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少し揺れ動かされた長年埃を被った気持ち

 ゴールデンウィークの日経新聞に以下の記事が掲載された。
「低学歴国」日本、革新先導へ博士を生かせ。と。
このタイトルが目に入ったとき、十数年埃かぶっていた気持ちが少し揺れ動かされた。

 私は博士号を取得し、民間企業に就職したような人間である。2000年代、多くの同級生が修士号取得後に民間企業に就職すべく就職活動を行なっている中、自分は真っ先に博士号の取得を目指すことを決心していた。
 これには、理由がある。

「世界で戦かってみたい」。「世界に挑戦したい」。

 「研究」が無茶苦茶面白く、寝る間を惜しんでも、全然苦じゃなかったし、研究のアイデアはいくらでも出てくるから、「研究」というフィールドで「世界に挑戦してみたい」と。博士号取得まで6年間あるので本気で取組めば、それなりのレベルにはなれると思った。ある程度のレベルになれば、ポスドクで海外に行って、その研究分野で、一流の研究者まで上り詰めることができると考えた。

「研究」=「世界で戦うために利用するフィールド。」
「博士号」=「世界で戦うための単なるライセンス。」

 しかし博士号を取得できたが、肝心の海外でポスドクのポストを見つけきれなかった。そのため、民間企業で就職し、海外に挑戦できるポスドクのチャンスを伺うことになった。

民間企業に就職して

 博士号取得後、生活のことも考え、すぐに民間企業に就職した。給与は、ネット等で言われている通りのレベル。日本では、博士号に対するRespectがSalaryでは一切表現されていないのは事実。それに加え耳にしたのは、「博士号は使いにくい」とか、「博士号は融通が効かない」とか、「勉強しかできない」とか、「常識がない」とかだった。近年は、多様性とかハラスメント的な観点から、このような言葉は聞かなくなったが、それは表面的な部分であって、実態として、今も日本の企業において博士号の価値が認められていないと思う。
 私が民間企業に就職した2000年代は、失われた10年と言われながらも、大企業はまだまだ力を有し、それを支えるのは過去から積み重ねられたシステムがあり、結果、そのシステムを効率的、効果的にkaizenして行くことが勝利の方程式だったのだろうと考察する。そうなると、システムに適合させ、改良できる人材を育成して行く方が効率的だから、博士号取得者の価値を認める必要はないし、その付加価値にサラリーを払う必要もないとなる。

博士号取得者の付加価値とは?


 ところで、実際のところ、博士号が民間企業に対して、付加価値をもたらさないのだろうか?と思い、検索してみると、以下のような記事に当たる。

 博士号取得者は、上URLの山口教授の言葉を借りると、「未知なる何かをゼロから創出する能力」を訓練されているということだと思う。この訓練された能力が付加価値であり、この訓練程度は、どのような博士号取得コースを歩んできたかにもよる。博士号取得プロセスにおいて、どこまで本人の血肉になっているかが、その博士号取得者の能力の付加価値だと思う。
 もう少し具体的な数値データに基づくエビデンスがあれば非常に興味深いし、企業の戦略にも一石を投じるようになると感じる。

未知なる何かをゼロから創出する能力

 ちなみに、幸運なことに「世界で戦かってみたい」。「世界に挑戦したい」。という私の夢は、民間企業によって叶えさせてもらった。企業からの研究員として留学したため、留学後の不安定な任期付きポストではない立場なので、リスクを抱えずに世界に挑戦ができた。
 留学を通じて理解できたのは、前例のない研究を通じて、学生時代に博士号取得の過程を経て培った、自分で考えて、行動して、失敗して、改善してのプロセスは間違っていなかったし、世界でも通用するということは、米国で研究することで確証することができた。加えて、米国留学中では、研究テーマも大きく変えたが、それなりに成果も残せ、世界で戦えるな!と体験できた。これが私の根底の自信に繋がり、私を支えていることは間違いない。

研究開発投資の準備

 一方、イノベーションを行うための能力を高めてきたが、その能力の使うための人・モノ・金を準備しないといけない。イノベーションを起こすためには、段階的に実験・検証の研究開発的な投資が必要である。しかし、そのための必要な十分な投資資金がない(正確に言えば、投資資金はあるがそれに投資する価値に値すると判断されないケースもよくある)というのが、日本の多くの企業の問題だと思われる。そのために、現場レベルでは、科学技術的なイノベーションを最も効率的にできる人材が、最も苦手な一つとなる研究開発費の取得に明け暮れなければならない状態が続いている。そのため、頑張って取得しても、規模の小さい研究開発費しか取得できず、イノベーションを起こすためのスケールの大きな仕事ができないのがここ20−30年の日本の状態だと思う。
 イノベーションを起こす「未知なる何かをゼロから創出する能力」と、それを実行するための人・モノ・金を準備する能力は違うからだろうか?つまり、「ゼロから創出する」するだけでなく、「そのイメージを伝える力」が博士号取得者に求められる能力であろう。

まとめ

  •  博士号を取得し、民間企業に就職し、海外留学もし、研究開発資金獲得や研究成果事業展開なども経験してきた。この経験の中で様々な人的交流もあり感じることは、

  • 博士号取得者の能力はある。

  • 日本では、博士号取得者を活かされていないケースは多い。

  • 原因は、日本の政府や民間企業の仕組みだけの問題ではないと感じる。

    • 例えば、博士号取得者の伝える力が十分あるのか?

    • 研究成果で世の中を改革したい情熱はあるのか?

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