守備のフレームワーク

フレームワークで見る2019年のツエーゲン金沢 ~タギリスト的リポート③~ ポジトラ&攻撃編

前回は守備の局面について分析しましたが、今回は守→攻の切り替え「ポジティブトランジション」(ポジトラ)についてです。

ポジティブトランジションには2種類あります。プレッシングや相手のミスにより敵陣でボールを奪取した時「ショートトランジション」と組織的守備によって自陣でボールを奪取した時「ミドル/ロングトランジション」に分けて分析を行います。前回もお話しましたが、とても参考になるこちらの本を参考に、本の順番通りに進めていきます。

https://www.amazon.co.jp/%E3%83%A2%E3%83%80%E3%83%B3%E3%82%B5%E3%83%83%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%81%AE%E6%95%99%E7%A7%91%E6%9B%B8-%E3%82%A4%E3%82%BF%E3%83%AA%E3%82%A2%E6%96%B0%E4%B8%96%E4%BB%A3%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%83%81%E3%81%8C%E6%95%99%E3%81%88%E3%82%8B%E6%9C%AA%E6%9D%A5%E3%81%AE%E3%82%B5%E3%83%83%E3%82%AB%E3%83%BC-%E3%83%AC%E3%83%8A%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%90%E3%83%AB%E3%83%87%E3%82%A3/dp/4905349370/ref=sr_1_1?__mk_ja_JP=%E3%82%AB%E3%82%BF%E3%82%AB%E3%83%8A&crid=2WDEOXLF4DEC7&keywords=%E3%83%A2%E3%83%80%E3%83%B3%E3%82%B5%E3%83%83%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%81%AE%E6%95%99%E7%A7%91%E6%9B%B8&qid=1577782539&sprefix=%E3%83%A2%E3%83%80%E3%83%B3%E3%82%B5%E3%83%83%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%81%AE%2Caps%2C272&sr=8-1

ポジトラ「ショートトランジション」

ショートトランジションに関しては、敵陣でボールを奪取した際に、どれだけ早くゴール前にたどり着けるかという一つの目的に向かっているので、あまり分析の余地がありません。センターサークル付近でのボール奪取は「ミドルトランジション」に含まれるかと思いますので、今回は下の図のようにエリア1とエリア2に分けて考えたいと思います。

画像1

エリア1でボールを奪回した場合には、超攻撃的プレッシングが成功したという事になります。相手CBと同列または相手CBよりもゴールに近い位置でボールを奪う事がほとんどだと思いますので、ボールを奪ったFWがGKと1対1でゴールを狙うという形になると思います。

その場合の対策というのは、これはGKの技術という事になってしまうので分析とは少し違いますね。考えられる事はPAの外であれば、なるべくカードを貰わない形でファールをするという事。もしくは、エリア1にいる選手で足元の技術があまり無い選手がいる場合には、そこでのパス回しを止めるという事をチーム原則とするという事でしょうか。

エリア2でボールを奪った場合にはパスを1回、2回する事になると思いますのでSHの選手の特徴によるところで対応が違ってくると思います。

左サイドでボール奪取できれば、加藤くんがボールを持っていますから、ドリブルによる仕掛けが考えられますので、守備側はより加藤くんをサイドに追い込んで時間をかけさせるのが最重要ポイントになります。金子くんの右サイドの場合は、山根くんを使ってのワンツーや裏抜け、カットインなどが考えられますので、ゴールに対して直進させない守り方を心がけます。

ポジトラ「ミドル/ロングトランジション」

動画で分かりにくかった方は、今から下に説明します。

ミドルでもロングでも金沢の傾向は変わりません。囲んで奪い取るのが基本です。ボールエリアで数的有利を作り出そうとします。主に右半分は大橋くん、左半分は藤村くんがカバーに行きます。そしてボールを奪ったらすぐにボランチにボールを出し、大橋・藤村からFWにボールを展開します。

画像2

画像3

画像4

画像5

リーグ序盤は垣田・小松のFWコンビでカウンターのチャンスを多く演出していましたが、垣田・クルーニーのFWコンビが多かったリーグ中盤は足元の技術が無く、しかもスピードに乗って垣田くんが走っても、サイドに走らされていた為に孤立しカウンターが成功する場面はほとんど見られませんでした

垣田くんの相方が杉浦くんの時も、永遠くんほど前への意識が強くなかった為(守りと垣田くんへの繋ぎの指示が出ていたと思われる)やはりカウンターはあまり成功しませんでした。

さらには後から走ってくる選手に、あまりカウンターに参加する意識も無かった為に、簡単に孤立状態を作られてしまっていました。

リーグ戦後半には、永遠くんが負傷から帰ってきてカウンターが復活。

画像6

画像7

画像8

長崎戦では左サイドに流れた垣田くんからのパスを永遠くんが押し込む形が見られましたし(結果は長崎のOG)福岡戦ではゴールはならなかったですが、一人でゴール前まで3人を引き連れボールを持ち込むシーンなどが見られました。リーグ終盤でようやく金沢の得意な形が出来てきました。

対策としては、攻めている時に予防線を張るという事です。

画像9

常に、味方の攻撃にも敵の反撃にも対処できるようにしておく事。もちろんボールを奪われた味方も、すぐにゲ―ゲンプレッシングを行い、ボールホルダーにプレッシャーを与えないといけないです。ただ、これは守っているチームの守備のプレー原則にもよります。僕が「金沢のカウンターにはこうしたほうがいいよ」と言っているに過ぎませんのであしからず。

垣田くんへボールが渡ったら出来るだけ外へ外へと誘導し、他の選手へのパスコースを切ります。

画像10

動画はここまでです。次は攻撃に移ります。

攻撃の局面「ビルドアップ」

ゴールキックはセットプレーの範疇に入りますので、ここではGKやCBを起点とした「ビルドアップ」と敵陣にボールを運んでからシュートに至る「ポジショナルな攻撃」に分けて分析します。まずは「ビルドアップ」から。

ビルドアップも大きく分けると、縦への展開を急ぐ「ダイレクトなビルドアップ」と後方からパスを繋いで組み立てる「ポジショナルなビルドアップ」に分けられますが、金沢のビルドアップは、皆さんもお分かりの通り「ダイレクトなビルドアップ」が殆どだったと思います。

まず、流れの中で相手が「超攻撃的プレッシング」を仕掛けてきてGKにボールが渡った場合。これは事前に決まっていないそうなのですが、白井くんが蹴る時にアイコンタクトして、ターゲットを決めてフィードを蹴っているそうです。それであれだけちゃんと目標に向かってボールを飛ばせるんですから凄いんですけれど、割合としては垣田くんに飛ばす事が多かったです。

垣田くんは相手CBを背中で背負ってボールをキープする事はほとんどせず、ジャンプしての競り合いが殆ど。競り合った勝率は五分五分といったところでした。しかしセカンドボールを回収出来たのは2~3割(2試合だけしかデータ取ってませんが)だったので、事前に決めておくほうがボールを回収できるのではないかと思いました。

ビルドアップ1

垣田くんはボールを見るあまりに、周りのチームメイトが何処にいて、何処にボールを落とせばいいのか分かっていない様子でした。しかも、相手がパスコースを切ってポジショニングしていた事が多かったので、ボールの回収率が悪かったです。

これはシーズン中に、僕も気になって何度かレビューで指摘していた部分ではありますが、結局改善されませんでした。周りがパスを受けに行く意識もあまり見られませんでしたね。

ビルドアップ2

特定の相手に対してはバックヘッドで味方を自分の後ろに走らせていましたが、これもそんなに再現性があった訳ではないので、事前に決まってはいなかったようです。

この局面に関しては、対策されてしまっていたので分析は省きます。

あとはリーグ後半にかけて山本義道くんからロングパスが出て金子・垣田がCBの裏を取るシーンも見られましたが、得点には至りませんでした。それは何故か。ロングボールの勢いを殺すテクニックが無いからです。足元にボールが収まらないので、危ないシーンにはなりませんでした。

攻撃の局面「ポジショナルな攻撃」

次に「ポジショナルな攻撃」ですが、間違いなく金沢が一番苦手としている局面でしょう。

金沢はリーグ21位というボール支配率が低いチームです。支配率が高ければいいという訳ではありませんが、このフェーズに関してはワンタッチプレーで手数をかけずにゴールを陥れる事を目的としている金沢としては、あまりバリエーションを持っていませんでした。

下の動画をご覧ください。

動画で分かりにくかった方に下で説明します。

まー、ゴールシーンをほとんど見返したのですが、ポジショナルな攻撃からのゴールというのが無い。悲しいほどに。その中でも、「まだこのゴールはこの局面に入れてもいいかな」と思った再現性を持ったパターンが2つ見つかったので下に示します。1つ目は主に右サイドから。

ビルドアップ3

ビルドアップ4

ビルドアップ5

そして2つ目は主に左サイドから。

ビルドアップ6

ビルドアップ7

ビルドアップ8

どちらも手数をかけないという点と、クロスで相手の死角を突くという点では効果的であり、有効な手段と言えます。

一つ目のシーンはCBが長身で無いチームに、二つ目のシーンはCBが長身で動きが鈍いタイプのチームに有効な作戦です。どちらのシーンにおいてもボールホルダーに対するプレッシャーの比較的弱い時を見計らって発動されています。

金沢と対戦する相手の「守備の局面」で、どのような守り方をしているかという事もスカウティングした上での得点パターンです。(ゾーンなのかマンツーマン気味で守るのか、どのようなブロック守備をするか、どこまでプレスをかけてくるのか等)

どちらのシーンにしても、負荷のあまり掛からないクロスは、精度が高まる恐れがあるので、金沢のデータ(クロスでチャンスを作る・・・リーグ3位)から考えると、ボールホルダーをあまりフリーな状態にしておいてはいけません。と、いう事でどちらのシーンでも対処法は同じです。

ビルドアップ9

ビルドアップ10

ビルドアップ11

動画はここまでです。総括のような分析をしていると、いかに攻めのバリエーションが少ないか、セットプレーに頼っているかが分かってきます。(わかってるつもりでしたが、再確認)

次回はいよいよ大詰め!攻→守の切り替わり「ネガトラ」ネガティブトランディションとセットプレーを検証分析します!またお付き合いください!!

ツエーゲン金沢応援集団「RED TAG」運営費用としてありがたく使わせていただきます