死神食堂-柑香菜-
***
「いらっしゃいませ」
香奈恵は驚いて顔を上げる。仕事を終えて帰宅中のはずだ、電車に揺られるうちに眠ってしまったのだろうか。いきなり夢だと気付くなんて珍しいな、と思いながら声が聞こえた方に目をやると、男性が一人奥に立っていた。
「ようこそ香奈恵様、店主の死神です。当店ではお客様のネイタルチャートに合わせて料理を提供させていただきます。こちら、とうもろこしのひげ茶をお飲みになりながら、もう少々お待ちください」
熱すぎず、猫舌の香奈恵にはちょうどいい。
死神ってすごいな、っていうか名前知ってたな。面白い夢だな〜と思いながら座っていると
「お待たせしました。柑香菜、ミモレットと春菊の柚子サラダ、鶏胸肉のフォーでございます。お熱いうちにどうぞお召し上がりください」
いただきます、と勧められるがまま香奈恵は箸に手を伸ばす。
「美味しい。春菊を初めて生で食べました。意外とチーズとも相性いいんですね」
静かに感想を言うと、店主は
「実は春菊は地中海原産の野菜なので、和食以外の組み合わせもよく合うんです。アンチョビとオリーブオイルでドレッシングを作ってお出しすることもあります。香奈恵様のネイタルチャートは火星が射手座。パワーフードが柑橘系なので柚子を使った組み合わせでご用意させていただきました」
さすが夢だ、ネイタルチャートに合わせて料理出てくるとか最高だわ。と思いながら、こっちのフォーも意味あるのかな?と考えながら食べていると
「ちなみにフォーは太陽水瓶座なので、ワンボウルで効率的に食べられるものを用意しました。青菜、もやし、鶏肉とバランスよく栄養を摂取できます。アセンダント魚座なのでスープ系もよく合いますね。むくみも出やすいのでとうもろこしのひげ茶はおすすめです」
考えたことまでわかるのか、と香奈恵は感心して食べ終える。目を閉じて、現実のような満腹感を味わう。ゆっくりと深呼吸をして目を開けると、帰宅途中の電車の中に戻っていた。
あぁ、やっぱり夢だったかと思いながらも、満腹感は変わっていない。香奈恵は読みかけの本を再び開き、思わずニヤついてしまった。
今度作ってみようかな。とうもろこしのひげ茶も買って帰ろう、と思いながら香奈恵は読み進める。
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