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世界の高評価、大作である必要なし

誰でも世界に届けられる時代、そこから先は作品力。
規模や数、華飾や圧が通用する時代は過ぎた。
世界を魅了する作品には、核たる “要因” がある。

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太一(映画家):アーティスト業界情報局
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日本未発表の国際映画業界情報 あるいは、
監督がスタジオから発する生存の記
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『 最近のはなし: 』

仮眠から起きた瞬間、不安を感じている自分に気付いた。
“感情のバグ”だ。

なににも動じることのない職業柄こんな時を、
状況を分解して観察する、興味深い機会だと想っている。

まず、原因を探ってみる。

仕事は通常運転、むしろ好機。
私生活は、そもそも無い。
作品への、迷い、
悩み、戸惑い、見栄、妥協、挑戦、失敗、冒険、怪我、反省、忘却、開き直り、発進、また迷い、それも日常と変わらない。

とすると、理由のない想定へのネガティヴな選択、が行われている可能性がある。いや、いまの今まで寝ていたわけで、論理的な選択が成されている可能性は低い。悪い夢を見た記憶も無い。

わたしには幼少期からの特技があり、夢を観ている最中に夢の中で、「これは夢だ。」と認識できる。悪夢を一次停止することも、目を覚ますことも完全に自在である。その程度の“夢”に、思想を支配され、漠然とした“不安”を感じるなど、考えにくい。

結論は、出た。
今日こそ、「ポスト ヒューマン シミュレーション」の証明に成功したのだ。そうに違いない。この世のすべては、“仮想現実”なのだ。

スウェーデン人の哲学者であり、オックスフォード大学教授のニック ボストロムは彼の論文で、「経験されている我々の現実は“ポスト ヒューマン シミュレーター”による、シミュレーションに過ぎない。」と論じた概念だ。

古代ギリシャのプラトンをはじめ、何千年もの間に哲学者が挑んだ課題であり、ハーバード大学の物理学者リサ ランドールがNBCニュースで否定し、ケンブリッジ大学の数理科学者ジョンD.バロウが証明に挑戦し、かのイーロン マスクが信じて止まないシミュレーション理論がこそ、太一の無意味な不安を生んでいる要因であり、この早朝こそが、“シミュレーションのバグ”に違いないのだ。

あ、いや、

時計を確認すると早朝の日の出ではなく、夕刻の日の入りであった。仮眠ですらなく、寝過ぎ。
わたしの自律神経のバグだったようだ。本日の予定を未消化のまま日暮れを迎えれば、不安が募るのは当然だ。

さて、はじめよう。

『 マニアと偏愛 』

徹底的なこだわりで、その路を貫く人々が注目されて久しい。
自己表現の発信が一般化した現代では、平凡と非凡は一目瞭然。
その先で人々を魅了している層を形容して、“マニア”などと。

しかし、
かの広辞苑に頼ってみれば、マニアとは、熱狂、熱中。

おかしい。熱狂と熱中が人々を魅了した時代は、平成で終わっている。
むしろ、圧高いムーヴメントの虚飾は剥がれ、“箱頼り”のイベントや店舗、商品やサービスまでもが、偽物だとバレたこの時代に、“マニア”は受けるはずがない。

人々を魅了している力、それは“偏愛”だ。
偏愛とは、偏った愛情のこと。つまりは、“突き抜けたこだわり”である。
偏愛は、趣味や流行とは無関係の、探求を示している。

情熱とやらの温度を伴わないために、冷めることがない。
その活動をたとえるなら自分に課せられた任務、つまり、“使命”である。
現代が人々を魅了しているその先端には必ず、偏愛に生きる使者がいる。

『 アカデミー賞 』

友人がアカデミー賞を受賞したのは、引退後、だった。
彼は十代から夢描き、渡米して国籍を移してまで奮闘したにもかかわらずノミネートに終わり、業界を去った。

しかし、彼は熱狂的な職務のマニアではなかったがために熱が冷めて立ち止まることなどなく、映画業界で生きていたころと同じ毎日を送っていた。そんなある日、主演俳優からのたっての希望、指名により、一度きりの映画界復帰。

その職責において偉業を成し遂げ、初のアカデミー賞を受賞。指名した主演俳優にも、主演男優賞をもたらした。驚くべきは友人の実力であり、一度きりの復帰にもかかわらず彼の技術は、引退当時とは比べ物にならないほどに向上していた。

彼は偏愛の先に探求を続け、引退後もなお、技術を向上させ続けていたわけだ。重要なのは、引退からのブランク。技術向上のためのみならず、人々に“成長過程を観せない期間”が発生したことで結果、“突如の技術向上”を発表するに至った。翌年、彼は二度目のアカデミー賞を受賞した。

『 カンヌ ライオンズ 』

親愛なる師匠の監督が、業界最大の企業社長に就任した。
常識をするりと回避する才能で、世界最大の広告賞「カンヌ ライオンズ」においてアジア人初、最高賞を獲得した偉人である。

彼のクリエイティヴに他の監督たちとの違いは、多くない。規模の大小、条件の難易度、スケジュールのタイトさなど、天才だからとて好条件などなくそれでも、圧倒的な差を生み出した。

会議も一般的、スタッフも同じ、クライアントも通常で撮影に特別な仕掛けもない。しかし、現場の空気は圧倒的に異なっている。それは毎回であり、つまりは意図的に整えられている状況であることに違いは無い。

師匠の撮影現場は常に、リラックスしている。他に張り詰める緊張感や笑いに満ちた現場は、いくらでもある。しかしそれはどちらもが、力んだ先にあることは明白だ。

広告界の頂点に君臨する彼が生み出す撮影空間は、誰もが集中できる、自分のためのリラックスが許されており必然、全部署が最高スペックを発揮している。

圧倒的なスタッフの掌握は熱でも力でも無く、いつでも変わらない巨匠監督の穏やかな態度による。誰からも信頼される彼は主張することもないままに監督から社長に就任しもちろん、変わらぬ態度で、伝説を更新し続けている。

彼らはなにも、特別のことをしていない。しかし、世界の頂点に立った。そして、変わらぬ毎日を続けている。当然この先にも続く“使命”への責務を、生きていくのだろう。

“偏愛という使命”のはしごは、世界の頂点につづいている。

あぁ、ところで。
まだ日本に入っていないニュースをお知らせしておこう。

■ 最新国際News:NETFLIXには、いま観るべき“日本映画”がある

ファンタジーアニメーションが、話題だ。それは、NETFLIXで観るべき、日本映画「Children of the Sea(海獣の子供)」。海を舞台にしたファンタジーアニメのアドベンチャーで、2019年に公開されて以来、ファンの間では話題になっていた。2020年09月のThe Numbers(※映画ビジネス ランキング データ サービス)で18位にランクインし、NETFLIXでの配信以降さらに注目が増している。実のところ、112分間の「ストーリー」については評価が低い。物語は“浅い”と評され、批判メディアのRotten Tomatoesでは失格スコアをぎりぎりで越えた62%、観客スコアでは61%に留まっている。しかし、この内容が不十分な映画は、映画界のプロフェッショナル評価が極めて高く、常に最上級を示している。「映画“海獣の子供”は、好奇心、意欲、そして言葉にできない美しさで視聴者を包み込む」「哲学的な提案が的を射ている」ニューヨーク タイムズ紙も、詳細な好評を寄せている。「この映画の内容の多くは"全くの謎 "であり、"全くの困惑 "を感じさせる。しかし、それ以外の魅力に溢れている。伝統的な手描きとCGI技術を組み合わせて作られたアニメーションは、不思議な感覚を呼び起こす気まぐれな音楽を備えている。実際、この作品では、海とのつながりを、より複雑で哲学的なアプローチで表現することに成功している」 このように、筋書きには納得できない。しかし、このアニメは鑑賞後にも価値の余韻が続く。この映画は、詩的な視覚だけでも十分に、貴方を魅了するだろう。 - MAY 19, 2021 Looper -

『 編集後記:』

2019年、 STUDIO 4℃製作の日本のアニメーション映画「海獣の子供」が現在、NETFLIX公開を経て国際映画人の間で話題になっている、という記事。

米津玄師さんの主題歌「海の幽霊」のMV.で、その映像を観た人は多いだろうしかし、この映画を鑑賞した人はきっと、それほどでもない。観るべきだ。

プロフェッショナルたちから「美しい」と称賛されている本作に、新海誠監督、細田守監督作品をイメージしていると、怪我をする。田舎の描写に華美はなく、漁村は匂い立つ程で、過剰な画の効果は排され、クリーンナップされすぎていない線は、荒い。

すべてが徹底的な意図によりそう表現されていることに気付くまでは、面食らってしまう観客も少なくないだろう。公開時の興行収入は4億5000万円に留まり、お世辞にも成功ではない。昨今の巨大な興行収益の話題と比較するまでもなく、労に見合う成績ではない。

しかし、だ。
こだわりの先にある徹底的な“偏愛”が生み出す作品が、世界に届くことを証明した歴史的偉業作品である。それはきっと、製作の“覚悟”と、完成への“執念”が導き出した正当な結果だ。

第一線で活動しているアニメーターたちに、この「海獣の子供」作品評を求めてみたところ、他の作品には聞いたことのない、絶賛だった。

なるほど、アニメーション素人のわたしにも届き、超一流のプロフェッショナルにも届く。世界を串刺す力のある作品とは、こういうものなのだ。

世界を魅了した作品に勇気を得て、偏愛の先、映画製作の現場へ帰るとしよう。では、また明日。

■ 太一(映画家):アーティスト業界情報局 × 日本未発表の国際映画業界情報 あるいは、 監督がスタジオから発する生存の記