見出し画像

【セミ・キャノンボール】年始早々、大阪から神奈川まで自転車で走ってみた話。

三十路「節約も兼ねて、実家から家まで自転車で帰っていい?」
妻っち「お正月だし、そんな無理しなくても」
三十路「趣味なもんで」
妻っち「……。(呆れ顔)」

去年の伊豆大島2人旅


キャノンボールへの憧れ

自転車乗り界隈、特にロングライダー界隈には「キャノンボール」という言わすと知れたチャレンジがある。

東京〜大阪間(約550km)を24時間以内に走り切るというもので、見事達成した人は「キャノンボーラー」として、ちょっと(かなり)自慢できたりする。

キャノンボール(以下:キャノボ)は、ただ走り切るための脚力・体力だけでなく、ルート選びから、補給計画、スケジューリング、体調調整、風向きチェックなど、自転車における総合力が求められるチャレンジだ。
(もちろん脚力は全てを解決するのだが…)

ブルベなんかの長距離を走っている人なら得意そうな分野だが、550kmという長距離を、平均時速23kmで刻み続けるのは並大抵なことではない。

このキャノボにいつか挑戦してみたいと思っていた。

実家が大阪にあるため、やろうと思えばできる環境にあり、過去に一度「セミ・キャノンボール」と題して、大阪・交野の実家から、横浜までの500キロは挑戦したことがある。

2022年夏、石榑峠(トンネル)、箱根峠を通過するルートを走った

この時は途中でゲリラ豪雨に遭ったり、体調が万全でなかったこともあり、一時避難や仮眠など、500キロに28時間30分も要してしまった。
もちろん身体はボロボロ。手の痺れがしばらく取れなかった。

今回は、その「セミキャノンボール」のいわばリベンジの記録である。

今回予定していた500kmのルート

2023年2月3日(火)13:00

家族に見送られ、大阪・交野市を出発。
まずは大阪から名古屋へのルートは、最短+一番登りの少ない伊賀ルートを選択。

出発直後。家族が運転する車から撮ってもらった。

前回のチャレンジで序盤を飛ばしすぎたため、後半、筋肉の疲労で身体が動かなくなった反省から、今回はペースを抑えて、27km前後の楽なペースで走る。(サイコンをつけていないため感覚です)
調子がいいと踏んでしまい、後半で痛い目を見るのが悪い癖だ。

まずは京田辺から木津川沿いに伊賀へと向かう。
木津川にはサイクリングロードが引いてあるため、信号もなくスムーズ。サイクリストも多い。

木津川サイクリングロード
気温はわりと高く手袋も外していられた

木津川市からは関西本線、木津川と並行するようなルート「京都いづみチャーミングロード」を走り、伊賀に向かう。
誰が命名したのだろうか。なんとなくメルヘンだ。

途中、早くも首の痛みを感じため、サドルの前を少し上げ、位置を後にずらしてみる。
たぶんこれでなんとかなるはず。

ロングライドにおいて、痛みはメンタルをかなり削ってくる。少しでもそこはなんとかしたい。

木津川の河川敷にはキャンプ場がいくつかる。この日も、お正月休みだけあって賑わっていた。
(たたガラガラの場所もあり、何か違いなんだろうか…)

河川敷にたくさんのテントが写っているのがわかるだろうか

軽いアップダウンを越えていくと、伊賀の標識。
さらに進むと景色が開けて、伊賀市街が見えてくる。山間に現れる雰囲気が「忍者の里」感を漂わせる。

伊賀の入口

15:40 伊賀市へ

伊賀上野城がよく見える

伊賀市街はそんなに広くない。あっという間に市街を抜けると、亀山・関に抜ける古くからの道「大和街道(奈良街道)」へ。
人気が少ない農地に挟まれた一本道を淡々と走る。

途中、高速に入るように誘導してくる場所が一箇所あるので、そこは注意が必要だ。(わかる人にはわかる。左に行ってすぐに右だ)

このあたりから日が暮れるはじめる。

この日のために新調したウェア「la passione」の冬用ジャージ。車から目立ってなんぼと、オレンジ色にしてみた。

暗い中の峠道はなかなか怖いもので、なんとか日暮れ前には亀山・関に抜けたい。
気持ちペースを上げて登り小さな峠をパス。
ちょうど反対方向からもサイクリストが登ってきた。
サドルバックをつけていたので、同じく自転車旅だろうか。
軽く会釈をして、健闘を祈る。


16:30 三重県亀山市へ

下り始めるとすぐに見えてくるのは巨大な採石場。
その先にある砕石工場もサイバーパンク感があって見応えがある。
ぜひ稼働しているところも見てみたい。

巨大な要塞のような砕石工場

普段からトラックが行き来しているのだろう、路面も荒れている。
小さな集落を抜ける、再度山道へ。

しばらくすると、関だ。
宿場跡や道の駅もあり、ちょっとした休憩もできる。
大昔は鈴鹿峠を下ってきた旅人をこの宿場町が癒したのだろう。

以前この道の駅で食べた、「天かす俵むすび」が美味しかったので、期待して入ったが残念なことに売り切れ。
さっさと後にする。

亀山から鈴鹿までは、バイパスを走ることになる。
「ここ自転車いいの!?」とビクビクするような道だが、ダメとは書いていないので、尾灯を2灯つけて駆け抜ける。幸いにも追い風。

四日市からは1号線(東海道)に入る。
「あとは名古屋まで一直線だ」

マップを確認せずに走っていると、突如として自動車専用道路の文字。
「あれ?」

いつのまにか名四国道を走っていた。
名古屋に入るところからは、名四国道に入るのだが、四日市内は自動車専用道だったとは。
しぶしぶと、西に進路を変えて東海道へ。

員弁川を渡り、再度名四国道へ。
右折せずにこのまま東海道を走り続けるルートもあるのだが(こちらの方がクラシックなルートのよう)、大回りでなおかつ信号の多い市街地を通るので、名四国道を行くようにしている。

揖斐川、木曽川を渡り愛知県へ。

19:23 愛知県へ

揖斐川、木曽川を渡る橋

名四国道は交通量も多く危ないので、特に橋は歩道を走る。
(これまで歩行者を見たことがないので、人通りも少ないのだろう)

20:00 名古屋

名古屋に入ったあたりで、そろそろお腹がすいてきたので、吉野家で休憩。
(それくらいの余裕はあると思っていた…)

吉野家の定食でしっかり補給。温かい食べ物はメンタル回復に良く効く。

しっかり食べて再出発。
名四国道は、名古屋市内で自転車通行不可の橋もあるため、2ヶ所ほどは歩道を走る。
お正月の夜だ。
人っ気ひとりない。

名古屋を抜けるあたりで、歩道もない橋もあるので、東海道に移り、そこからは浜松までひたすら東海道を走る。

徳川家康の郷である、岡崎、豊川、豊橋の街並みを走る。風情がありなかなか好きなルートだ。
ところどころ東海道の古き良き雰囲気が未だに残っているのも素敵なところだ。

0:06 岡崎、豊橋、豊川

豊橋市にある古くからの常夜灯
古の旅人に想いを馳せる
以前走ったときに撮った写真(岡崎から豊川へ向かう途中にある)
同じく過去の写真。岡崎と豊川の間

浜松に入るにあたって、当初は浜名湖の北側を走るため、本坂峠(本坂トンネル)を走るルートを予定していた。
しかし暗闇の恐怖に負けて、東海道をそのまま走ることに。
(夜の峠は好きじゃない。正直に言って怖い)

東海道を走り続けると、「太平洋岸自転車道」のルート表示が出てくる。
湖西市に入った証拠だ。

この後は沼津あたりまでは、基本この自転車道を走る。
しばらくすると浜名湖が見えてきた。

1:12 浜松市・浜名湖

まったくわからないと思うが、浜名湖を渡る橋である
月明かりに負けないくらい星が綺麗だった

太平洋岸自転車道では浜名湖の南を走るが、実は北側を走った方が湖を楽しむスポットが数多くある。
前者は平坦だが距離あって景色は普通のルート。後者は峠を越えるが、距離が短く、かつ景色がいいルート。

今回は前者を選んだかたちだ。

浜名湖を過ぎると、浜松、磐田、袋井、掛川とひたすら平坦を進む。
ただ基本的に追い風のため、非常に楽できる区間だ。

偶然にも疾走感のある写真になった。両脇は東海道らしい松並木だ。
月明かりが元気づけてくれる。

4:40 掛川市、島田市

掛川から島田にかけては、ひと峠。
「小夜の中山峠」(さよのなかやまとうげ)
島田側に、遠州七不思議の「夜泣き石」という岩がある。
(赤子の鳴き声を発した岩らしい)
少々ホラーだが、この横を通るわけではないので、安心したい。

峠だけあって、街頭も無い暗い区間もあるが、満点の星空が元気をくれた。
車通りがほとんど無かったので、一部ライトを消して、星空を楽しみながらヒルクライムを楽しんだ。

小夜の中山峠
小夜の中山峠から見る富士山

島田に入ると、大井川、藤枝・瀬戸川を渡りいよいよ静岡市へ。

5:50 藤枝市

瀬戸川

藤枝と静岡の間にあるのが、「宇津ノ谷峠」だ。
太平洋岸自転車道のルート通りに進むと、少々峠を登らされ、さらに大正時代に作られた古いトンネルに案内される。
ここは、国道1号に沿って作られている、自転車通行可の歩道を走る。右側を走ることになるので、注意して案内板を探す。
偶然にも先を行く自転車乗りがいて、ついて行くことで、間違わず行けた。
このルートだと無駄に登らず快適だ。

ちなみに、明治時代に掘られたもっと古いトンネルなんてのも現存しているらしい。(夜になんて通りたくない)

6:10 静岡市へ

藤枝にかかるあたりで夜が明けてきた
宇津ノ谷峠への道

静岡市にはいるとすっかり朝。
そしてさすがは静岡。富士山が綺麗だ。

阿部川のほとりにて

7:30 静岡市街

「眠い。すごく眠い」
ついに眠気がやってきた。

時間の余裕もだんだん無くなってきたが、ここらへんで一度休憩することに。
コンビニで、カップラーメンとおにぎりを、メガシャキで流し飲んで、気合いを入れる。

前回走ったときには、静岡では身体の節々が痛く苦しみながら走った記憶があるが、今回は特にそう言った不調はない。
「今回はいけるぞ」

妻っちに無事の連絡を入れて再出発。
メガシャキのおかげか眠気吹き飛び、前回途中休憩に使った駿河健康ランドを絶好調でパス。

8:40 由比

駿河健康ランドのすぐ横。遠くに見える山並みは伊豆半島。


由比に入るあたりの太平洋岸自転車道も間違えずに歩道コースから由衣市街に。
由衣を抜けると立派な富士山がお出迎えしてくれた。

9:20 富士宮市

日本の東西を分ける富士川にかかる橋から

富士川を渡ると、沼津までひたすら真っ直ぐ東海道を走る。

古くからの松林の道が最短ではあるが、松林の向こう、海岸線に並行して走っている道がある。
防波堤の上がサイクリングロードになっているのだ。
「せっかくの絶好の天気だ。気持ちの良い道を走ろう。」
松林に延びる道を入ると見えてくる防波堤。そこを登ると…


10:5 沼津市

広大な駿河湾が広がっている

ザザァ……。
風と波の音だけの世界が広がっていた。

「寄り道してよかった」

時刻を見ると10時過ぎ。
自宅まで頑張っても4.5時間はかかるだろう。
「24時間切り、今回もだめだったかぁ…」

完走を目標に切り替え、防波堤を行き止まりまで進み、再度東海道へ。

ザ・東海道という感じの道

沼津、島田と進み、最後の難関裾野の登り。
御殿場の標識を目がけてペダルを進める。

登りが始まる。

「御殿場と言ってもなかなか登るもんなんだな」

これを越えるとあとは下り。使える体力は惜しみなく使おう。
天気も最高、気持ちの高まりと共に、自然とペースも上がる。

10:50 裾野市

坂をひたすら登っていくと、なぜか行き止まり。
「?」

沼津ICとある。
付近の看板を見ると。

「愛鷹広域公園?」

急いでマップを確認すると… 

どうでもいいところで、なぜか左折。
愛鷹山目がけて一心にペダルを回していた

「!?!?」

なんと、一生懸命、登っていたのは愛鷹山だということが判明。
テンションが一気に下がる。

「今、けっこう足使ったよ…」

変な汗が背中に一気に出る。
「まじかよ。明日仕事だぞ、俺。」

この登りを無駄にしないルートはあるだろうかと、Googleマップを探す。
「……。」

一度下るしか方法がなさそうだ。

「自分のアホさに殺される…」
ブツブツと愚痴をこぼしながら、先程登った坂を下り、もともとのルートより少し上の、246号線(裾野バイパス)から御殿場を目指す。(下りきる精神は残っていなかった)
歩道を走るので、飛ばせる道も飛ばせない。

悔しさを、LINEで妻っちにぶつけると、
「明日も仕事だし無理せず、輪行したら?」
と。

12:10 御殿場市

道に迷いながらも御殿場に到着

御殿場に着いたあたりで、ルートアプリで自宅までのルートを検索。
「6時間……」

すでに、24時間は切りは無理だと諦めていたものの、この時間にはさすがに心が折れた。
なんたって明日仕事やん。

家族と仕事あっての、自転車ライフだ。
身体もかなりきている。

「まあ…いいか。」

悔しさと安堵の入り混じった気持ちを胸に、御殿場駅で自転車を解体し、電車に乗り込む。

国府津駅にて乗り換え待ち

電車に揺られていると敗北感が沸々と沸いてくる。
リタイアの連絡を入れると、妻や見送ってくれた両親は「英断」だと褒めくれた。

「こういう日があってもいい。これでいいんだ。これで」
そう言い聞かせながら、眠りに落ちた。

また頑張ろう。

fin.

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?