我がミステリ遍歴(3)

占星術殺人事件に魅せられた僕はすぐさま他の島田荘司作品を追い求めることになる。
当時、家から少し離れた新古書店の105円棚(時代ですね)で5冊315円、10冊525円のセールをやっていて、そこで島田荘司作品を手当たり次第購入した。確か最初は『御手洗潔の挨拶』『御手洗潔のダンス』『斜め屋敷の犯罪』あたりを選んだと思う。
そして家に帰って御手洗潔の挨拶を読み、想像以上の感動にうち震えた。とにかく面白すぎたのだ。
粒ぞろいの短編集だが、特に冒頭の「数字錠」に深い感銘を受けた。
作中の時系列も占星術殺人事件の直後の話であったため、入り込みやすく、なにより御手洗潔の人間性に心打たれた。占星術では天才ゆえの躁鬱的な性格、奇人・変人ぶりが前面に出ているが、数字錠ははっきりと彼の持つ「優しさ」に焦点が当てられている。
数字錠を読み、御手洗潔は僕の中で真に特別な存在となった。
他にも「挨拶」では「紫電改研究会」が特に好きだ。落ち込んだ時に読むと、小さな事でくよくよしているのが馬鹿らしくなってくるほど気宇壮大なユーモアなミステリだ。
「疾走する死者」「ギリシャの犬」も御大の持つ都市への「まなざし」が作品にあらわれている。
そんな御手洗潔の人間性と、御大の都市への批評性に無意識ながら強く惹かれた。凡な言い方をするなら、これらに「文学性」を見出だしたといえる。
僕はそれまで推理小説を無味乾燥なパズルでしかないと見なしていたが、御大の作品により、実はそうではないのかもしれない、もっと深い、自由な可能性を秘めているのかもしれないと、そう思い始めたのだ。

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