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民法と契約の関係

お客様との間で契約交渉を行う際に、お客様から「民法第〇条では~と定められているから、それに合わせるべきだ」と言われることがあります。

このとき、法務部のメンバーであれば、「民法第〇条は任意規定であり、当事者の間で自由に取り決めることが可能です。今回の取引では~という理由から…」などと冷静に対応することができます。
しかし、法律の知識があまりない方は、先方の主張が正しいと思い込み、契約内容の修正をそのまま受け入れてしまうケースもあるようです。

そこで本記事では、民法と契約がどのような関係にあり、契約内容を民法の規定に合わせる必要があるのかについて説明したいと思います。

民法とは何か

民法とは、私たちの日常生活について定めた法律です。
大きく分けて、①財産関係(売買、損害賠償など)に関する規定と、②家族関係(親子関係、相続など)に関する規定に分けられます。

そして、財産関係に関する規定には、契約について定めた部分が存在します。
そこでは、契約の成立や効力、終了などについて定められています。
また、基本的な契約類型として、13種類の契約(売買、請負など)に関する規定があり、売主・買主の責任や、代金の支払時期などについて定められています。
これらの規定は実際の取引形態に応じて適用され、トラブルが生じた際の解決指針となります。

契約による民法のルールの変更(契約自由の原則)

民法は両当事者にとって公平な内容となっていますが、実際の契約で民法の規定をそのまま適用することがよいとは限りません。

たとえば、A社がB社に対してシステム開発(請負契約)を依頼する場合を考えてみましょう。
まず、報酬の支払期日について。民法の規定に従うと、A社は成果物の受け取りと同時に報酬を支払わなければなりません。しかし、A社としては、社内手続き上、「支払いは成果物の引渡し後〇カ月後としたい」という場合もあるでしょう。
次に、受託者(請負人)の責任について。民法の規定に従うと、B社は最長10年間、無償でのシステム修補などの責任(契約不適合責任)を負うことになります。しかし、B社としては、報酬と比べて責任が過大であるため、「契約不適合責任の期間は成果物の引渡し後〇年間としたい」という場合もあるでしょう。

このように民法の規定を適用することが不都合である場合や、そもそも民法やその他の法律に定めがない場合もあるでしょう。
このとき、当事者間の合意によって、契約内容などを自由に取り決めることができます。これを「契約自由の原則」といいます。
上記の例でいえば、A社とB社が合意すれば、報酬の支払期日や、契約不適合責任の期間について、民法と異なる条件とすることが可能です。

例外

ただし、「契約自由の原則」にも一定の制限があります。
たとえば、犯罪にかかわる契約や、立場の弱い相手に不利な条件を押し付ける契約は、無効とされたり、罰則や行政処分の対象となったりします。

法律用語では、契約によって条件を変更できる規定を「任意規定」、契約によっても変更できない規定を「強行規定」といいます。
契約に関する規定は「任意規定」が多いですが、「強行規定」もあるため、契約内容を定める際には「強行規定」に抵触しないかを確認する必要があります。

まとめ

当事者の合意があれば、(強行規定に反しない範囲で)民法の規定と異なるルールを契約で定めることも可能です。
お客様が交渉テクニックの一つとして「民法に合わせるべきだ」と主張されることもありますが、民法の当該規定が「任意規定」である場合には、その主張を安易に受け入れず、取引内容に応じて交渉するようにしましょう。

参考文献

  • 長瀬総合法律事務所 編『契約の基本教科書』(日本能率協会マネジメントセンター, 2021)

  • 河村寛治『法務部員のための契約実務共有化マニュアル』(レクシスネクシス・ジャパン, 2014)

  • 中田裕康『契約法』(有斐閣, 2017)

  • 我妻ほか『民法 第10版』(勁草書房, 2018)