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足し算から、引き算の時代に。

 先日4/30(木)、以前からずっと会ってみたかった建築家・西田司さんとオンラインでお話をした。西田さんが新しくはじめられた東京理科大の研究室のオンラインゼミ『コロナの時期の過ごし方を面白がる建築学生ラジオ』に呼んでいただいたからだ。これまでに、じぶんの知っている人達も何人か参加していたので、過去のアーカイブも聞いてから参加することにした。お題の通り学生さんたちがいまどのように時間を使ったらいいかを考え始めた。いまやった方がいいことを考えていたら、気づくといまやらなくていいことを考えていた。ニューノーマルの教育、働き方は、足し算から、引き算へと変化しはじめているかもしれない。

 ぼくが三年ぶりに住み始めていた東京は、その前に住んでいたときと比べて格段に居心地がいい。満員電車もないし、会社に行かなくてもいい。家にいて、じぶんの脳内工場の電源をオンオフ切り替えるだけでいい。それはきっと学生さんも同じことだ。オンラインで授業を受けれれば無駄移動も省ける。余った時間を、これまでの生活の外に見つけに行ってもいい。幸いなことに、いまインターネット上に無数の情報、学習できるコンテンツがそろっている。ぼくの学生時代に、新型コロナはなかった。その代わりに、ぼくは留年をして、半年をパリで過ごすことになった。パリに行くことはじぶんで決めたわけだが、その先になにがあるかは知る由もなかった。結果、フランス語はまあまあ上達したし、ヨーロッパの建築事務所のスピード感と働き方を肌で感じ取った。

 一か月と少し前、ぼくはニューヨークはブルックリンに住んでいた。ブルックリンといえばおしゃれな街といったイメージがある人もいるかもしれない。実際、住んでいても毎日、本当にびっくりするくらいおしゃれな街だなと思っていた。なにがそうさせるかいろんな要因がある。でも、一つ確実なことは若い人が誇りを持てる場所だということだと思う。東京にそういう街があるかどうかは正直わからない。若者が街をつくり、街がそれを後押しする関係。逆に、デベロッパーが次のブルックリンをつくろうとした街はことごとくうまくいかない。というかひどい。なにが言いたいかというと、若い人には街すらも変えてしまう力がある。都市に集まって住む必要はもうない。リモートで学ぶことができる世代は、リモートで世界とつながれる。若い力が集まってできる、次のブルックリンが日本にも見たい。

 リモートスタートではあるものの、ぼくも東京での社会人生活がはじまって一カ月が経とうとしている。仕事自体はそれなりにはかどるし、同僚の意見を聞いてもおおむねそんな感じだ。しかし、二週間ほど前にいくつかの現場が止まりはじめて、少し空気が変わった。遅かれ早かれそれが起きることをわかっていた。ニューヨークではインフラ、病院、アフォーダブルハウジング以外の工事が今から一カ月以上も前に止まっていた。新型コロナの影響に関して、飲食や観光業界などに比べると建築業界はゆっくりとしたダメージであった。というか、まだまだこれからなのかもしれない。いまリモートでいけてるなとは思ってるのは甘いのかもしれない。建築は現場に依存しきっているからだ。もちろん、それが建築の宿命だという見方もある。でも、ぼくは建築家という職業はコミュニケーションの仕事だと思う。かたちをつくることが全てではない。その長いプロセスを辛抱強く、多くの人を巻き込みながら、ときにはだましだましやっていく。建築が以前ほど、かたちになる時代ではなくなってしまったのかもしれない。しかし、高いコミュニケーション能力と「もの」に迫る忍耐力のある、建築家の存在は、新しい時代の建築あるいは都市にも必要なはずだ。そして、なにかひとつでも、人に頼らずにものつくりをできる回路を持つことも、有効なスキルとなりそうだ。

 コロナ以前の世界では考えることが難したっかた「通学をやめる」、「都市をやめる」、「(これまでの)建築をやめる」ことで見えてくる景色について、いまこの時期に考えてみてはいいのではないだろうかと、やや上から目線で話させていただいた。さて、このゴールデンウイーク、なにを引いて見よう。

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https://www.youtube.com/watch?v=AnheSlgWSlM&feature=youtu.be


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