2020.2.15(土) 出版社対抗プレゼンバトル「この華文ミステリがアツい!」

2020.2.15(土)
出版社対抗プレゼンバトル「この華文ミステリがアツい!」

・・・に先日行ってきました。

文藝春秋、早川出版、行舟文化の各社による刊行予定の華文ミステリを各社がプレゼンするイベント。場所は文藝春秋B1ラウンジ。

数日前、Twitterでたまたま本イベントの存在と、又、陳浩基氏の次回作を『世界を売った男 』(文春文庫) の訳を手掛けた玉田誠さんが訳す事を知り「これはチェックしなくては!」と即座に申し込み。

華文ミステリ関係のイベに参加するのは2015年10月頃の『台湾ミステリーの謎を解く 島田荘司vs寵物先生対談』以来。

ここ一、二年で華文ミステリやSFが各ランキングにもランクインし、注目を集め、勢いづいてきたというのに最近の動向を全く追いかけることができてない・・・という危機感(?)があったのでそういう意味でも個人的にこれは渡りに船のイベント。

当日。
有楽町線・麹町から降り、文藝春秋B1ラウンジへ。暖かく、まるで春の陽気な昼下がり。

開場15時半。休日で正面が閉鎖されているため、細まった通用口から入り会場へ。文藝春秋に来るのは映画『幻肢』のクラウドファンディングリターンの島田荘司・綾辻行人両氏の対談以来でした。

16時開演。
ゲストは三津田信三先生。先生は今回審査員を担当。各社のプレゼンを聞いてどれが一番読みたくなったかを選ぶという方式です。

冒頭で三津田先生と華文ミステリの関係を簡単に説明。
会場にも姿を見せていた陸秋槎先生との出会いのエピソード。また陳浩基を非常に評価している、『世界を売った男』を読んだときに記憶喪失テーマなど国内本格でもありがちな題材だがそれが見事に調理されており凄いと思ったといったような話を(このへんは自分も実に同感)。なので陳浩基の新作を用意してる文藝春秋が既に優勢か!?という流れに(笑)。

ちなみに氏が参加した台湾の怪奇アンソロジーのプロモーションで本当は台湾に行ってくる予定だったが、コロナウィルスの影響で5月に延期になったとのことで……大変ですね(ってこの時はこのぐらいの感想だったのですが、3月現在日本はよりヤバい状況に……)。

さて、プレゼンの順番をじゃんけんで決めて次の通りに。
 1.行舟文化
 2.早川書房
 3.文藝春秋

以下、それぞれの出版社の作品を紹介。

【行舟文化】
・陳漸『西遊八十一案 大唐泥犂獄』
・唐隠『大唐懸疑録 蘭序亭コード(仮)』

【早川書房】
・周浩暉『死亡通知単(仮)』
・陸秋槎『文学少女対数学少女』

【文藝春秋】
・陳浩基『網内人』

個人的に特に惹かれたのは二作。三蔵法師が探偵役という陳漸『西遊八十一案 大唐泥犂獄』と、インターネットを題材とし香港の“今”を描くという陳浩基『網内人』。

陳浩基は既に実績があり期待値が高いのは当然ですが、彼の国のネット社会にとりわけ興味があるので題材的にも特にポイント高し。

陳漸『西遊八十一案 大唐泥犂獄』(読めません)は西遊記の旅に出る前の三蔵法師(玄奘)が探偵役である時代ミステリで、事件の壮大なスケール感とこの時代ならではの“動機”が凄いらしく、それらに自分は勝手に清涼院流水的なセンスを感じなくもなく(爆)、俄然興味が湧いてきました。
ちなみに会場に日下三蔵氏が来ており、質疑応答タイムで“三蔵”という部分に反応してたのが面白かったという(笑)

行舟文化のもう一作、唐隠『大唐懸疑録 蘭序亭コード(仮)』はこちらも時代ミステリで実在の人物と中国文学の有名な架空の人物を混ぜ合わせて、さながら山風ばりに歴史のifストーリーを作り上げる手腕に注目との事。内容紹介だけでもフィクションの力を感じさせてくれたのですが、そもそも中国の歴史や文学に詳しくない自分が読んでも楽しめるのかという点にちょっと不安が。

早川の周浩暉『死亡通知単(仮)』は連続殺人鬼と警察の死闘を描くもの。華文ミステリの中でもオールタイムベスト級の傑作らしく、紹介された各評判だけでも凄さが伝わってきます。ただ今回の紹介だけではいかにもな“海外の王道サスペンス”という感が無きにしもあらずで、やや食指が動かず。

本格読みとしては陸秋槎『文学少女対数学少女』がやはり注目作でしょうか。「数学×作中作×後期クイーン問題」というコンセプトの連作短編集。
“女子高生”の陸秋槎が自作のミステリ小説を書き、数学女子の同級生に読んでチェックしてもらうが、その数学女子は毎回作者の陸の用意していた真相とは別な真相を導き出す……という趣向の連作ミステリ。これを見事達成できれば今年の本格ミステリの中でもずば抜けた傑作になるのは間違いない……と思いつつこれで面白く書くのは相当難しいだろうなあとも感じてしまうのも事実。そのへん本格ミステリ読者としては逆に少し敬遠してしまうものがあったり。とはいえ期待をそそられるのは間違いなく大いに期待。

ちなみに早川の編集者さんは“女子高生”の陸秋槎というフレーズを二回繰り返していました。大事なことは二回言う。それでこの日いちばんの笑いがめちゃくちゃ起こっていて、いや愉快痛快。

なおプレゼンの結果については、華文ミステリならではと思わせる作品世界という点で陳漸『西遊八十一案 大唐泥犂獄』が選ばれました。

総括としては、各社上手い具合に傾向の異なるミステリが紹介されて、非常に興味をそそられました。
イベント中、陸秋槎先生が「今の華文ミステリは大きく分けて三つの流れがある」「歴史ミステリ、社会派的なサスペンス、日本の新本格に影響を受けた本格ミステリ」「今日紹介された作品を全部読めば華文ミステリのすべての流れが分かる」といった趣旨の事を語り、ますますこれは各作品すべてチェックしなくてはという気持ちにさせられました。そういう意味でも成功した販促イベントだったのではないかと思った次第。

ちなみに会場には先の陸秋槎先生、日下三蔵氏の他にも北原尚彦、千街晶之、青崎有吾、稲村文吾各氏と錚々たる面々が集い、この分野への注目の高さが窺えました。いや思い返しても凄いな!

物販でも雷鈞『黄』など気になりつつ読めてなかった作品も購入し、文藝春秋の荒俣さんにも数年ぶりにご挨拶できたり。非常に良い機会でした。とりあえず今年はこれらの作品の刊行を楽しみにしたいと思います。華文ミステリの未来はアツい!!!!

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