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「引き寄せの法則」を考える 〜磁気と電流の歴史を添えて〜

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「引き寄せの法則」という言葉がある。日本語だと分かりにくいけれど、Law of attraction(引き寄せの法則)は「ニューソート」、つまり19世紀初頭のアメリカで始まった、キリスト教をベースとした異端的宗教、一種の霊性運動の流れに連なる思想としてカテゴライズされている。

英語版のWikipediaによれば、その具体的な活動内容(Activities)として「Affirmations(言い切る肯定)」「Affirmative prayer(断言する祈り)」「Creative visualization(創造的視覚化)」「Personal magnetism(パーソナル磁気説)」「Positive thinking(積極思考)」の5つが挙げられている。日本語訳は僕によるもの。

これら5つの「思考のベース」みたいなものの、何がやばいのかを丁寧に書いていくことで、「引き寄せの法則」に引き寄せられちゃう人たちに一応、大丈夫ですか、と声をかけたいと思う。

と言いつつも、すでに引き寄せられている人には何を言っても無駄だと思うので、結局のところ、「引き寄せの法則」に疑問を持ち抵抗する心意気のある人、あるいはそもそも「引き寄せの法則」が気持ち悪いと思っている人たちの共感を集めるだけの記事になると思う。

付け加えると、自分の思考が「引き寄せの法則」だとは知らずにほぼ「引き寄せの法則」みたいなことを言ったり書いたりしている人、つまり無自覚な「引き寄せの法則」信者たちが、実は純粋な「引き寄せの法則」信者たちよりも多いと思う。そういう人たちへのラブレター、あるいは赤紙とも思いながら書いていきたい。

ちなみに、僕だって中学生のころ、斎藤一人の本を読んでそれなりに感銘を受けたクチである。だから、なんだかんだ言いながら、みんなの気持ちもなんとなく、わかるのである。

それでは、いちばんやばさが分かりやすい「Affirmations(言い切る肯定)」からいきましょう。

Affirmations(言い切る肯定)

アファーメーションズのヤバさは、YouTubeで「アファーメーション」と検索すれば一発で出てくるし、これでやばいと思えなかったら終わり、というような感じすらある。動画、マジで怖い人もいると思うので、注意してください。

ほとんど呪いのビデオのような感じがあるが、「言霊」みたいなものを肯定する人が行き着く先、という感じもある。

そう、「言霊」も「引き寄せの法則」の一形態と見ることができる。「言霊」を漠然とでも信じている人たちは、「引き寄せの法則」に片足を突っ込んでいるようなものなので、気をつけた方がいい。

「言霊」信仰は、「世界が自分の言葉に引き寄せられる」という態度の表れである。つまり、「ポジティブな言葉は幸運を引き寄せる」「ネガティブな言葉は不幸を引き寄せる」というのが「言霊」論者がよくいうことであって、この考え方は「引き寄せの法則」の核心に近いと言ってもいい。これは後述する「Affirmative prayer(断言する祈り)」にもつながってくる。

ちなみに、アファーメーションズの本質は「繰り返し」言い切ること、つまり「ズ」の部分にあるのだと思うけれど、日本語では一律で複数形が抜けた「アファーメーション」になっていて、間抜け感が増している。ちなみに、英語でAffirmationsと検索して出てくるビデオは、少なくとも「ありがとう」と千回言うほど脳が壊れてはおらず、似たような意味のポジティブな言葉を唱えて、聴いている人にそれを復唱させるパターンが多そうである。

ただまあこれも、エヴァンゲリオンで主人公のシンジくんが「逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ」と連呼して自身を奮い立たせるシーンがあったり、小学生が「机机机・・・」と書き取りの練習をさせられたりするように、繰り返すことで何かが起きる的な感覚は、わからなくはない気がする。念仏もそのようなものだし、頭ごなしに否定してはいけないのかもしれない。

Affirmative prayer(断言する祈り)

あらためて「affirm」という言葉を見ると「肯定する・断言する・言い切る」というような意味がある。

祈りとは、ほんらいなら未確定のはずの未来に向けられたものである。病気の人が、「病気が治りますように」から「絶対に病気は治る!」を通り越して、「病気が治ったぞ!」と言いはじめちゃうのが、このAffirmative prayerである。つまり、「めちゃくちゃポジティブな現実逃避」と言えるかもしれない。

でもこれって、少なくとも「自分は絶対に治らない」、あるいは「自分は死んだ」と思うよりは、良い考え方な気もする。それに、目の前で死にかけている人がいて、救急車が到着したら「もう大丈夫だよ」と言ってあげるのが、人間の優しさでもある。救急車は呼んだら絶対来るので、救急車が来たからといって患者の命が必ずしも助かることはないにせよ、苦しんでいる人には大丈夫だよと、言ってあげたいではないか。それの自分バージョンということなら、少し納得がいく。

これは、根性論にも近いかもしれない。高校球児が、絶対に取れないボールにも飛び込んだり、絶対に間に合わない一塁にヘッドスライディングするのも、一種のアファーマティブ・プレイヤーである(PrayerとPlayerをかけています)。

ギャグを言いながら気づいたけれど、高校球児は自分が飛び込むという点で、やはりprayerではなさそうである。ボールを念力でこちらに動かそうとするのがAffirmative prayerで、ボールに飛び込んで少しでも距離を縮めようとするのはAffirmative player。この両者はまったく別物な気がしてきました。

Creative visualization(創造的視覚化)

Creative visualizationは、「Affirmative visualization」と考えてもいいように思う。つまり、言葉で物理世界を捻じ曲げたつもりになる(Affirmative prayer)行為の「ビジュアル版」である。「信じるものは救われる」のが「Affirmative prayer」だとすれば、「信じて、さらに頭の中で詳細に想像した人はもっと救われがち」なのが「Creative visualization」とも言えるかもしれない。自分がうまくいった状況、あるいはリラックスできる状況を想像することで、実際にそこに至ったのと同じような感覚になる、というような説明がされることも多い。

これもある意味、人間の想像力の本質に近いもので、批判するのが難しいけれど、Creative visualizationの困ったところは、そのような頭の中での想像のみで、現実世界での成功が近づいたと思ってしまう事である。「絵に描いた餅」を千枚描いたら、そのうち絵の中から食べられる餅が転がり出てくる、と言っているように聞こえる。

Personal magnetism(パーソナル磁気説)

「引き寄せの法則」を実践すると、その人には磁気が発生して、幸運や素敵な人を引き寄せることができる。これが「Personal magnetism(パーソナル磁気説)」である。

いきなり磁石が出てきて少し困惑するけれど、「Personal magnetism」の元になっているのはMesmerism(メスメリズム)、つまりAnimal magnetism(動物磁気説)である。これは、「動物や人間など、生物はみな目に見えない自然の力を持っていて、それが磁力で説明できる」という立場である。

そもそも、「引き寄せの法則」の本家本流である「ニューソート」の元祖、Phineas Quimby(フィニアス・クインビー、1802-1866)こそがメスメリストであり、「動物磁気説」を唱えていた。「引き寄せ(attraction)」の出典というか参照元は、本当にあの「磁石」の「引き寄せ」なのである。そして、ニューソートも「動物磁気説」も「引き寄せの法則」も、磁力と電流の歴史と同時に発展した。だから、本来であれば20世紀初頭に「動物磁気説」が死んだとき、「引き寄せの法則」も共倒れしたはずなのだ。しかし、「引き寄せの法則」だけが今もなお、しぶとくゾンビとなって蘇り、バカに噛みついているのである。

さて、動物磁気説は、磁力(磁性)の歴史と重ね合わせて読むことができる。おおまかにではあるけれど、「動物磁気説」の黄金時代は19世紀で、これは「電磁石」が発明された1820年以降の、磁力の仕組みが解明されていく19世紀の歴史と重なっている。(ちなみにこの電磁石というのは、電流によって磁場を発生させるelectromagnetのことである。ゴミ溜めの中に巨大な電磁石を放り込んで、電流を流して金属だけをグーっと引き上げてゴミの分別ができる、あの技術である。)

ここでミソとなるのが、「電流を流すと」という部分である。1780年に筋肉の収縮に電気刺激が関連していると発見されてから、電気生理学は大きく発展していく。つまり、人体と電流の関係、人間にも微弱な電気が流れている、といういわゆる「生体電流」が明らかになっていったのが、電磁石と同じく19世紀なのである

つまり、「人体と電流の関係」および「磁気と電流の関係」がホットなトピックとして研究されていた19世紀に、「電流」を接着剤としてこの二つをガッチャンコした「人体と磁気の関係」論こそが、「動物磁気説」なのである。19世紀にここに目をつけた人々は、仕方がなかったというか、勘が良かったとすら思う。しかしご存知のように、人間の身体には磁気を発する器官も、磁気を感知する、コンパスのような器官もなかった。「動物磁気説」は、今から100年も昔にはすでに疑似科学の烙印を押されている。

磁性の歴史について補足すると、その後、現代のいわゆる磁石、つまり単独で磁力を維持するような永久磁石(permanent magnet)が1920年に発明される。電流を流さなくても磁力を持つ、つまり僕たちが想像するような「冷蔵庫にくっつく」タイプの磁石が登場したのだ。人体と磁力の関係を考える際の「接着剤」であった電流が、磁石にとって必須ではなくなった。このことは、動物磁気説が廃れていく過程に、少しは影響を与えたかもしれない。もちろん、こんな大げさなことを考えているのは僕しかいない可能性もある。

話がややこしくなったのでまとめよう。「引き寄せの法則」は「動物磁気説」と双子だった。双子は20世紀初頭の時点で、科学の進歩によって殺されたけれど、片割れの「引き寄せの法則」はゾンビ化して復活、いまも書店の棚から噛み付く相手を物色している。

Positive thinking(積極思考)

「引き寄せの法則」としてのポジティブ・シンキングは、みんなが大好きな「前向き」とは違う。つまり、通常の「ポジティブ・シンキング」とは別物と考えた方がいい。日本語では「積極思考」と訳されていることが多いみたい。

で、「積極思考」とは「心や思考を変えることで、健康や経済状態が変わっていく」という考えらしい。こう言うと、Creative visualization(創造的視覚化)と似たような気がするけれど、唱えもせず、ビジュアル化もせず、生活の中の判断や思考に沈着させるという意味で、アファーメーションをもう一段階さらに内面化したもの、なのかもしれない。しかも、積極思考をマスターすれば、「長い目で見て」「なんとなく」ではなく、心のありよう一つで、病気から自然災害まで退けることができるらしい。「気の持ちよう」が世界のあり方に超物理的な磁力でもって影響を与えると考える、「引き寄せの法則」の究極形態ともいえる思考である。

あとがき

さて、「引き寄せの法則」の5つの活動について見てきましたが、いかがでしたでしょうか。好き勝手に書いたあとになって、一冊でも、ちゃんと「引き寄せの法則」の古典を読んでから書くべきだったような気がしてきました。というわけで、この文章を書くためにいろいろ調べたなかで頻出した、「引き寄せの法則」で有名な本を3冊挙げてみました。日本で最近でも雨後のタケノコみたく出版されている本よりは、きっと読んでみる価値があるのではないでしょうか。

  • Wallace Wattles『The Science of Getting Rich』(1910)

  • Napoleon Hill『Think and Grow Rich』(1937)

  • Rhonda Byrne『The Secret』(2006)

参考にした記事など

https://www.neomag.jp/mag_navi/column/column007.html
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8B%95%E7%89%A9%E7%A3%81%E6%B0%97%E8%AA%AC
https://en.wikipedia.org/wiki/Creative_visualization_(New_Age)
https://en.wikipedia.org/wiki/Law_of_attraction_(New_Thought)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A9%8D%E6%A5%B5%E6%80%9D%E8%80%83
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%BB%E7%A3%81%E7%9F%B3
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B0%B8%E4%B9%85%E7%A3%81%E7%9F%B3
http://www.magfine.co.jp/magnetkids/secret/history.html
https://kotobank.jp/word/%E9%9B%BB%E6%B0%97%E7%94%9F%E7%90%86%E5%AD%A6-102185
https://holdings.panasonic/jp/corporate/sustainability/citizenship/pks/library/001electricit/ele011.html
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A3%81%E6%80%A7


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