団地の遊び 学級会議

学級会議

 小四、小五、小六と、クラス替えがなかった。担任も同じ先生だった。
 子供時代の時間は長い。この三年間というのは、要するに、長かった。
 学級委員は、簡単に言って、三年間で八人がやった。男子女子一人ずつ。成績のいい奴が、学期ごとに代わりばんこでやっていたーーー多分。
 その中で、女子四人。結論を先に言えば、この四人、「アイツらに言われると、なあ」担任先生ですら、ついそう言ってしまう、発言力を持っていた。女四天王とも呼ばれている。
 学級会議の時など、ほぼ独断場と言ってもいい。
 男の学級委員は、何をしていたのだ?ということになるが、なにをしていたのか、あまり記憶にない。ただ、女子学級委員には、負けていない、そういう気構えだけは、確実にあったのは覚えている。
 なぜなら、最後に締めるのは、男学級委員が、やっていたからである。
 自分は、足が速いだけのバカだったので、すみっこのほうで、おとなしくしていた。発言したって相手にされないのだ。もし、手を挙げたりしようものなら、なんだ!と驚かれたろう。
「先生。前から聞こうと思っていたのですが、なんでウチのクラスは机の並びがこうなんですか?」
 女学級委員四天王の一人Kが、早速、議題を持ち出す。ちなみにKが一番強かった。
 普通、机は黒板が正面に見えるよう並んでいる。ところが、ウチは、横に並べていた。教室の真ん中で、東向き西向きと机の方向が分かれる。すまない筆力不足で。意味がわかってくれただろうか。
 給食のときは、ガタガタと机を動かし、班ごとにむかえ合わせにくっつける。考えてみたら、こんなメンドーくさいこと、よくやっていたな、と感心する。べつにそのままでもいいではないか、という気もするが、後半はそのままだったような気もする。
 つまり、机が黒板と直角に並んでいるので、前を見るためには、首を、曲げなければならない。
 ところでさっきの、なんで机をこんなふうに並べてるのか?という質問の答えだが、すまない、全く覚えていない。なんか先生が言ったのだが、記憶にない。
 この件に関して、多数決が、取られたような、気がする。すると、ピッタリ、半分になった。確か、三十九人か四十人が、全クラスだったと思う。奇数なら、誰か休んでいたのだろう。
 元学級委員Sが言った。女四天王である。「もう少し検討してもいいと思います」
 つまり、机正面と机横の長所短所について、議論が始まる。
 自分は後ろの席で、どっちでもいいなあ、と、いいかげんに聞いていた。横の女四天王の山岡が、熱心にメモをとっている。マジメだなコイツ、と、だらしなくダラーと頬杖をついて眺めていた。
「オマエ、学級委員じゃないじゃん」「前やってたでしょ」山岡はだからどうしたと言うように答える。
「たまには何か意見言ってみたら」
「給食で好きなのは揚げパンだけだな」「あたしも好きだけど・・・って、おい!」
 山岡が怒る。ズバ抜けて成績のいい女である。
「そこ!なにか?」議長の学級委員YFが、こっちを指差す。男である。
すると山岡が「揚げパンが一番おいしいって言ってます」コッチを指差す。クラスに笑いが起こる。
「マジメにやってください!」
 一番強い四天王Kが怒る。四天王Tが「進めて下さい」腕組みして言う。
 自分は下を向き小さくなる。足が速いだけのバカで目立たない奴なのだ。
 山岡の仕事は、要するに書記をやっていたわけで、よくやるなあ、と感心しながら、ほとんど寝ている自分だった。
 さっきから、時々、山岡の足が、自分の足に当たる。気にもしなかった。足を動かした時、当たってるのだろう、そう思っていた。こっちは半分寝ている。学級会議がどうなってるのかなど、まるで頭に入っていない。
 キーちゃんとYH3もダラけている。ちなみに自分の席は一番後ろである。山岡は、この席を嫌がっていた。優等生は前に座りたいらしい。
 それにしても山岡の足がよく当たる。ハッキリ目を開けて横を見たら、なんか怖い顔をしている。
「何か発言しなさい」
 山岡がコッチを見てるので、仕方なく小さく手を挙げた。「川の流れは変わる」山岡が小声を出す。
「おっ珍しい。どうぞ」男の学級委員YFが指差す。
「川の流れは変わると思います」
「うん。そういうよね」YFが頷く。
 すると四天王Kが、「これで終わりにしたいと思います」
「そうします」YFが締める。
 話の流れが、まったくわからなかった。山岡が、何をしたいのかも、まったくわからなかった。
 結局、学級会議は自分の発言を最後に終わったようであった。
 それ以降、山岡は機嫌が良かった。何十年とたった今でも、なぜ山岡が自分に言わせた発言で機嫌が良くなったのか、そしてそもそも川の流れとはなんなのか、永遠にわからないナゾとして、令和の世に残っているのだった。

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