改めてリベルについて

 昨年、2019年の9月に「リベル」をスタートし、1年と少しが経ちました。始める前はこんなことできるのかなぁと思って始めたのですが、少しずつ、自分たちのやりたいことも確認しながら形になってきていると思います。1年が経ち、リベルについて自分で考えられるようになってきてもいるので、少しずつ考えを残していきたいと思っています。今回は、なんでリベルというサービスをやっているのか、今時点の考えを書き残してみたいと思います。

 リベルの着想は、自分がどんな事業やサービスをやるのか悩んでいた時期にあります。僕は、こんなことをやってみたい・自分はこうありたいというような、個人の内発性の維持に寄与できる事業やサービスを作りたいと思っています。内発性の維持にこだわるのは、単純にそういう心持ちの人と話すのが楽しいですし、自分もそんな人生を送りたいからです。あと、そういう人たちが作ったプロダクトやサービス、活動は、マニアック感があって好きです。

 しかし、これまでいくつかサービスを始めてみたものの、利用者にとっての価値が低いと感じたり、コレジャナイ感を感じたりして立ち往生していました。ユーザーインタビューをしても分からない、ビジネス書を読んでも思い浮かばない、そんな時期がありました。そんな時、決して答えをくれたわけではなかったけれど、少しだけ考えや気持ちを前に進めてくれたのは、いわゆる教養書と呼ばれるようなジャンルの本でした。人の本性に迫ってみたり、歴史の繰り返しを知ったりしていると、抽象的だけれどこんなものを作ってみたいと思わせてくれたり、視野を広げてくれて良いのか悪いのか「まぁこんなもんか」と思わせてくれたりしました。なんだかちょっとしたブレイクタイムのような時間をくれる知識や本だと思ったのです。

 ただ、問題はその難解さと長さです。歴史学・生物学・社会学などなどの本は、とても勉強になるけど、とにかく長くて難しい。前提知識がなければ、読み飛ばすかWikipediaで頑張って調べるかしかありませんでした。誰か、自分にとって必要な部分だけを自分のレベルに合わせて抽出してコンパクトにまとめてくれ、と思っていました。早く自分のやるべきサービスを見つけたかった僕には、難しくて分厚い本を丸一日以上かけて読む(しかもビジネス書のようにすぐに役に立つ保証がない)心の余裕はありませんでした。この時点では自分でやるつもりはなく、誰かやってくれという感じです。

 その後、いろいろなプロトタイプみたいなものを作りながらユーザーインタビューをしていると、あることに気づきます。今の世の中って実は、挑戦の機会よりも、少し休んで自分が何をしたいのか・何があるべきなのかを考える時間の方が必要とされているのではないか、ということです。自分がそうなのですが、どんなサービスをつくろうかと考え焦るあまり、自分が何をしたいのか・いいと思っているのか、人は何を求めて幸せになれるのかを考える時間がおざなりになり、最終的にそこでつまづいているのではないかということです。課題を探したり、現状分析をしたりして解決策を作ろうとしても、それが本当にいいものなのか、いまいち自信が持てない、自分の心を震わせられない、そんなつまづきポイントが存在するのではないかと思ったのです。

 そんなことを感じた時、「誰かやってくれ」と思っていた、教養的な本を必要な部分だけコンパクトにまとめて提供するということが、そのまま自分がやりたいことにつながるのではないかと思い至ったのです。つまり、休日(のような時間)の小一時間程度で、人って何を求めるんだろうねとかどうあったらいいんだろうねと考える時間が、長い目線で内発的な気持ちを維持してくれると思ったのです。自分が最終的にやろうとしていることをブラッシュアップしたり、思い返す時間として、人や社会について根源的なところから考える時間がモチベーションの維持に必要だと思いました。そこで、自分でやろうと思いました。

 リベルで出している短編本は、既存の本の要約ではありません。既存の本は参考にしていますが、その本を元にテーマをイチから考え、著者である大学の先生に直接お話を伺い、構成を練り作成しています。テーマは、当初は事業作りに参考になるようなものを考えていましたが、今はもう少し広いテーマ設定になっています。コミュニケーションのあり方や才能の見つかり方や、あるべきライフスタイルなど、生活や仕事全般に関するものになっています。なぜなら、いい生活・いい仕事のあり方を見つけることが、日々を前向きにしてくれて、前向きに過ごせる日々はそのまま人生や事業のあるべき姿になると考えているからです。遠くを見過ぎるのではなく近くを大切にすることで、実は大きくて中身の詰まったビジョンが見えてくるのではないかと考えるに至っています。また、分量は新書の30〜40ページくらいで、なるべく専門用語を使わないように心がけています。最初はこんなもの作れるのかと思っていました。歴史学や生物学などの普通に生きていたら遠いところにあるような知見を、生活や仕事に根ざしたテーマで、しかも短く分かりやすくまとめることなどできるのか、いやできないだろうと思っていたのです。しかし、何度考えてもやるしかないように思えたので始めることにしました。

 今では、読書会などで直接感想をいただいていて、新たな気付きやものの見方を、負担なく得てもらえているのではないかと思っています。つまり、コンテンツとしては作成できることが分かり、なんとか形にできるだけのノウハウがたまってきつつあります。時間ばかりが過ぎていく焦りはありますが、当初できるかどうか分からなかったところから考えると、進歩なのだと考えたいと思います。

 さて、コンテンツを作れるようになったので、次はいかに多くの人に読んでもらうか、そしていかに持続性と発展性のある事業として成立させていくかの段階に入っていきたいと思います。いかに多くの人に読んでもらうかはなかなかに難しい…。今は読書会を開いて、そこに来てもらって初めて読んでもらえています。もっと自然に、そして価値を感じてもらって読んでもらえるようにしていきたいです。事業としては、ここはストレートに短編本を販売するという形にしたいと考えています。こちらもいろいろとハードルがあるので、少し時間がかかりそうです。なので安心してください、今しばらく無料です(笑)。

 リベルを1年続けてきて思うことは、リベルで提供したいことは「考える時間」であるということです。知識を得ることでも真理を探すことでもありません。普段とは違う知見を使って、自分の日々の生活や仕事における出来事を振り返るような時間を提供することです。コンテンツはそのための道具であると考えています。そのような考える時間が、自分なりの考えやものの見方を養い、明日はこんなことを試してみようとか、いつかはこんなことをやってみたいとか、そんな内発的な気持ちを盛り上げることにつながっていくのだと考えています。

 僕たちはリベルという事業の何合目までさしかかっているのでしょうか。間違いなく言えることは、1合目までも達してはいないということです。大学の時、燃料電池の開発につながる分子シミュレーションをしていた僕が、まさか今こんなことをやっているなんて想像もつかなかった。でも、大学や先生の知見に盲目的に依存するわけではないけど、その領域を深く突き詰めている人の知見や考え方は、どうしようもなくおもしろい。自分のすべきと思うことと、自分が選択した先に広がる広く深い世界を楽しみながら、リベルという事業とともに登っていきたいと思っています。

吉田

リベルというのをやっています。 http://liber.community/