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自省録

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分業と思いやり

分業と思いやり

市場経済における分業が、他者への配慮や持続可能性に悪影響をもたらしうる理由について、ようやく自分なりに言語化することができたので、ちょっと書いておく。

人間が行う経済活動は基本的に実物取引と金融取引からなっている。実物取引はモノを買う取引で、金融取引は投融資と考えたらいい。

実物取引においては、常に関係の最初と最後は人間と自然になる。誰かが自然から何かを取り出して、それを用いるからだ。自給自足

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自己観照と自己理解の行き着く先

先日ちょっと考えていること。

仏教とかでも話されているのだけれども、感情や衝動というのは、それが発生した瞬間に観察することができて(自己観照)、かつその感情がどのような理由で発生し、どのような意味を持っているのかを知識として理解すると(自己理解)、かなりの程度において消失する。

僕は今もときどき衝動や感情に駆られてしまうのでまだまだなのだけれども、瞑想とかを続けていると、確かにこういった感情や

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最近考えている世界観(2024年5月時点)

最近考えている世界観(2024年5月時点)

このところ考えていた、自分なりの世界観を文字にしておきたい。

考えというのはどうせそのうち変わるものだけれども、現時点での世界観を記録しておくことには意味があると考えている。自分用のメモなので、人に理解してもらうことよりも、自分のために書いている。

この長い文章の要約はこういうことだ:
・人は遺伝と環境と偶然によってつくられるアルゴリズムでしかない
・人や世界を変えるには、環境とアルゴリズムの

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差別主義的な反差別活動家たち

あくまで個人的な観察結果だけど、「Xによる差別」に反対する人が「Yによる差別」を許容することは相当に多いと思う。たとえば、人種差別に反対するが女性差別的な人、格差問題にあまり関心がないフェミニスト、貧困問題に取り組むが反ムスリムな活動家、といった具合に。

どうやらこういう人たちにとっては、「自分を差別するのは気に食わないので、そんなことをする奴らはやっつける」というのが基本的な行動原理であって、

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横山禎徳さん

横山禎徳さんが亡くなった。訃報を人づてで聞いたのは4月4日。葬儀を親族内で行うために内密に、ということだったのだけれども、新聞の記事にもなったので、Obituaryを書くことにする。

横山さんに初めて会ったのはユニゾン・キャピタル時代。横山さんはユニゾンのエグゼクティブ・カウンシルをしていた。マッキンゼー出身の上司が「知の巨人がいる」と評していたのが横山さんだった。ユニゾンの年次総会のときに勇気

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スタートアップの循環参照の解き方

昔エクセルの本を書いたときに、とても強い思いを込めて書いたセクションがある。それは循環参照の解き方。財務モデルにおいて生じる循環参照のほぼ100%(今のところ例外に出くわしたことはない)は、連立方程式を立てて解を求めることで無くすことができる。そうやって反復計算による収束を避けることで、財務モデルがとても軽くなる。

実際の世界においても同じようなことが言えるのかをすこし考えていた。

特にスター

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採用におけるミッション軸の一致について

もとはニーチェの言葉だけど、僕が知ったのは、フランクルの「夜と霧」を読んだときだった。この言葉は真理をついていると思う。

僕は人生の目的が相応に明確なので、仕事を通じてどんなに嫌なことを経験しても心が折れそうになったことがない(なお、途方に暮れることはある。途方に暮れるというのは困難に直面して、その打開策が見つかっていない状態を指す。)

これはスタートアップでの仲間探しにおいても真理だと最近思

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粛々と

久しぶりに、ただの走り書きのエッセイ。"Keep Calm and Carry On"のベストな日本語訳は「粛々と」だと思う。

スリランカもそうだけど、最近は暗澹たる気持ちになることが本当に多い。先日やってきたニュースはさらに追い打ちをかけた。

ミャンマーではすでに大勢の方が亡くなっているし、サガイン州やマグウェイ州などでは特に大勢の人が戦闘を逃れて家を離れて暮らしている。国民の約1%が国内避

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関係資本のこと

人の相談に乗りながら話したことをメモしておく。

スタートアップが潰れたところで社会は大して困らない。社会の現状を維持するのに必要な機能は、既存の企業や行政組織や非営利組織などが担っているからだ。

それなのにまだ社会に何も還元できていないフェーズにあるスタートアップが生きていけるのは、多くの人に手伝ってもらっているからだ(もちろん本人たちの頑張りもあるけれども)。出資してもらったり、会社に入って

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やりたい仕事を見つける方法

先日高校生・大学生らと話していて、「やりたいことがないんですけれどもどうしたらいいですか」「慎さんはどうやってやりたいことを見つけたんですか」という質問をもらった。あくまでも少ない経験に基づいてのことだけど、この類の質問は就活とか進学とか転職とかを考えないといけないタイミングで増える傾向にあると思う。

結論からいうと、「ベストな仕事」なんてまず見つからない。むしろ大切なことは、取り組む仕事を決め

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40歳

10月1日で40歳になった。10年前も同じようなことをしたのだけど、30代の振り返りを書く。

30歳のときに、民間セクターの世界銀行をつくると決めた。その時のことはよく覚えている。天津で2012年に開催されたサマーダボスの閉会式を見ているときのことだ。世界経済フォーラムが民間セクターの国連なら、僕は民間セクターの世銀をつくろうと思った。

それ以降、インタビューされる度に「民間セクターの世銀をつ

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成長の最終フェーズ

ちょっと前に「最近成長している気がしない」と言っていた人に話したことを書いてみる。

ジョン・レノンとポール・マッカートニーが一緒にいたからこそ、ビートルズはビートルズになった。進学校やスポーツの強い学校に行くことの最大の価値は、周りにある程度勉強をしている人が集まっていて、切磋琢磨できることだと思う。

その一点において、僕はいわゆる難関大学に入った人たちをとても羨ましく思っていた。勉強はどこで

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自己規律のもたらす力

多忙なビル・ゲイツがハマったと言っていたNetflixのCrownがどんなものなのかが気になり、とりあえずシーズン2までは観終えた。すでにマイクロソフトから離れた彼は、国政に直接は関わることができない女王に自分を重ね合わせているのかもしれないな、と思った。

僕としては、違うところに関心がいった。それは、エリザベス女王の極めて強い自己規律と自制心だ。Crownで描かれているエリザベス女王は、特段に

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自分より経験値が高い人々に価値ある提案をする方法

PE時代にはよく色んな会社の事業方針に提案をしていたのだけど、たいてい撃沈してきた。そして、実際会社を経営する段になると逆に色んな提案を受けるわけだけど、「なんか違うんだよな」と思う提案も多い。また、今も僕は各国に行けば各国の経営陣に何らかの提案をし続けている。

そういう経験を通じて、その実務にずっと携わってきた経営者や実務家らに刺さる提案をするには、いくつかしか方法がないと思うようになった。そ

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