イジメと亡霊③

日が木の葉の隙間からこの岩を射すように、何かが僕の心の闇の中に、射すような。

見とれながら僕はかおりさんに問いかける。
「この岩が、どうかしたの?」

岩からは草や木のように情緒が感じられないが、
時流を感じさせる力を感じさせて、
でもそれだけではなく、目に見えない何かがこの岩には感じられる。

「しみじみとした、美しさは目に見えないものだなって…」

ひとみさんの発言は、どこか世間離れしていて、
それでも惹きつけるなにかがあって。

岩のことをもっと知りたいと思い始めると同時に、ひとみさんの"目に見えない部分"をもっと知りたいと思った。

岩を背にして、僕らは次の観光地へ向かう

金沢街道を通るバスや人力車、街並みはどれも美しくて、普段なら写真を構えるけど、
通りすがりの、自分と異なる何でもない人。カップル、老人…学生の集団。外見上怖かったはずの人間が、何を考え、要するに目に見えない部分についてとても気になった。

頭が疲れてしまいそうで、だけど怖さから一歩はみ出た興味が湧いて…話しかけることはとてもできないけど。

僕が見て来たいじめられた日常は、彼らと違うのは間違いないのだけど。

「私は、人間が怖いけど。令君のように優しい人も中にはいて。その人たちの日常のお陰で世の中が、明るく見えるの」

確かに、振り返ればいじめられた辛い過去。
それでも、今この瞬間は少なくとも過去の日常とは違う。かおりさんのお陰で明るくされている。

「勇気を出して、令君に話しかけてよかった」

荏柄天神社に続く一本道、この神社には学問祈願する学生さんが多く集まる。

僕とかおりさんは、神様に挨拶をして日本三天神の境内をぐるりと歩いた。

翌日、僕は学校へ投稿した。
荏柄天神社様の力持ってしても、ミニテストの成果はふるわなく、ただ机に伏せるのみで授業は全て終わった。

いつも通り誰もいない学校の帰り道を歩く。
頭に浮かぶのはかおりさんで、自然と足もいつもの山へ動こうとしていた。
思考も昨日のことで頭がいっぱいになっていたので、後ろからクラスメイトの柳場明日香が近づいてきてることに気づくはずなかった。

「名前、令くんだよね、同じクラスの」
梅雨のこの時期に日焼けしてる彼女は短髪で、スクイズを片手に、エナメルバッグを右肩からぶら下げていた。

僕は、人が怖くて思わず後ろに後退りしてしまった。
「そんなに驚かれると私傷つくからやめて」
柳場さんは目を細めてこちらの出方を伺ってる
柳場さんに嫌われちゃったかな?そりゃそうだ、話しかけて、こんなキモい反応されたら。
「や、柳場さん…」
「私の名前は覚えてくれてたのね、ならよかった」
「部活入ってなかったんだ…」
「ショック。部活ははいってないよ。全然私のこと知らないじゃん。でもお互い様か、私も令くんのこと全然よく知らないや」
彼女は僕より話し方が堂々としていていて、よっぽど男っぽかった。
「私、女子のサッカー部が高校にないから外部のクラブ通ってるの。令君は帰って何してるの?昨日学校サボってたでしょ?私見てるからねクラスメイトのこと」

「昨日は、…荏柄天神社行った」
柳場さんは、少し表情が明るくなった。
「それって一人で?」
僕は、記憶通り言った
「かおりさんって方と」
「え、女の子?学校二人で休んで?」
僕は説明する力がないから、だんまりしてしまった。
「見かけによらずちゃっかりしてるのね」
「なにそれ…」
「ああ、いまのは私が悪かった」
彼女は一瞬表情を暗くしたが、すぐに笑顔に表情を元に戻した。
それから他愛もない話をしてあっという間に駅に着くと、
「またね!」といって、北鎌倉駅の電車に乗り込んでいった。

クラスメイトとの初めての会話に脳がまだ緊張していた。



その日、僕はかおりさんとの逢瀬はせず、1人で藤沢駅の喫茶店でアイスコーヒーを頼んだ。

煙草の煙が蔓延していて、新聞紙をめぐる音だけが店内に響いていた。
外界の事象に恐怖しか描かない僕だけど、不思議と柳場さんにそんな恐怖はわかなかった。

それでも明日学校で僕から、話しかけるには敷居が高い。柳場さんもクラスで話しかけられるのは望まないだろう…

僕は携帯のチャットアプリを開いて、柳場さんのプロフィール画像を眺める。
サッカークラブの女の子たちの集合写真…
ー青春してるな…ー
僕は携帯を閉じようとしたくなるのを立ち止まりトーク画面を開いた。

(返事来なかったらどうしよ…噂されたらどうしよ…嫌がられたらどうしよ…)

僕の思考には常に被害妄想がつきまとう。
どうすれば自然かな、、
コミュ障なりに、紙とペンを鞄から取り出して、文面を考えて、何度も書いて消してを繰り返してようやく最初の一言がなんとか思い付いた。

「人への話し方がわからない」

人とろくに会話してこなかった僕が発明した、最初のフレーズを携帯に打ち込み、柳場さんへ送信すると僕はすぐに携帯の画面を閉じて、頭を伏せた。

10分経過しても返事は来ず…。
不安に押しつぶされそうな僕はいっそのこと携帯をそのまま投げ捨てたくなる。

20分経過しても返事は来ず、僕は耐えかねて図書室から借りた本を取り出した。

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