東日本大震災13年目のメインテーマは能登半島地震への教訓

 3・11が近づくにつれマスコミの特集が増えるのだが、最近は東日本大震災の復興の検証・教訓がメインになっているようだ。
 特に今年は元旦に能登半島地震が発生して一気に各報道機関とも震災報道モードに切り替わり、3・11特集も東日本大震災の教訓を活かそうという 方針で固まったように見える。
 能登半島地震の犠牲者の死因別内訳をみると、倒壊した建物の下敷きによる「圧死」が多くを占め、津波にのまれた「溺死」が圧倒的多数だった東日本大震災とは被害の態様が違うので、復興のあり方も変わってくるという意見ももっともだが、「人口減少下の過疎地での復興」という点では共通しており、参考にすべきことは少なくないだろう。

 ちなみに、能登半島地震で特に被害の大きかった4市町(輪島市・珠洲市・穴水町・能登町)の人口(60,179人:2023年1月住民基本台帳人口)は宮城県気仙沼市(58,926人)に近い。事業所数や従業者数、平均課税所得なども同様である。
    観光入込客数(2019年)は調査実施主体が違うので単純比較できないが能登地域は県内シェアで3割近く、年間で500万人を集めており観光誘引力は気仙沼よりも強そうだ。
    一方、特徴的なのは高齢化率(48.7%)や空き家率(18.3%)で、気仙沼より過疎化が進んでいることがうかがえる。

 事業所数や従業者数は似たようなもので、特に従業者数は地方にありがちな二次産業、小売業、医療福祉に偏った姿である。気仙沼では大手の工場や店舗が雇用の受け皿となっているが、能登半島4市町は小規模事業者が多いようだ。

産業別の構成比を全国平均の構成比で割った特化係数でみても大体似た傾向だが、能登半島4市町は「複合サービス事業」が突出している。これには郵便局や各種協同組合が含まれるが、共同事業としての「なりわい」が多いと言える。

 このような地域を復興・再生させていくには何が必要か。
 正直言って、かなりの難題である。もともと人口減少・高齢化の進む過疎地なので、震災がなくとも持続可能性の維持するのは容易ではなかったからだ。10年単位で取り組まなければならなかった課題を震災によって早々と突きつけられた格好である。

 能登半島地震の発災から2週間少々の先月19日、東日本放送のスタジオにお邪魔した際には宮城県山元町を取り上げ、理想的な「コンパクト」市街地に再生をしたこと取り上げてもらった。
 「復興にはスピード感が必要」「宮城・山元町の復興の在り方が被災地復興の教訓」能登半島地震で専門家 | khb東日本放送 (khb-tv.co.jp)
 ここでは「成果と課題」という対比になって「時間がかかったこと」を教訓としているが、山元町に街づくりは100点に近いと思う。
 内陸部にJRの駅を新設してその周辺に住宅と商業施設を集約する街並みは、単なる復旧・復興のみならず、将来到来する「超高齢化社会」でも車を手離しても暮らせる理想的なウォーカブルタウンと言える。人口減少社会は行政の担い手も当然減るわけだが、その中で行政コストを抑えてサービスを維持し、地域の持続可能性を確保するためにはコンパクト化が最適解である。
 山元町では、確かに震災発災から街びらきまでの5年半で転出超過が続いたが、これには続きがある。

 山元町が街びらき(2016年10月)をした翌年(2017年)以降、全体では進学・就職年齢帯(15~24歳)は転出超過だが、育児・働き盛り世代である30・40代は2023年までわずかではあるが転入超過で推移している。
 山元町は東北最大都市で県都の仙台から電車で40分以上を要し通勤圏からは外れるため、仙台近隣自治体と違ってその恩恵を受けにくい。自治体の子育て支援策などもあるが、このコンパクトで暮らしやすい街並みへの評価とも言えるだろう。

 なお、社会保障・人口問題研究所が2023年12月に発表した地域版の将来推計人口によると、山元町の2050年の人口は7,911人と2020年から34.3%減少する予測となっているが、宮城県内35市町村の2050年の人口順位は23位となって、2020年(27位)から順位を4位あげている。

 長期的には少子化と都市部への人口集中により地方は大幅な人口減が避けられないが、問題はそのペースを緩やかなものにすることである。その意味で「人口減少を覚悟してそれに備えた街づくり」を行った地域で「人口減少が緩やかになる」という逆説的な状況を生みつつある山元町は被災地のみならず、多くの過疎地の街づくりの参考になるのではないだろうか。
 
 ちなみに、前掲の東日本放送の記事をみた石川テレビから、「東日本大震災の教訓」として取材の依頼を受け、発災1カ月となる2月1日の特番で放映された。
 「単に元に戻すことではない」能登地震から1カ月 “東日本”の復興で専門家が評価する宮城の町の成功例 | 石川テレビニュース | 石川テレビ放送 ishikawa-tv.com
言っていることは繰り返しになるが、この後、スタジオのコメンテーターである金沢大教授に
「経済的にはそれが正しいかもしれませんが、能登半島では伝統的に集落単位のなりわいを大事にしてきたのであって、ドローンや自動運転など最先端のテクノロジーの力を使って、それらの伝統を守るべき。」
とバッサリ切られたところが興味深かった。 
 地域の伝統や高齢者を中心とした住民感情や意向が大事なのは言うまでもないが、ただ単に元に戻すだけでは持続可能性のない地域を創り出すことになりかねない。
 もちろん、社会課題の解決に最先端技術を駆使することが大いに結構だが、災害時には最先端技術も障害で機能しなくなるリスクが高いことや、そもそも誰がそのコストを負担をするのか、という難題をクリアしなければならない。人口減少で課題を抱えるのは被災地だけではないのだ。
 コンパクトな街づくりは現在の住民を移動させるのが最大の困難で進まないのだが、災害とは言えリセットされた過疎地では導入しやすい。災い転じて福となし、地域の持続性を高めるために奮闘した山元町をもっとお手本にすべきではないか。
 


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