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バブルが崩壊するとき、実は裏でしばらく前から起きていること

シリコンバレーバンクの破綻に端を発したアメリカの銀行不安は景気の見通しに暗雲をもたらしている。しかしその割に株式市場は堅調に推移している。株式市場はその時々で将来の可能性を効率的に織り込むものだとしたら、今も今後の更なる銀行破綻のリスクも既に織り込まれており、それによる株式市場の暴落もないということだろうか?否、わたしはリーマンショック/世界金融危機(GFC)のときの経験から、株価の暴落はそのサインが出ていたとしてもしばらくは起こらず、逆にそのサインは一般に知られることなく裏で密かに、豊富に出ているものではないかと考えている。つまり、バブル崩壊はそれが色々な形で表面化していても、株価が暴落するまでにタイムラグがあるのではないかと思う。(念の為言っておくと、筆者は今後の株価の暴落を予想しているわけではない。)

GFCのときの株価の推移をおさらいしてみよう。当時株価が本格的に暴落したのはリーマンブラザーズが破綻した2008年の9月であった。次のチャートで見られるように、2007年一杯くらいまでは株価は堅調であった。

S&P500の推移(2006年6月末〜2008年12月末)

それでは世の中はリーマンブラザーズの破綻で初めて諸々の問題を認識したのであって、2007年の段階ではあまり問題は表面化していなかったのであろうか?いやそんなことはない。結果論ではあるが、そんなことは全く無かった。リーマンショックに至る暫く前の2007年から、少なくとも以下のようなイベントが公になっている。

  • 2007年8月:パリバショック。BNPパリバが傘下の3つのファンドについて、サブプライム市場が不透明であることを理由に解約を停止。

  • 2007年9月:ノーザンロック銀行取り付け。イギリスの同銀行がサブプライム市場に大きく関与していたことで預金の引き出しが殺到。

  • 2008年3月:ベアスターンズ実質破綻。大手インベストメントバンクの同社が大量のモーゲージを保有していたことで流動性危機に陥り、政府が介入してJPモルガンが買収。

その後2008年の9月にファニーメイとフレディマックが破綻を回避する為に政府管理下に置かれ、直後にリーマンブラザーズは破綻した。ここで世界中の株価は著しく暴落したのであるが、その1年以上前から、サブプライム市場の問題は十分に表面化しており、リーマンブラザーズがどれくらいヤバイかも、ある程度見積もることはできたはずである。

以上はあくまで公になったイベントであり誰もが知ることとなった事実だが、実は一般に知られていないところで、もっと早い段階で多くのイベントが起っていた。
例えばOwnitというモーゲージバンクが2006年12月に破綻している。理由はもちろんサブプライムローンのデフォルトが増えたからであり、同社に貸付をしていた大手インベストメントバンクは資金を回収できなくなった。筆者は当時、某大手証券会社のニューヨーク拠点でモーゲージを担当しており、このイベントをきっかけにモーゲージビジネスの撤退に向けて忙殺されることとなった。

Ownit社の破綻についての記事

重要なのは、そのような事実は社内でもごく限られた人間しか認識せず(たとえば株式部門で働いている人は全く知らず)、その後何か月も株式市場も堅調どころか上昇基調だったことだ。つまり既に大きな問題が表面化したとしても、それが周知され一般のコンセンサスになるまでにはしばらく時間がかかるということだと思う。

今、アメリカの銀行不安は日本のメディアでも盛んに報じられているが、報道されていない、もしくはささやかに報道はされているけど周知の事実とは言えないような事象は、数多く発生しているはずだ。今のところ株式市場は意外と堅調だが、GFCの時のことを考えると、それがはたして実情を現わしているのかどうかはわからないのだ。