところを一人きり、自給自足のくらしをしていたようです。

私がウォールデン池に住む目的は、お金なしで暮らすためだったり、思いきり森に親しむためではありません。ウォールデン池こそ、一市民としての大切な仕事を滞りなく進めるのに、障壁が少ない最適の場所だと考えたからです。
同書

ソローは、シンプルに自分の本当にしたいことをするためにウォールデンでくらした、と言います。

私たちはいつの時代にも、新しい贅沢をますます多く手に入れることばかり考えてきました。それなら、これからはずっと、ますます少なく暮らす方法をすべての人が考えてもいいのではないでしょうか?
同書

シンプルに、シンプルに・・

私は、簡素に賢く暮らせば、地球で自分の身を養っていくのはなんら辛いことではなく、楽しみと信じており、経験からもそうと確信しました。
同書

さて、そんなシンプルなくらしをしていたソローは刑務所に放り込まれます。

森の家で暮らし始めて、最初の夏が終わりに近づいたある日、私は靴屋に修理に出した靴の片方を受け取りに、村に出かけて官憲に逮捕され、拘置所に入れられました。逮捕の理由は・・・私が税金を払わなかったからです。つまり私が、議事堂の前で、男、女、子どもを家畜のように売買する国の権威を認めないからでした。
同書

奴隷制度を認める州を認めないために納税を拒否していたのでした。ソローはくらしと社会をこのように見ます。

私が森で暮らす理由は、それとは関係がありません。ところが、人はどこに行こうと、どこで生活しようと、人が作る汚れた制度の手のもとに引き戻され、絶望が支配する歪んだ社会に入れられてしまいます。私は、実力で抵抗することもできたでしょう。社会に対して“荒れ狂う”ことで対決もできました。けれども私は、社会のほうが私に対して“荒れ狂う”ままにさせるほうが正しいやり方だと考えました。なぜなら、社会のほうが、絶望の集まりだからです。
同書

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