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【レビュー】浅田統一郎『マクロ経済学基礎講義 第2版』(中央経済社, 2005年)

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分野:マクロ経済学
分類:教科書
レベル:やや難な初級
特徴:定理の証明が厳密で丁寧。通常の市販の教科書では扱われないポスト・ケインジアン経済学の定理が多数載っている。

目次は以下の通り。

第1章 国民経済計算の基礎
第2章 短期における国民所得の決定
第3章 貨幣の需要と供給
第4章 IS-LM分析
第5章 投資と消費
第6章 総需要・総供給分析(IS・LM分析の拡張)
第7章 開放経済のマクロ分析
第8章 経済成長と景気循環

ネットで調べて見ると、経済学部の編入試験の勉強で使う人がいたりと、マンキューマクロなどの初級の教科書よりずっと難しい。ある意味「基礎」詐欺な教科書。マンキューマクロやスティグリッツマクロなどといった大学の1,2年のマクロ経済学の教科書とは違い、数式が多く出てきて定理の証明が厳密かつ丁寧なのが大きな特徴の1つだ。マンキューマクロなんかだと、定理・法則の前提条件や仮定条件があまりちゃんと書かれていないが、この教科書だと、それがしつこいぐらい書かれている。数式は多く出てくるが、若干の微積分の知識があればそれほど困らない。前提条件・仮定条件と数式をノートに書きながら抑えつつ、ちゃんと論理を追っていけば理解できる親切設計となっている。逆に言えば、単に読んだだけではよほど頭が良い限りは絶対理解できない教科書だ。amazonのこのレビュー(第3版のもの)のように一般の経済書を読むように読んだだけでは、コラム的な知識がついただけで終わってしまうだろう。昨今の「単位がとれる~」とか、「10時間で理解できる~」といった読者に媚びを売る教科書の風潮とは真逆を行っているのは、ある意味で好感が持てる。この教科書で数式に慣れておけば、その後の中級・上級の教科書に進むときに苦手意識を持たずに済むかもしれない。200ページ前後とさほど分厚くはないが、内容は濃密で、普通の教科書では省かれているダイアモンド=サミュエルソンのOLGモデルまでちゃんと扱っている。

OLGモデル

多くの大学で使われるマクロ経済学の教科書では、ニューケインジアン的な立場から書かれているものが多いが、筆者の浅田統一郎先生がポストケインジアン(PK)の経済学者であるからか、他の教科書に比較してPK要素がかなり強い。例えば、第5章ではカレツキの危険逓増原理、第9章ではハロッド=ドーマーモデル、新古典派成長モデルと共にロビンソン、カルドア、パシネッティのポスト・ケインジアンの成長・分配モデルも扱っている。

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経済成長モデルを扱った最後の第9章でこれが出てきて「一体どこに読者を連れて行くんだ?」と思ったが、上級の教科書をやる際に役立つとのこと。「やってて良かった浅田マクロ」になるかもしれない???

これからこの教科書で勉強する人は、第1章~第4章、第6章~第7章をまずこなしてから、残りの章を片付けていけばいいと思う。第5章の「投資と消費」はOLGモデルまで出てきてやや発展的な内容、第8章は、経済成長論自体がやや抽象的なので後回しでもいいだろう。2016年に第三版が出ているが、本屋で立ち読みした限り、開放経済の章が加筆されたのと新たにアベノミクスについての第9章が追加されている程度。第9章はリフレ派の勝利宣言がメインで個人的にはどうでもいいかな。第2版は中古が安いけど、まあその辺は好みで。章末問題も豊富。ちゃんと解いて理解すれば力はつくと思う。

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