Research9〜等々力の加藤さん〜

調査時間:2018.12.2(日) 15:00〜16:30
場所:多摩川河川敷(等々力)
天気:晴れ(14°C) 風が冷たかった

うなぎは釣れていないものの、加藤さんにしっかりと、模倣して制作したいという旨を伝えるのが今回の目的だ。
結果的に今までにないくらいにじっくりと話し込む結果となったが、純粋にとても楽しかったし、加藤さんとの距離が一気に縮まった気がする。

加藤さんの家

等々力駅から徒歩20分くらいの河川敷に加藤さんの家はある。ご覧のようにものが多い加藤さんの家なのだが、本人的には宝の山なのだと言っていた。どこに何があるかはだいたい把握しているらしい。もうぼくは驚かないのだが、結構散らかっているのでパトロールの人にはいい加減片付けろと注意を受けたらしい。加藤さんは笑いながら片付けが苦手だと言っていた。

前回まではなかったブルーシートの屋根がとても目立つ。どうやら増築したようだ。そのブルーシートの下はまるで土間だ。たくさんのものが散らかっているが、だいたいこの辺にあるのは生活に必要なものか、やや大切なものだ。濡れてしまっても大丈夫なものは外に野ざらしにされている。

この写真で言えば右手の赤い椅子が置いてあるところが玄関のような空間だ。そしてさらにその奥にリビングルームがある。実測はしてないが、今回のリサーチでだいたいの寸法感覚がわかった。

約2mが基本単位となって、空間を区切っている。残念ながら居室を拝見することはできなかったが、全貌は何となくわかってきた。
スケッチに方角を入れるのを忘れてしまったが、右手前方向が北だと言う。北風を凌ぐことと、キッチンを安全に使うために、北側のファサードには普通のブルーシートよりも丈夫な防炎シートを用いている。そして日当たりのいい南面は居室という、何とも環境に適合した間取りである。

加藤さんの人生

ぼくが訪れた時、加藤さんは大音量でラジオを聞いていた。申し訳ないが、せっかく来たので入り口で加藤さんの名前を3回くらい呼ぶと、ようやく返事が返ってきた。
加藤さんはコーヒーでも飲みに行こうか、と言った。
こんなところにコーヒーがあるんですか?と驚くと、あるよ。と返す。
堤防の階段に腰掛けてて、とぼくに言い残し、加藤さんは街の方へ向かった。まさか、とは思ったが、加藤さんは当たり前のように両手に缶コーヒーを持ってこっちに戻ってきた。
ぼくは今までにないくらいに奢ってもらっていいのか、、、と悩んだが、ここは潔くお礼をいい、コーヒーをいただくことにした。(おそらく加藤さんにとってこれは日常だ。贈与のシステムがここにはある。ただの缶コーヒーでそのシステムをぼくとの間に芽生えさせてくれる加藤さんの力は半端じゃない。)

堤防の階段に腰掛けて小一時間。加藤さんの人生の話をベースに、ぼくたちはたくさん話した。生まれた山梨県の話、育った横浜の話、やんちゃをやった話、仕事の話、、、(ここには書けない話も)
たくさんの話を聞いたが、なぜホームレスになったかは話さなかった。聞いたら答えてくれるだろうけど、ぼくも聞こうとも思わなかった。ぼくらは親子みたいな感じだった。父さんが昔の武勇伝とか、仕事の話とかを延々とするじゃない。加藤さんはまさにそういう父さんだった。

太陽が沈んでいき、徐々に河川敷に寒さがやってくる。コーヒーもとっくに冷めてしまって、この環境の厳しさを肌身を持って体感する。
加藤さんはトイレに行きたくなったのだろう。そろそろ戻ろう、と言ってきた。そして歩いていると茂みに入っていき、いつも通り堂々とおしっこをする。

制作について

最後に、加藤さんのように路上生活者の人たちの手法を真似て家を建てたいと進言した。加藤さんは面白そうに話を聞いてくれた。もちろんやってみるといいよ、と。だけど、狛江(ぼくの住んでいる場所)でやりな、と言ってくれた。そっちの方が収集が楽だし、面白いよとのこと。
ぼくのメンターは加藤さんだ。
この加藤さんの言葉を信じて、ぼくはもえないごみの日の朝に町を巡回して、建設現場では資材のはし切れをもらう。こうやって彼らは家をつくっているのだ。ここの建築家は図面も模型もつくらない。あるもので家を建てる。それが楽しみであり、生き抜くことでもあるのだ。建築家や職人さんやゼネコンの人たちにとって、建てるという行為は楽しみであって生き抜くことであるのと一緒だ。

加藤さんは完成したら見に行くから教えてね。とぼくに言い、解散した。

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