死神のレシピ
「天海、君は一年後、2022年の5月に星読みの講座を開くぞ」
2021年4月。死神と名乗る男に話しかけられた天海は一ミリたりとも信じていなかった。星読みについては数ヶ月前、2020年の12月にとある西洋占星術の本で出会ったばかりだ。出生時の天体を表すネイタルチャートを作るため、自分の出生時刻を親に聞いたのも先日の話である。
惑星の記号もまだあやふやで「このクリオネみたいなマークは?水星。なるほど、で、このオスとメスが火星と金星ですか」と、詳しい人にSNSで質問するレベル。そんな状態の人間に、詳しくなるならまだしも、講座を開くなど思いつくはずもない。
「いや、無理ですよ。ところで私、お会いしたことありますか?」自分の名前を知っているので知り合いかと思ったが、全く心当たりがない。
そもそもこの死神を名乗る男が怪し過ぎる。職場へ向かう途中、突然話しかけてきた。
「大丈夫だ、君は宇宙人。パラレルワールドの住人だからすぐに使えるようになる」
死神に宇宙人認定された。どう反応していいのか分からず、天海は無表情でそうなんですねと答えておいた。
「12ハウス太陽、アセンダント、1ハウス水星ライジング、全て水瓶座。だから大丈夫だ」
「言葉の意味がわからないので説得力皆無ですね。でも宇宙人って、いたとしても人型の可能性低そうですよね」
「クリオネ型かもな。捕食するときに頭が開くところはエイリアンみたいだし」
「そう言われるとまた水星がクリオネに見えてきました」と言いながら、天海はクリオネの捕食シーンを検索する。俺よりよっぽど宇宙人だろ、と思わずにはいられない映像だった。
もうすぐ事務所に着くというところでくしゃみが出る。天海は光アレルギー反射を持っており、太陽光が視界に入るとくしゃみが出る体質だった。
目を開けると死神はいなくなっていた。
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