芸人の嘘が真実になる瞬間

志村けんが亡くなった週に、金スマで過去に本人が出た回の再放送をしていた。その中で、志村けんとドリフターズの出会いについての話があった。学生時代ビートルズの日本公演に行って、その前座をドリフターズがしていた。だから「そこで運命の出会いをした」なんて言っていたけど、本当はドリフターズが前座をした公演と志村けんが参戦した公演は別だった。「やっぱりそこで出会ったって言った方がウケがいいからさ」なんて語ってるインタビュー映像を見ながら、私の母親が驚いた声で言った。「(亡くなった直後の)ワイドショーで『出会いはビートルズのライブだった』て取り上げられてたのに!」多分ワイドショーのスタッフは生前の何らかのインタビューでも見て、それをそのまま紹介したんだろう。
芸人なんてみんな嘘つきなんだろうな、と思う。正確に言えば、みんなエピソードを盛るくらいはしてるんだろうな、と思う。今朝ポッドキャストで聞いた「宮下草薙の15分」は、そんな「嘘のエピソード」に関する話だった。「宮下が草薙の朝ごはんを作ってあげていて、その代わり毎朝お金を貰っている」というテレビで何度か話していたエピソードが、実際は誇張したものだった、という内容である。宮下草薙は熱心にとは言えないまでもそこそこ追っている存在だからそのエピソードは知っていたし、突飛なエピソードの割にその真偽を疑ったことはなかった。まあ「嘘でした」と言われればそうですよね、としか言えないのだけど。2、3回作ってその時ノリでお金を取った、という「真実」は現実的でしっくりくるものである。
宮下草薙なんかは特に2人の異常性みたいなのを全面に出してるコンビで(芸人コンビなんて大半そうだけど)朝ごはんエピソードはそれを確固たるものにするもののひとつだった。でも真実を見てしまえば二人の世界は思ったよりは私たちに近い普通の世界である。
芸人の話すことなんかに真偽を問うちゃ行けない。エピソード聞いて笑って、それが嘘だと分かったら「うそなんかい!」と笑うのが丁度いい。もっといえば、「朝食を作ってあげている」のは、それが嘘だと知る瞬間まではそれが真実なのだ。なにが本当かなんて考え始めたらキリがなくなる。エピソードはいわば芸人たちの作り出す世界で、その世界の中ではそれは真実なのだ。「嘘だった」と言われるまで、言われなければ一生、その世界の話をきいて笑っていきたい。
……なんていいつつ、ラジオでは嘘つかんといてくれよ、と思う(別に宮草に限らず)。ラジオはやっぱり芸人の素が見れる場所であってほしい。たとえその真実がつまらなくたっていいからさ。本当の、私たちの世界と繋がった世界の話をきいて笑ったり共感したりする、ラジオはそんな所であってほしい。
だから今回の15分は私の中でとてもいい回だった。「宮下草薙の15分」は2人のささやかな日常を垣間見れるとても大好きな放送なので、ずっとこのかんじで続いてくれればなあと切に願っている。

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