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【トリばァnote】はじめまして「トリばァ」です。作品《湖の化石》に寄せられた質問に作家の角野さんから回答が届きました。

《湖の化石》 角野理彩(すみのりさ)photo: Fumihito Nagai

こんにちは! アート・コミュニケータ「トリばァ」です。
私たちトリばァは、たいけん美じゅつ場VIVAを拠点に、アートと人、人と人を結ぶ活動をしています。
今回は、そんなトリばァからの活動レポートです。

■小中学生がアート作品を鑑賞

出前授業 photo: 加藤甫

たいけん美じゅつ場VIVA(以下、VIVA)では、取手市内の小中学校と連携して、アート作品を鑑賞するプロジェクトを行っています。
まず出前授業でVIVAスタッフとトリばァが学校へおもむき、生徒さんと作品を鑑賞するときのマナーを共有したり、VIVAにある作品が印刷されたアートカードを使って、作品をみて感じたことを言葉にしてみる体験をしてもらったりします。

アートカード体験の様子 photo: 加藤甫

後日、VIVAに実際の作品をみに来る作品鑑賞ツアーが行われます。ツアーでは、東京藝大オープンアーカイブ(以下、オープンアーカイブ)や、とりでアートギャラリーで、アート・コミュニケータ「トリばァ」やVIVAスタッフと一緒に、作品を前にして、みんなで自由に感想や思ったことを話したり質問したりしながら鑑賞します。

作品鑑賞ツアーの様子 photo: 中川陽介

ちなみにVIVAは、JR取手駅直結のアトレ4階にあります。オープンアーカイブでは、東京藝大の学生さんの卒業制作作品などを収蔵・展示しています。

東京藝大オープンアーカイブでの鑑賞ツアー photo: 中川陽介

2月には戸頭中学校から生徒さんたちがVIVAに来て、トリばァたちと一緒に、いろいろな作品をじっくり観察したり、対話しながら鑑賞しました。
その中のひとつ、《湖の化石》は、3月末に作家の角野理彩(すみのりさ)さんへの返却が決まっており、その際にご本人がVIVAに来る予定でした。そこで、戸頭中の生徒さんたちに「作家に聞いてみたいこと」を聞いてみると、素敵な質問をたくさんもらいました。
そのことを角野さんにお伝えしたところ、次のようなお返事が届きました。

中学生からの質問と作家角野さんからのお返事

Q:どうやって描いてるの?
シルクスクリーン(*1)とゆう版画の技法を使っていて絵の具を漆に変えているよ。
注)*1  シルクスクリーン
孔版印刷のこと。絹やナイロンを版材とした絵のところをインクが通るようにする版画の手法です。

Q:どうして白黒にしたの?
漆の特徴を分かりやすく伝えるためだよ!漆が固まるにはお水が大切なの、知ってた?みんなは絵を描いた時、手であおいだり、ドライヤーで乾かしたりしたことあるかな?それはお水を取り除く作業をしているんだけど、漆はその逆。お水が無いと固まらないんだよ!
お部屋のお水を漆が取り込んで、化石みたいになった所を1番見せたいから、シンプルに白黒にしたんだよ。でもよく見てみて、意外と茶色や青っぽく見える所もあるよ。

Q:小さなブロック(タイル?)を合体させたのはなぜ?
タイルが組み合わさって絵になっていると銭湯の富士山の絵を思い出さない?実はこの作品は、銭湯をテーマにした展示に出した作品の1つなんだ。
お風呂を皆んなにイメージしてもらいたいからタイルにかいたんだよ。

Q:何をモデルにしたの?どこの場所?
描かれている場所は群馬県の赤谷湖とゆう湖だよ。
雨が降って湖にお水が溜まると、だんだん山の中へ染み込んでいって、60年後に雨が温泉になって出てくるんだ!
私はその湖の写真を撮って、温泉をつかって絵を描いたんだよ。

Q:50年くらい前? どうしてこんなに昔っぽさを出したの?
タイトルそのままだけど、この作品は文字通り「湖の化石」なんだよ。湖の絵の中に、湖の水を閉じ込めているんだよ。
漆はお水でかたまる特徴以外にも、驚くほど長持ちする特徴もある。
漆で塗られた9千年前のお椀が北海道から出てきているの知ってる?
漆を塗ると長持ちするようになるんだよ。
また今度どうして古いものだと思ったか教えてくれると嬉しいな!

Q:写真かと思ったら絵でびっくり? 絵なの?
どっちも正解!湖を撮って加工した写真を元に絵の具たっぷりの絵みたいな印刷をしたんだよ。みんなのお家にある写真とは様子が違うよね。
印刷には色んな種類があって、これはシルクスクリーンとゆうもの。
お家でも出来るからやってみて!

Q:どのくらい時間をかけて制作したのか知りたい。(こんなに細かくて、こんなに大きい作品はどのくらいの時間でつくられるのかに興味がある)
実は、なんと2時間!漆を一気にかためる必要があったから、一気に作ったよ!でも漆を使う工程を素早く綺麗に失敗なく行う為に、実験や準備に2ヶ月くらいかかってるんだ。絵をかくって色んなやり方があるんだよ!

Q:どんな風につくったのか知りたい(キャプションで木版+レジン(*2)+漆は確認したが、それがどうやってこんな風になったのかに興味がある)
簡単に説明すると  (カッコは補足です!)
木製パネルをつくって(湿度90%の場所に置いても木が歪まないように9ミリのMDF(*3)を使う)
白くぬって(MDFのヤニが出てこないように塗装して、その後ジェッソ(*4) で透けなくなるまで重ねる)
レジンでツヤツヤにする(透明の厚みがある層ができるので、近くで見た時に、白いジェッソの層に漆の湖の影ができ複雑な見え方になる)
漆をインクにしてシルクスクリーンでプリントして(よくT シャツでも使われる印刷方法)
最後に温泉の蒸気たっぷりの部屋に置いて、10時間くらい固まるのをまつよ!(漆が固まるには湿度が必要なんだけど、このようなシワシワした表現には、より高い湿度が必要なんだ)

*2 レジン 透明な樹脂のこと。固めて透明な層または塊を作ります。
*3 MDF 正式名称を Medium Density Fiberboard という木質ボードの一種です。
*4 ジェッソ アクリル系樹脂による白色の地塗り剤です。絵の下地をつくるのに使われます。

作家の角野理彩(すみのりさ)さんと《湖の化石》(作品搬入時)

プロフィール
1998年 香川県生まれ
2020年 東京芸術大学油絵科卒業
2022年 群馬県みなかみ町長賞
2023年 東京芸術大学院絵画専攻卒業

■お返事ありがとうございました
VIVAでの対話型鑑賞やVIVA研は、正解があるのではなく、それぞれが感じたままを基本にしています。今回のように作者から直接、返事をもらえるのは、珍しく幸運なことでもありました。
生徒たちの、作品への驚きや不思議さに反応する問いかけが作者に伝わり、親密で深いコミュニケーションを生んだ結果のように思います。

■さようなら!湖の化石
オープンアーカイブに展示されていた《湖の化石》は、2024年3月25日に角野さんに返却されました。私たちトリばァは、作品が返却されることを知り、《湖の化石》のさよなら鑑賞と角野さんへのインタビューを企画しました。その時に伺った角野さんの作品への思いは次回のnoteで紹介できたらと考えています。
みんなで作品を間近にみながら感想を言ったり、他の人の見方を聞いたりできるのは、VIVAならではの体験です。「たいけん美じゅつ研究所(通称「VIVA研」)」というプログラムでは、そんな対話をしながら鑑賞する体験ができます。小学生2年生以上なら誰でも参加できますので、以下のVIVAホームページで、実施日の確認や予約をしてご参加ください。
※参加は無料です。https://www.viva-toride.com/news/162

オープンアーカイブはガラス張りなので、普段から作品を気軽にみることもできます。時には、収蔵作品の展示替えがあったり、《湖の化石》のような作家からの借用作品が期間限定で展示されたりしますので、そんな変化も楽しみに、ぜひVIVAに来てみてくださいね!

【トリばァからひと言メッセージ】
・VIVAやトリばァの活動が、これを読んだみなさんにもじわじわと伝わっていくといいなと思います。note発信は新しい試みですが「へ〜!こんなことしてるのね」と思ってもらえたら嬉しいです。(みっちゃん)
・原稿を書いてみて、指摘や感想を受けとめるには、書き手として変わる必要がありました。自分の原稿からみんなの原稿にしていくのですから。「そうか」もあり、「何を伝えるか」ということでは話し合って深める良い機会になっていたと思う。φ(..)(たか)
・コロナ禍の収束とともに、VIVA発足以来のテーマの学校連携が復興し始めました。出前授業とVIVAツアーも昨年2校から今年は7校へ。
私自身と長男次男の母校の白山小への訪問は、60年程前の小学生に戻った気分でした。今回ご紹介するのは、そんな学校との交流から生まれた体験の輝く「化石」の一粒です。(もりっち)
・今回は、戸頭中学校のVIVAツアーと、作家さんがVIVAを訪れる時期、トリばァによる〈湖の化石〉についての企画などが重なり合って、こんな「キャッチボール」が生まれました。次は、また違った何かが生まれるかも!? そんな可能性を秘めたVIVAに、ぜひみなさんも遊びに来てください!(まなてぃ)
・実はトリばァ発信初の記事…トリばァたちの活動・メッセージの見える化を目指しています! VIVA×学校は、アートと触れ合い文化的な体験や交流ができる貴重な機会☆参加の皆の発想や好奇心に刺激され、私自身も学び合う仲間に…‼︎ 今後もこんな素敵な活動や場を皆で創り広げる…が楽しみ♪(エルサ)

アート・コミュニケータ「トリばァ」とは?
たいけん美じゅつ場VIVAを拠点に、アートと人、人と人を結ぶコミュニケーションを育み、地域や社会の中に新しい価値感や文化を生み出す活動に取り組んでいます。取手市内外より参加する、世代やバックグラウンドも異なる多様な人々が、共に学び合い、それぞれの経験やアイデアを重ねながらさまざまな場づくりを実践しています。(毎年3〜4月ごろに募集)
https://www.viva-toride.com/artcommunicator

たいけん美じゅつ研究所(通称:VIVA研)とは?
たいけん美じゅつ研究所所長・日比野克彦氏からの調査依頼書を手がかりに、東京藝大オープンアーカイブにある収蔵作品を、色々な角度から楽しむプログラム。ガイドと一緒にオープンアーカイブに入り、調査依頼書に記入しながら作品をじっくり観察し、その内容を他の参加者やガイドと共有し合います。調査依頼書は、VIVAで保管され、後日、該当作品の作家にも届けられます。

noteで発信お試しラボ(飯塚、池田、植田、エルサ、大山、熊谷、田中ま、田中み、藤井、森)


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