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イールドカーブ・コントロールの副作用を考察する


イールドカーブ・コントロール(YCC)は、日本銀行が市場で国債を買い入れることによって、10年物国債の金利を目標とする水準に維持する政策です。この記事では、YCCが及ぼしうる副作用について考察します。

まずひとつ目は、日銀のバランスシートの増大化です。YCCの間、日銀は大量の日本国債を購入しました。日銀によると、保有する長期国債の総額は、2012年の91兆円から2023年4月には約581兆円に増加しました。これは、債券価格が下落した場合に日銀が債務超過になるリスクを高めます。

もう1つの懸念は債券市場の流動性です。YCCにより、日銀が保有する国債の総供給の割合が増加しています。日銀が保有する国債のシェアは、2014年の約20%から2023年には50%を超えました。

その結果、国債の平均売買スプレッドは最近拡大しており、流動性が低下していることを示しています。さらに、流動性の低下による国債取引の失敗件数が増加しています。2020年は3,035件、2022年は6,765件、2023年6月だけで4,685件に上りました。これは流動性に関して懸念されるべきことです。

次に為替に及ぼす可能性のある影響について考察します。

為替レートの変動は金利の違いによってもたらされることがあります。他国の金利が上昇している際に、YCCにより日本の金利が低く抑制されると、円を売る動きが強まり、円安が進むことが一般的です。

YCCでは、利上げを避けるため日本銀行は国債を購入します。日銀には通貨発行権があり、理論上は国債購入を無制限に行うことができるため、これによってマネタリーベースが増大しますが、実際には市場の反応や経済の健全性を考慮する必要があります。

マネタリーベースの増減は為替変動の要因の一つです。マネタリーベースが増えると、経済状況によっては通貨の価値が相対的に低下し、円安を招くことがあります。

このように、金利上昇局面でYCCは円安を促す要素を持ちますが、為替レートは複数の経済的・政治的要因によって影響を受けるため、動向を理解するにはより広い視野でのマクロ経済的分析が求められます。

YCCは、インフレ率を目標値に近づけるために日銀が導入した政策ですが、リスクも伴います。日銀のバランスシートを増加させ、債券市場の流動性を低下させ、債務超過リスクを高める可能性があります。また、為替変動の影響力もあるので、慎重なコントロールが必要です。


参考:

Japan Bank of Japan. (2023). Government bond trading report (June 2023). Retrieved from 
https://www.boj.or.jp/paym/bond/mbond_list/mbond2306.pdf

Ishikawa, T. (2023, October 19). BOJ's yield curve control policy: What does the change mean for the future? Retrieved from
 https://www.smd-am.co.jp/market/ichikawa/2023/10/irepo231019/

Bank of Japan. (2023, September). Statistics: Market yield curve for JGBs. Retrieved from https://www.boj.or.jp/statistics/set/bffail/sjgb2309.pdf

木村登英 2022.米国の経験に学ぶ日銀イールドカーブ・コントロールの構造的欠点

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