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『魂の系譜』

2023年 8月12日 深夜。
お父さんの布団に、 2人で転がっていた。

お父さんが はっきりと強い 口調でこう言った。

「 俺は、 あなた以外、 何もいらない」

思いがけず、 その 口調は 強くて、 危うく、 返す言葉を、 見失いかけた。

「 私はいつも、 お父さんを 追いかけ続けていて、 私の方がお父さんのことを、 思っている という 片思いを、 お父さんは知らないんじゃないかと 思っていたけれど。
同じぐらい、 お父さんが私のこと、 思っていてくれて、 とっても嬉しい」

私は確か、 大体そういったような 言葉を 返した のだったのが、 言葉に先んじて、 飲み込む ことの方が多くて、 もしも私が若かったら おそらく 泣いていただろう。

お父さんが、 人生の中で、折々、 こうした告白を してくれる時。

天に向かってそびえる 縄文杉のような、 そういったものに 抱かれるような気持ち。

同時に、 炎というよりも マグマに近い、全てを飲み込む何もかもを 焼き尽くすもの、 そんな 荒々しい 熱に 自ら飛び込んでいくような気持ち。

もう一つ。
森の奥深く にある 湖の 上に、 滴りが 落ちる 音を 聞くような、 厳かで どこまでも静謐な、 静かな静かな 心持ちになるのだ。

そしてそのたびに思うのだ。

お父さんと 私という、 魂の邂逅。

1日1日、 そんな歴史を刻みながら、 お互いに かけがえがなくなるまで 生きてきたこと。

私たちが、 生まれ落ちて、 出会い ともに歩き出し、 生きて、 どちらかが死ぬまで。

そしてその後、 三途の川の ほとりで 待っていてくれる あなたに、 寿命を終えた私が 手を振りながら、「 お待たせ! 行こうか!」 と走って行き、 2人で手をつなぎながら 2人同時に いっせーのせ!と、 一緒に同時に 本当のあの世に行くまで。

私たちの魂が、 出会ってこの方 巡りゆく 旅というものは、 輪廻というものがあるなら 終わらず、 私たち2人から さらにさらに、 様々な 魂を 繁殖させていくだろう。

お父さん。
昨日のお父さんの言葉を聞いた 私は、 まっさらな「無」 という 境地を知りました。

生も死も はるかに超越した、 何と形容したら良いでしょう、「愛」 から始まった 魂の旅が、「無」 という 無限、在って無きもの、 普遍と言う べきでしょうか、 そんなところへ導かれました。

いつか訪れる 肉体と肉体の離別。

私たちの 確かに ある 、 そしてあった、 魂の履歴と この系譜は、 私たちが知っていれば良く、 私たちの間でのみ 永遠である、 そんな静かな 小さなこの歴史は、 どんな海原に バラバラに溶けようと もう構うことはないのだと。

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