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勝俣瞬馬・聖地に描く新しい景色

 3月14日、DNA新宿FACE大会。収容人数500人ほどの会場は、人であふれていた。著名なプロレス関係者も多く見られ、期待感がひしひしと感じられた。
 会場にはライトアップされた巨大なセットが組まれ、ふだん新宿FACEで行われるプロレス興行としては異質な絢爛豪華さが漂う。ももいろクローバーZのステージングなどで有名な佐々木敦規氏による演出が光る舞台だ。
 今年2月から新体制となり新たな船出をしたDNAは、DDTから派生した団体で若い選手が主役だ。私は今回初めて試合を観戦した。
 DDTですでに活躍する選手が多数参戦しているので、それぞれの印象や試合スタイルはなんとなく頭の中にあった。
 きらびやかで明るく楽しい、若さあふれるフレッシュな団体。それが観戦前に抱いていたDNAのイメージだった。
 だがいざフタを開けてみて驚いた。DDTでは笑顔を振りまき、華麗さと親しみやすさを感じさせていた選手たちが、ギラギラした闘争心をむき出しにしてリング上で激しくやりあう。
 ものすごく骨太なプロレスが展開されていく。それぞれが主役を狙いしのぎを削りあっていた。
 まるで大切なビッグマッチの第1試合をまかされた責任感と野心に満ちた試合が、ずっと続いていく感じだ。
 その気迫に観ているほうもグイグイと惹きこまれる。曙や佐藤耕平などベテラン勢も名を連ね参戦していることから、チャレンジマッチ的な要素もある。
 ファンとしてはそういう試合を観ると、えこひいきな感じで若い選手を応援したくなる。そこも功を奏している。思わず自然とエールを送りたくなるのだ。
 そんな本大会のメインには勝俣瞬馬&鈴木鼓太郎vs樋口和貞&マイク・ベイリーが組まれた。この試合で最大の見どころは勝俣、樋口、ベイリー、三者の関係だ。
 昨年行われたDNA初の総当たりシングルリーグ戦『DNA Grand Prix 2016』において、決勝に勝ち進んだのが他でもない樋口とベイリーだった。このとき勝俣も出場予定ではあったが「右とう骨頭骨折」により泣く泣く欠場した。
 リーグ戦を制覇したのはDNA所属ではないベイリーだった。このDNAグランプリでの活躍が認められ、5月10日、初進出が決定している聖地・後楽園ホールでメインの1枠を手に入れた。  
 勝俣はこのときの思いをこう語る。
「僕はDNAグランプリを欠場して出られず、悔しい気持ちでずっと客席から観ていました。ベイリーが優勝したとき正直悔しかったです。なんでDNAの所属選手じゃないだ、なんで樋口じゃないんだって」
 勝俣は並々ならぬ思いを持って今回メインのリングに立った。中でも樋口に対しては入場から鋭い視線を向けていた。
 しかしゴングが鳴ると圧倒的な体格差が目に見えて現れる。167cm・70kgの勝俣に対して、樋口は185cm・115kgのヘビー級。力でおされ劣勢になる場面が多かった。
 それでも必死に喰らいつき、百戦錬磨であるパートナー・鼓太郎のアシストも受け、樋口から丸め込み技「カサドーラ」で3カウントを奪いとった。
「プロレスって相手のスキだったりそういうところを攻めれば、一瞬で逆転できるんです。小さくとも勝てるだっていうことを試合で見せられたんじゃないかと思います」
 試合後、激闘により座り込む勝俣は大きく肩で息をしながら、高揚感をみなぎらせてそう言葉を吐いた。これで次回4月21日・新宿FACE大会にて、後楽園ホールメインの1枠を懸け、樋口との一騎打ちが決定した。
 勝俣はプロレスの聖地でDNAが試合することに対して、人一倍強いこだわりを持っていた。
「自分が観てきた会場でもあるし、デビュー戦は後楽園の第1試合でした。4月で(デビューして)3年になりますけど後楽園のメイン、なんならセミも含め、上の方で試合をしたことがないんです。だから特別な思いはあります。しかもDDTではなくDNAの興行。僕がDDTの総選挙で100万円が手に入って、何に使いたいかと聞かれれば、DNA後楽園大会をやるってずっと言い続けてきました。 
 それくらい僕は後楽園でDNAをやりたかったんです。だから興行がやれることが嬉しいし、メインに立ちたい思いは誰よりもあります。簡単に樋口を立たせたくないんです」
 DDTではアイドルユニットとしても活動しているが、目の前で話す姿は、所属団体を上げていこうと高みを目指す熱いプロレスラーだ。
「樋口、そしてベイリーを倒し後楽園で僕がDNAの景色を変えたい」
 25歳の若武者から強い決意と責任感があふれるように飛び出す。華やかでありながら激しい闘いをくり広げるDNA。
 このリングで今まさに現れようとしている新しい景色。まばたきをせずしっかり目に焼きつけていきたい。

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