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シリーズ2 短編小説1-4

4話 パリで再開

佳奈は、シャルルドゴール空港に着いた。
荷物を受け取って出口に行くと、フレデリックが迎えに来てくれていた。
真っ白なポロシャツと真っ白なハーフパンツの装いで、まるでテニスプレーヤーのようだった。
笑顔がまぶしかった。
 
あとでわかったことだが、彼は、両親とアパートで暮らしていた。
両親と言っても、実の父親は別の人らしかった。
その両親とはあまり仲が良くないようで、食事も別だと言っていた。
弟は、結婚して子どももいて、近くに住んでいた。
 
彼の仕事が終えてからのデートが少しずつ、レストラン直行からパリの街歩きへと変わった。
パリの街並みは綺麗なので、楽しかった。
最後は、いつも ポンデザールに行った。
ポンデザールというのは、日本語では、”芸術橋”。
セーヌ川にいくつもの橋がかかっているが、このポンデザールだけは、車が通らず、人々が自由気ままにセーヌ川の景色や美しい夜景を楽しんでいた。
ハートの鍵をカップルが橋の欄干につけ始めて、どんどんその鍵が広がっていた。
人々は、橋のあちこちに座り、雑談していた。
中には、お酒を飲んで宴会をしているグループもあった。
 
彼は、そこに行くのが好きだった。
毎日のようにそこへ佳奈を連れて行き、いろんな人と話をしていた。
彼は、社交的なのだ、と佳奈は思っていた。
佳奈はどちらかというと、一見社交的に見えるものの、実はそうではなかった。
だから、初めの30分くらいは抜群の笑顔を振りまいていられるのだけれど、
その後はもう限界だった。
ひとりぼっちがイヤでさみしがり屋なのに、どういうわけか、静かな環境が好きだった。
だから、ポンデザールに行くのが、少しずつ苦痛になった。
 
そして、ある意味、佳奈は、フレデリックがすごい、と思った。
「何て、社交的で、顔が広いんだろう、友達がいっぱいいるんだ、職場にも近いからかな?」
なんて、思ったりしていた。
でも、後で、彼が話しかけていたのは、殆どが、初対面の人たちだった、ということがわかった。
つまり、知らない人に声をかけては、楽しくおしゃべりをしていただけだった。
ポンデザールであちこちたむろしている人たちの多くは、観光客だったのだ。
 
そして、佳奈は、彼が、少しずつお酒のみだとわかってきた。
いつも大きなコーラのペットボトルをもっていたので、よほどコーラが好きだ、と思っていたが、
ある日、スーパーに寄った時に、大きなコーラのボトルとウォッカのボトルを買い、
店の外で、半分コーラを捨てて、ウォッカを入れているのを、見たのだ。
それを見た時は、ショックだった。
 
いつも持ち歩いていたのは、コーラ入りウォッカだったのだ。
そして、彼の陽気さは、お酒の影響も多いに受けていたのだ。
初対面の時も、そうだったのだろうか、とその時のことを思い出そうとするが、思い出せなかった。
 
そうして、時が過ぎていった。
佳奈は帰国した。
正直絶望していた。
 
フレデリックからは、結婚を申し込まれたけれど、断り続けていた。
お酒飲みは嫌だと、はっきり言った。
佳奈だって、ワインは好きで良く口にするけれど、直ぐに赤くなるタイプで、お酒は弱かった。
ただ、ほんのりと気持ちよくなる雰囲気が好きなだけだった。
彼は、母親たちとの確執やら、別れた彼女との問題を延々と語り、それが原因でお酒が始まったと良い、
だから、結婚してくれたら幸せになれるから、そうしたらお酒をやめられる、と言ってきた。
そう言い続けられると、そうなのかもしれない、と感じるようになったりした。
お酒を飲んでも、酒癖が悪いということはなく、いつもご機嫌なのだから、それでも、良いかもしれない、と思ったりもした。
その時、佳奈は、この世に”アル中” という人々がいるのを知らなかったのだ。
全く、世間知らずのうぶな佳奈だった。
 
それでも、彼にこう言って、日本に帰国した。
「あなたが、このパリで、私たちの住むアパートを見つけてくれたら、結婚しても良いよ」
でも、佳奈には考えがあった。
「これしか、帰ってくる口実がないし、どうせ、彼はアパートなんか見つけられっこない。
だってああして毎日ポンデザールでお酒を飲んで話して時間を潰しているんだから。
私はもっと、前向きで夢のある人が良いな」 
 


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