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死神食堂-禊汁-

店の名前は死神食堂。店主兼料理長を死神が務める。死神は客のネイタルチャートが視えるらしい。店にメニューはなく、「空想の一皿」が提供される。

***

JUNKOは酔った頭で必死に思考を巡らせていた。

(仕事の後一杯ひっかけて帰ろうとしてた。調子が良くなってはしごしたけど、3軒目までは覚えてる。記憶飛ばすことないんだけどなぁ)

と首を傾げながら考えていると「いらっしゃいませ」と声を掛けられた。

 JUNKOは正面に立つ男に気付いて姿勢を正す。

「ようこそJUNKO様、店主の死神です。当店ではお客様に合わせて料理を提供させていただきます。こちらの牛蒡茶をお飲みになりながら、もう少々お待ちください」

(死神って言ってたな、ウケる〜。なんだろここ。夢?にしてはリアルなんだよなぁ、ていうか牛蒡茶美味しい)

ぼんやり考えながら酔いが少しずつ醒めていくのを感じていた。

「お待たせ致しました、禊汁でございます」

目の前に出された器をまじまじと見ながら、

「これは〜、、酒粕汁ですか?蕪のポタージュみたいだけど香りは酒粕と味噌、、あ、でもスパイスの香りもすごいですね」

JUNKOの分析癖が発動していた。

「そうですね、ベースは酒粕汁で、今回はJUNKO様のアセンダント蠍座に合わせ、発酵食品の味噌を使った汁物をご用意させていただきました。6ハウスに牡羊座なのでスパイスはカルダモン・フェヌグリークを追加。太陽星座の乙女座は根菜類が相性の良い食材なので、蓮根と蕪を加えています」

店主の説明に目を丸くしながらも、JUNKOの脳はフル回転している。酔いはすっかり醒め、分析したがりの性格が質問を畳み掛ける

「ネイタルに合わせてメニュー変わるんですか?酔い覚ましに最高だし、相性の良い食材ばっかり。最初に出していただいた牛蒡茶も乙女座に合わせてるんですよね?だとするとフェヌグリークやカルダモンにしたのはなんで?」

「フェヌグリークは女性ホルモンのバランスを整える働きがあり、カルダモンは胃腸を整えてくれます。JUNKO様はエステの施術を受ける動画の撮影が近々ありますので、身体の中からも整えられるように調整しました」

(まじか、絶対夢だわこれ。まだ動画撮影のこと誰にも言ってないもん。ていうかこのスープ美味しー)

元々教員だったJUNKOは、一年前に退職して動画配信者として活動している。仕事といえばそうなのだが、エステを受けている様子や、薬膳アドバイザーに診てもらっている様子を録画してアップロードするだけなので、正直働いている感覚はない。何故か再生数が一気に伸びて、今ではオファーが舞い込んでくる中から次に行く店を選んでいる状態だ。

「やはりドラゴンヘッド蠍座なので、癒しのコンテンツは人気ですね。キロン6ハウスの牡羊座も、JUNKO様のキャラクターを前面に出した構図がついつい見に行きたくなるんでしょうね」

独り言のように店主が呟く。JUNKOはそこまで自分で考えたわけではなかったので、前のめりで質問したくなり椅子から立ち上がる。

酔いは完全に醒めた、つもりだった。
よろけた拍子にカウンターに側頭部をぶつける。

痛みに耐えきれず、小さくうめき声が出る。頭を手で押さえながら目を開けると、タクシーの後部座席に座っていた。

「お客様、大丈夫ですか?窓に思い切りぶつかってましたよ」

運転手に心配されながら、まもなく目的地に到着します、と言われJUNKOは状況を把握する。
(夢か〜、もっと話聞きたかったなぁ)
と惜しみつつタクシーを降り、ピンヒールの靴音を鳴らしながら家路につく。

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