今年ベストの映画・展示
続いて映画と展示。こちらは全部で58つみた。
(映画)
チョ・ナムジュ、”キム・ジヨン 82年生まれ”
「あるある」な内容が極めて多く、男の自分からみても極めて見ていて気持ちが悪くなる映画だった。こういったジェンダー平等を取り上げた映画がヒットしたことに、韓国の将来についての希望が少し見える、のかな。少なくとも、日本でこの映画が大ヒットするのはまだ想像ができない。
Netflix、''Street Food''
資本調達環境とかに恵まれてぱっと事業を大きくできたラッキーな起業家たち(僕も含め)は全員、この映画に出てくる人々の爪の垢を煎じて飲むべきだと思う。これこそ起業家精神だ。なんとかお金をやりくりしながら、腕一本で店を出してそれを維持して伸ばしていった姿に感動した。
Betsy West & Julie Cohen、''RBG''
アメリカ最高裁判事であり、女性の権利向上のために全力を尽くしたRuth Bader Ginsburgのドキュメンタリー。自分が男性であるにもかかわらず、マイノリティ視点からものすごく感情移入して観ることができた。
アメリカ社会でSmall talkを全くせずに、ただその知性だけで戦略的に物事を前に進めて行く姿に、同じく世間話が何もできない自分としては圧倒的な共感を覚えた。イベントとかに行くと常に壁の花になっている自分でも、このままで大丈夫なんだなと思わせてくれた。
そして、彼女はものすごくチャーミングだ。みていて、上野千鶴子さんを思い出した。話し方も似ている。
Gary Hustwit、''Rams''
Jonathan Iveがロールモデルとして尊敬している伝説のデザイナー、Dieter Ramsのドキュメンタリー。彼のデザインに対する哲学に共感することが多すぎて、何度も見てしまった。特に、「良いデザインの10原則」はプロダクトだけでなく、全てのサービスに共通して言えることだと思う。
そして、才能があるかどうかはさておき、僕はプロダクトデザインを心から好きであることを改めて確認した。ちなみに椅子(全てのプロダクトデザイナーがつくる)についてはもう20年以上「こういう椅子をつくりたい」という思いを妄想し続けて生きている。なお、保育園児の頃はよく自分でおもちゃを作っていたし、学校で一番好きな時間は圧倒的に工作の時間だった。
グラフィックも好きだし、だから写真も撮るし、資料とかもまあまあ普通に作れるのだけど、形のある三次元のものを作りたいという衝動にものすごいレベルで駆られている。
Netflix、''David Attenborough: A Life on Our Planet''
イギリス版のムツゴロウさん(らしい)であるDavid Attenboroughをナビゲーターにした環境についての映画。これを見ると、改めて無駄なものを使わないで生きていこうという気持ちになる。以前調べて分かったのだけど、個人の行動で一番環境負荷が大きいのは航空機に乗ることなので、Covid後の世界では、これまでのように飛行機に乗らないのかもしれないな。
Sacha Baron Cohen、''Borat Subsequent Moviefilm: Delivery of Prodigious Bribe to American Regime for Make Benefit Once Glorious Nation of Kazakhstan''
こんなに爆笑した映画はどれくらいぶりだろう。僕がカザフスタン人であったら、全く根拠のないカザフスタンネタにキレている可能性も高いけれども。
身体を張ってここまで馬鹿なことを実行するチームの実行力に脱帽。特にCovid下で大統領選を行っている現在のアメリカにとって、ベストなタイミングだった気もしている。とくに、ジュリアーニのインタビューシーンは秀逸。
Ken Loach、''I, Daniel Blake''
カンヌ映画祭のグランプリ獲得映画。勧められたので観たのだけど、たしかに素晴らしい映画だった。万引き家族、パラサイトに共通する格差と社会の破綻をテーマにした映画。カンヌがそういう社会性を大切にしている側面があるのかな。シングルマザーの貧困、それを食い物にする人々、書類を揃えられない人を振り落としていく福祉、それでも失われない人の優しさ、など、どこの国でも構造が極めて似通っている。
Taghi Amirani、''Coup 53''
ダボス会議にあわせて監督がロンドンからやってきて上映した映画。100席に6人しか来なかった(うち4人は友人)ことが、なおさらダボスを際立たせていた気がする(もちろん、会議中の夜は皆ネットワーキングパーティで忙しいので、映画のことを知らない人も多いと思う)。
1951年、民主選挙を通じて首相になったMohammad Mosaddeghは石油を国有化すると発表。それが自国の利益を損なうことを懸念したイギリスとアメリカは、MI6とCIAを通じてイランでのクーデターを53年に引き起こし、国王を国家主席に据えた(これに対する反感が蓄積して、ホメイニ師らによるイラン革命が起きる)。大国が他国の政治制度には本来的には興味がなく、関心を持っているのが自国の利益というのが浮き彫りになる出来事であり、現在に至るイランと英米との軋轢はここに始まっている。監督のTaghiは10年かけて資料を探し出し(当時のMI6のクーデター主導者のインタビュー原稿まで手に入れている)、この事件の裏にある自国利益誘導主義とイラン人蔑視を浮かび上がらせた。映画としても極めて引き込まれると同時に、資料としても極めて価値の高い作品。
(展示)
今年はそんなに多くは見られなかった。日本だともう海外アーティストの展示がほとんど無くなってしまった。Covid第二波前のロンドンにいられたことはラッキーだった。
UK Design Museum、''Electronic: From Kraftwerk to The Chemical Brothers''
なぜデザインミュージアムで電子音楽展をやっているのかは謎だけど、電子音楽の歴史を学びつつ、いくつかのブースでは実際の音楽と映像作品が流される。イヤホンを持っていかないといけない展示で、一つ一つのブースでイヤホンを差し込み音を聴くというもの。電子音楽がどちらかというと好きでない僕でも楽しめた。
圧巻は1024 Architectureが今回のために作ったインスタレーション(音楽はLaurent Garnier)。前に六本木ヒルズで展示されていたOuchhhの’Data Monolithのものもとても好きなのだけど、僕はデジタルのものが単なる映像でなく物質としての形を持っているものが好きみたいだ。もちろんカッコよくないといけないのだけど、いつまでも飽きずに見ていられる。
もう一つの圧巻がケミカル・ブラザーズの音楽+映像作品。密閉された空間で音楽と映像が流れるのだけど、ケミカル・ブラザーズのライブをものすごい小さい箱で最前列で見ている感じで(しかもCOVID対策でガラガラ)、チケット代が安すぎるだろうと思った。
ソール・ライター、''永遠のソール・ライター''
色の使い方が素晴らしい。色彩の素晴らしさは、本人による絵画をみて納得した。絵としてのイメージがある程度あるにはあって、そこから写真に入っている。なるほどね。ゴッホの映画と相まって、このあたりはもう少し深堀りしたいなと思った。
また、彼がニューヨークの普段の生活圏内だけでこれだけの品質のストリートフォトを撮り続けたことに、とても反省した。見慣れた町並みにおいても常に面白いことはあるわけで、日常から写真を撮れないことは観察力不足の証拠。見慣れた風景を深堀りしてこそ観察力は高まる。僕も毎日写真をちゃんと撮ろうと思った。
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