見出し画像

株主構成が壊れた会社は(まず)直せない

僕は8年くらいファンドに勤めてから起業したのだけど、そのうちに学んだスキルはほとんど全て一度捨ててしまった。「外資系金融のエクセル作成術」なんて本まで書いたくせに、もうエクセルはほとんど使ってない(大抵のことはGoogle Spreadsheetでできる)。計画のつくりかたとか、資料の考え方とかも、前職でやっていたことは、また一から学び直している。

ただ、一つだけ前職・前々職で学んだことで今も活きていることがある。
それは資本の論理だ。

ここでいう資本の論理というのは、資本を有することと人事権が結びついているということだ。これは民主主義と根本的に違っている。

 

会社には様々なレイヤーの課題があるけれども、それが事業や経営陣の問題に起因している場合はなんとかできる。大抵の事業はターンアラウンドができるし、経営陣は変わる・変えることができる。

もう少し重度なものとして、ガバナンスが機能していないというケースがあるけれども、これも株主が主導して変革していくことができる可能性がある。今の東芝の問題も深刻だけど、少なくとも株主のチェックは生きているので希望がある。

ただ、株主構成が間違っている場合は、ほとんど治癒不可能になる。具体的には次のような場合だ:
・スタートアップなのに、リーダーでない人が第一位株主になっている
・(スタートアップに限らず)悪質な個人・組織が過半数を保有している
・方向性が全く違う個人・組織がそれぞれ否決権を有している

なぜ株主構成が壊れている会社が直せないかというと、いくらステークホルダー資本主義が叫ばれても、会社法においては会社は株主のものだからだ。株主は取締役を選ぶことができて、取締役会は会社の役員を選ぶことができる。組織における力の源である人事権は、株式会社においては資本に由来している。

そして、株主間契約などがない限り、一度株主になった人を追い出すことはできない(スクイーズアウトは出来るので、厳密にはちょっと違うのだけど、本題とは逸れるので割愛)。

なので、株主構成が壊れている場合、できることはほとんどない。もしあるとすれば、次のようなことだ。
A. スタートアップの場合、実質的なリーダーが自分および自分についてくる人々の辞任を突きつけて、株主構成変更を大株主と交渉する
B. 誰かが問題となっている株主から株を買い取り、状況を正常化させる

いずれにせよ、かなりのドタバタ劇になり、相当期間において、会社は事業に集中できなくなる。問題となっている株主がある程度合理的なら協議に応じてくれるかもしれない。ただ、トートロジー的だけど、問題となるような株主は合理的でないために問題行動を起こしているわけで、話がうまく進む可能性は低い。そして、そうやってグダグダになっている会社に外から入って株を買い取ろうとしてくれる人も多くない。問題が長期化すると、事業が短期的にうまくいっていたとしても苦しくなってくる。

そういう会社を見るたびにすごく悲しい気分になるのだけれども、そういった悲劇が世の中から減るためにも、スタートアップをこれから始める人は、昔書いたnoteを読んでから始めてほしい。

ここから先は

0字
頂いたお金は寄付に使います。毎年、noteの収益よりずっと大きな金額を寄付しています。2023は7,135,805円でした。

週末随想

¥800 / 月

毎週日曜日(その時の滞在国時間)に書きます。毎週の行動記録、雑感、振り返りが主な内容になります。守秘義務に反するものは当然書けません(匂わ…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?