うさぎさん(絵本)
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ある日、うさぎは夜空を見上げていた。一人でただ見上げていた。
遠くの家から母さんの呼ぶ声がした。うさぎはまだここにいたかった。だけど帰らないといけなかった。
いつものようにうさぎは見上げていた。すると夜空の中に輝く一つの星を見つけた。
他の星より特別きれいなわけではなかったけど、うさぎはその星を気に入った。
その星を夜、ふとんの中でも思い出した。
次のあの星を見ようと出ていった。しかしどこにも見当たらなかった。
そしてうさぎはあの星を探しにゆくことに決めた。
翌朝、誰もが眠っているとき、まとめておいた荷物を持ち、うさぎは静かに外に出た。
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それからうさぎはいつも母さんと買い物へ行く道を思い出しながら歩いた。
そこには多くの建物や人がいることを知っていた。
歩いていくら経つと、道が分かれていた。
いつもどちらに行っていたのかうさぎは覚えていなかった。
右には畑が広がっており、美味しそうなにんじんや、きゃべつなどが、おひさまをたくさんを浴び豊かに育っていた。
左の道はコンクリートの黒っぽい道がどこまでも続いていた。
そんなときうさぎはあの星を思い出した。
あれは夜空の中にあった。
きっとそこは暗がりの中だったし、あの星が明るすぎて、きっとおひさまも驚いて近づけない。
だからうさぎは左へ行った。
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大きな足がすぐ横を通り過ぎる。
うさぎはどうしたらよいのかわからなくなり、あてなくさまよった。
うさぎは路地裏を見つけ、そこに素早く逃げ込んだ。
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もううさぎはすっかり怖くなり、路地裏のゴミ箱のすみっこに隠れた。帰る道だって分からなかった。
そんなとき汚いねずみが口に何かくわえながら話しかけてきた。
「よぉ、お前、俺達の邪魔をするつもりか?」
「そんなつもりじゃないよ。僕はただ道に迷っただけなんだ」
「あっそ、どっか行けよ。見られてると気が散る」
うさぎは前足を胸のところでぎゅっと合わせ、そこに顔をうめた。そして一時の間そうしていた。
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うさぎはとても怖がりだった。
うずめた前足からすこし外を見てみると、いつの間にか白色に黒のぶちが入った大きな猫が隣りに座っていた。
また何か文句を言われないか気がかりで居心地がもっと悪くなった。
それでもうさぎは
(僕が先にいたんだ。かまうもんか)
とすまし顔をして無視をすることにした。
だが猫はとても静かだった。聞こえてくるのは息を吐く大きな空気の音だけだった。
うさぎはすこしだけ猫の方を見てみた。猫は何か不機嫌そうな顔をしてただ座って目を閉じていた。
(そんなに嫌なら僕が出ていってやる)
うさぎは小さなお尻を上げた。
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すると突然
「君はうさぎだろ?きっととても素早く走るんだろうなぁ」
と猫がうさぎに話しかけた。相変わらず目は閉じたままだった。
うさぎはとても驚いて猫をじっと見つめた。
「...僕は兄弟の中でも一番足が遅いんだ。きっと猫さんより遅いよ」
「末っ子かい?」
「うん」
「今に君は兄さんたちより早く走れるようになるさ」
「どうしてそんなこと猫さんにわかるんだよ」
うさぎは怒って立ち上がった。
「君はうさぎだろ?」
「そうだよ」
「うさぎは早いものだ。君はきっと誰より早くなるさ」
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うさぎはまた座り直した。だけどうとうとして眠ってしまった。
今日はいろんなことがありたくさん疲れてしまっていた。
眠りの底でうさぎは多くのことを思い出していた。
母さんのあたたかいごはん。兄弟からいじめられたこと。それなのに遊ぶのは楽しかったこと。
すると自然と涙が出てくるような気がした。
うさぎはそのまま眠ってしまった。
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ゴトン!!!
大きな音でうさぎは目を覚ました。
(誰が起こしたんだ!)
うさぎはねずみがまたゴミ箱の上で中を漁っているのを見つけた。
ねずみはうさぎがじっと見つめているのに気がついた。
「やぁ、あんた、そこで何してんだい?」
「お昼のねずみ?」
「知らねぇな、だが俺たちは多いんだ。そしてここが俺たちの仕事場ってわけさ」
「ふーん」
「もう一度聞くけど、あんたそこで何してんだ?」
「何もしてない」
「うさぎってのはのんきなもんだ。何もしなくたって生きてけるんだからさ」
うさぎは何も言わなかった。
「俺たちは今日食うものを探してんだぞ、そこにいたら危険だぜ。俺たちの仲間が横取りに来たって噛み付くかもしれないからな」
うさぎはゴミ箱からすこし離れた。
「まぁ、仲間ってほどでもねぇけど。じゃあ俺は行くぜ。かえって飯を食わせなきゃなんねぇ」
ねずみはゴミ箱をかけ降り、今日のご飯をくわえ、路地裏の奥へ消えていった。
その夜うさぎは眠れなかった。
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周りが明るくなってきた。うさぎは眠い目をこすった、眠れなかったのだ。
うさぎのまわりは、うさぎのよく聞こえる耳を使ってもとても静かだった。
それから、人の足音が近づいてくるのがわかった。
すると路地裏にコックが大きな荷物を運んできた。
コックはゴミ箱にバラバラと大量のゴミを入れた。
とてもひどいにおいにうさぎは思わず顔をしかめた。
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コックは路地裏から出ていき、明るいところに行ってしまった。
うさぎも外に出たくなり路地裏の端っこまで行ってみた。
そこからのぞいてみると、逃げ込んだときと同じようにたくさんの足が動いていた。
(こんなに朝早くだってのに!)
黒い足、肌色の足、赤の足。硬い音、つぶれるおと、カサカサという音。
うさぎはどうにも怖くなり、またゴミ箱のすみに隠れた。
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路地裏に一匹のきれいな犬がやってきた。
そしてうさぎの顔をペロペロと舐め始めた。
「やめろよ」
「このあたりにうさぎさんがいるのは珍しいわね。お家はどこ?帰らないの?」
顔をなめられ鬱陶しく思いながら、うさぎは答えた。
「用事があって来たんだ。それに帰り道がわからないんだ」
「あら、迷子ちゃんなのね。かわいそうに。でも大丈夫よ。私たちは帰り道を知っているものよ」
「どうだろ、少なくとも僕にはわからないや」
犬はまだ顔を舐め続けている。
「本当よ。あなたはまだ気がついていないだけ」
「ふーん。僕にもわかるかな」
「もちろんよ、かわいいうさぎちゃん」
そう言ってうさぎの顔をまたぺろっと舐めた。
「あらいけない、そろそろご主人様が帰ってくる時間だわ」
うさぎは顔を舐められなくなり、ホッとした。
「またね、かわいいうさぎちゃん」
そう言うときれいな犬は迷わず路地を出て帰っていった。
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帰り道は分からなかったが、うさぎは家に帰ることにした。
星を探しに行きたがったが、それよりも母に会いたくなっていたのだ。
路地裏から明るい通りに出、足と足の間を一生懸命に走った。
またあの猫に会いたかったと思った。
走っている途中であの猫の姿を見た気がした。
名前を呼ぼうとしたがうさぎはそれを知らなかった。
猫は雑踏に紛れ見えなくなってしまった。
うさぎはそれから走り続け、ついに分かれ道まで戻ってきた。
家には明かりが灯っていた。
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うさぎは母にこの数日間会ったことを話したがった。
「ねぇ、母さん。おもしろい猫に会ったんだ」
「そうかい。でも今は手を洗っておいで。お腹空いたでしょ。ささ、食べましょ」
うさぎは面白くないと思ったが、手を洗って兄弟たちのところへ行った。
「どうしてうさぎのだけにんじんが多いんだよ母さん。ずるいよ」
兄弟たちは口々に言い募った。
うさぎはいたたまれない気持ちになった。
「久しぶに帰ってきたんだから当然よ。心配したんだから」
と母さんはいった。
うさぎは言いたかったことを言わないことにした。
自分だけが知っていればいいと思った。
そして久しぶりの美味しいご飯をお腹いっぱいに食べた。
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