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手のひら返してなにが悪い、の時代

ダサい。しかし“加速社会”の現代においては既に、成功マナーだ。
このトピックでは、捨てる価値を、知ることができる。クリエイターとアーティストたちが、時代を走るために必須な条件になるだろう。

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太一(映画家):アーティスト業界情報局
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日本未発表の国際映画業界情報 あるいは、
監督がスタジオから発する生存の記
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『 前言撤回ではなく、“更新” 』

スパコンが読み誤る10年後の近未来を見通せるビジョナリーは、存在しない。身代わりの早さは、スキルである。

世界が一時停止したその時から、経済を牽引してきた最大手企業たちが未来を見通せず、各“業界”を牽引できない事実が露呈した。世界にアベンジャーズは存在しないことが、証明された瞬間だ。

一方で、華麗に時代に舞う人々も現れた。立場も活動内容も全く異なる彼らだがそこには、いずれもベンチャーや個人だ、という特徴がある。次の呼吸に必死な大企業と水を得た小魚たちの明確な違いは、「スピード」である。

日々ではない、刻一刻と変化し続けている情報に対応して行動を最適化する生き方には必然、“方針転換”が発生する。だが正しくは前言の撤回などではなく、より多くの情報を手に入れてのデューデリジェンスでありそれは、「更新」である。

「前と言ってることが違う!!」という人がいる。

彼らは過去を生きているタイムリーパーであり、現代、ましてや近未来には無関係な人物であるので、気にする必要も無いようだ。
“スピード”は、「更新」の結果なのだから。

そこで、日本に入っていないニュースをお知らせしておこう。

■ 最新国際ニュース:スティーブン スピルバーグ、手のひら返してNETFLIXとパートナーシップ

スティーブン スピルバーグ率いるAmblin Partnersは、ストリーミングサービス向けに毎年複数の新作長編映画を製作するというパートナーシップを、NETFLIXと締結した。

Disney+やHBO Maxなどの競合他社の登場でストリーミングサービスの競争が激化しているこの時期にNETFLIXは、映画業界で最も伝説的な監督の一人にアクセスできるようになった。この動きは驚くべきものであり、ハリウッドで起きている大きな変化の表れである。

スピルバーグ監督はこれまで、NETFLIXに懐疑的な見方をしていた。例えば2019年にスピルバーグ監督は映画芸術科学アカデミーに対し、ストリーミング配信作品をアカデミー賞の受賞対象から外すよう、促したと報じられている。しかし、監督に近い関係者は「スピルバーグ監督がNetflixの資格を阻もうとしたことはない」と異議を唱え、スピルバーグ監督はその後、ニューヨーク タイムズ紙に声明を発表し、NETFLIXがアカデミー賞を受賞するのを妨げようとしたことを否定している。

また、劇場での体験を支持していることを再確認するとともに、「私は、人々が自分に合った形や方法でエンターテインメントを見つけてほしいと思っています。大画面でも小画面でも、私にとって本当に重要なのは素晴らしいストーリーであり、誰もが素晴らしいストーリーにアクセスできるべきです」と述べた。こうした動きは、大手スタジオがリスクを回避する傾向を強め、“スーパーヒーロー映画”や“フランチャイズ映画”を優先して、より個性的な作品を見送るようになった時期と重なっている。スパイク リー(「Da 5 Bloods」)やマーティン スコセッシ(「The Irishman」)などの大物監督は、ハリウッドのメジャースタジオが彼らの映画の予算に難色を示した後、ストリーミングと手を組んだ。デビッド フィンチャー監督も最近、NETFLIXと複数年契約を結んだ。
CAAはAmblin Partnersに交渉のアドバイスを行った。NETFLIXの映画には、予算やジャンルなどの条件はない。- JUN 21, 2021 VARIETY -

『 ニュースのよみかた: 』

NETFLIXを徹底批判していたスピルバーグ監督が手のひら返して、複数年契約。ハリウッドメジャーのスタジオに予算を渋られた大物たちが続々と契約締結する中でついに、ハリウッド頂点のスピルバーグ監督までもが。NETFLIXは予算もジャンルも問わないから無理もない、という記事。

スピルバーグ監督がNETFLIXを批判し続けていたのは、公然である。にもかかわらずの不細工な言動、じつに立派である。本心だ。後述する。

ハリウッドには“Big6”という代表的な6社の映画スタジオがあったが、最大だったワーナー ブラザーズが親会社のAT&Tに見限られたタイミングにある。ハリウッドの王であるスピルバーグも本契約した事実から、NETFLIXは実質的な“ハリウッドの頂点”となったわけだ。これだけの大事件にもかかわらず衝撃が少ないのは、それほどにハリウッドが弱体化していたから、と言える。

Amblin社はカリフォルニアのユニバーサルスタジオの敷地内、“ウォーターワールド”のアトラクションの東角にある。The Hollywoodを象徴していた同社ではあるがその規模は、各国NETFLIXオフィスの駐車場よりも小さい。ハリウッドへの影響力を誇っていた王の最大の権力は、“アカデミー賞”であったわけだがそれとて、“いちテレビ番組”であり視聴率すら低下の一途。メディアの取り扱いの裏では最初から、対立できるサイズですらなかったのだ。

個人的なところでは完全に、“スピルバーグ世代”の映画人。
「あのハリウッドは、いま終わったのだ……。」と郷愁にかられる。

『 無様、という勝利 』

「スピードは“更新”の結果」だ。そこに疑いはない。

各業界の大人物たちの中でも、近未来の成功に向かう、向かってきた人々は誰もが、手のひらを返してきた。言い換えれば、「過去を捨て続けた」ということ。「時代スピード」は、情報更新という過去の断捨離によって得られるスキルである。先の記事にあった、スピルバーグ監督の手のひら返しは、見事としか言いようがない。嫌みでもなんでもなく、彼ほどの地位と名声があればなんなら、もうこんな無様を晒す必要などない。にもかかわらずかの王は、“未来を手に入れる”ために、更新する生き方を選んだ。

スピルバーグ監督はかつて、“最先端”であった。記述の導入もセンスも挑戦も記録も、すべてが時代の先を行っていた。現在では、違う。個人的な肌感では、「ジュラシック パーク(1993)」で終わっていた。

ただの見学者として末席の隙間から覗いたわたしにも、スピルバーグ監督自身がその映画のVFX技術を理解していないことは一目瞭然だった。作品の地位と予算がスタッフを動かしており、監督はといえば、各国から招集された天才スタッフたちが提供する選択肢を、選別しているに過ぎない。

もちろん、演者の演出には天才スピルバーグの監督術が発揮されたことに、疑いはない。現在もまた、ただしい“選択”を行い彼は、ハリウッドという作品を演出して、勝利へと導こうとしている。

その方向は正しく、スピードもあり、きっと成功する。

『 情報を捨てる 』

著名な文化人やスター、業界にそびえる巨匠たちは、「質問」が多い。
彼らは誰からも注目される有名人であり、業界内に確固たる地位を持ち多くは経済的にも仕上がっている成功者でありながら、目の前の誰にも興味をもち、初対面早々から「質問」を繰り出している。

「なるほど、成功者は情報のインプットに熱心だな」
そう感じていた若造のわたしはこの歳になり、違う、と知っている。

成功者たちの多くは、過去を語らない。
ともすれば語りたいのではなく、覚えていないのだ。過去の情報に無関心な彼らは自身の“想い出”にも無頓着だ。過去の情報には興味がないので当然、新しいことを知ろうとする。その結果が、「質問」なのだ。

一説によると、ヒトの脳の記憶容量は “17.5TB” だそうだ。脳を構成する神経細胞同士をつなぐシナプスの数と処理能力から計算されている。恐ろしいことだ。17.5TBといえば、4K画質の2-Cam.で撮影された劇場用映画2作分の撮影済みデータ程度のもの。これを書いているスタジオの編集記には、120TBのRAIDが組まれている。そんな僅かな容量ならば当然、“古い情報を捨てる”ことが必要だ。

重要なのは、現在を起点として「直近未来」に繋げる実務。
“ビジョン”という言葉には未来像の他に、“状況”という意味がある。
状況とは、時と共に変化する物事の “その時” のありさま、を言う。

過去の価値は、下がりはじめている。
歴史からの学びに、再現性が無くなっているためだ。
「捨てるが価値」などと、上手くまとめるのは本意ではないが。

『 編集後記:』

プレゼンテーション、というブームがあった。
スクリーンを背景に壇上で、カジュアルな服装の事業家がビジョンを語り、製品を発表するあれだ。多くのビジネスマンたちが真似て、Show化することを頑張っていたように想う。多くは演出に素人で痛々しく、全行にハイライトをひいた参考書のような内容は輝かない。しかし、ブームは去った。

自分らしさ、正直な想い、短いセンテンスで構成された最近の語らいは、心地良い。過去はほどほどに押しつけはなく、率直なラリーに年功序列な社交辞令は多くない。ジジイの責務は、語らないことにある。気付かれるまで、「質問」をし続けたいものだ。

人間は聞くよりも、喋りたい生き物だ。アーティストは、特に。
ならば、聞くチャンスがある。

若さが指揮を執る現場を奨励しながら、映画製作の現場へ帰るとしよう。では、また明日。

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