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故意落球とインフィールドフライ

野球法小ネタです。

高校野球で故意落球の判定があったようです。故意落球のルールは、インフィールドフライのルールと似ています。

少し調べると、次のことが分かりました。小ネタとして書き残します。

  • 故意落球のルールも、インフィールドフライのルールも、いずれも、「飛球が捕球されないことで複数のアウトが発生することを防ぐためのルール」である点で共通しているようである。

  • 二つのルールの関係は、某方面で流行りの「事後規制と事前規制」に似ているように思われる。


故意落球

  • 根拠条文

    • 公認野球規則5.09(a)「打者アウト」(12)

  • 要件(以下のいずれも満たすことが必要)

    • 「0アウトまたは1アウト」

    • 「走者一塁、一・二塁、一・三塁または一・二・三塁のとき」

      • (白石は、打者走者が発生した場合にフォース走者となる者が1名以上であるとき、と理解。)

    • 「内野手がフェアの飛球またはライナーを故意に落とした」

      • 「【規則説明】内野手が打球に触れないでこれを地上に落としたときには、打者はアウトにならない。ただし、インフィールドフライの規則が適用された場合は、この限りではない。」

      • (白石補足:規則本文に「故意に」という明文があるが、「打球に触れないでこれを地上に落としたとき」には適用しないという明文もあります。打球に触れたが「故意に」でない、とされた事例があるかどうかは分かりませんが、多分、ほぼ、「故意に」の要件は「打球に触れて落とした」という意味に形式化・客観化されて運用されているのではないかと推測します。)

  • 効果

    • 「打者は、……アウトとなる。」(5.09(a)柱書き)

    • 「ボールデッドとなって、」

    • 「走者の進塁は認められない。」

インフィールドフライ

  • 根拠条文

    • 公認野球規則5.09(a)「打者アウト」(5) → 「定義40」

  • 「打者アウト」の要件

    • 「インフィールドフライが宣告された場合。」(5.09(a)(5))

  • 以下はいずれも、上記「定義40」。

  • 「インフィールドフライ」の要件(以下のいずれも満たすことが必要)

    • 「0アウトまたは1アウト」

    • 「走者が一・二塁、一・二・三塁にあるとき」

      • (白石は、打者走者が発生した場合にフォース走者となる者が2名以上であるとき、と理解。)

    • 「打者が打った飛球(ライナーおよびバントを企てて飛球となったものを除く)で、内野手が普通の守備行為をすれば、捕球できるもの」

  • 判断手続

    • 「審判員は、打球が明らかにインフィールドフライになると判断した場合には、走者が次の行動を容易にとれるように、直ちに”インフィールドフライ"を宣告しなければならない。」

      • 「また、打球がベースラインの近くに上がった場合には”インフィールドフライ・イフ・フェア"を宣告する。」

  • 効力発生時期

    • 「インフィールドフライは、審判員が宣告して、初めて効力を発する。」(定義40【注】)

  • 効果

    • 「打者は、……アウトとなる。」(5.09(a)柱書き)

    • 「ボールインプレイである。」

    • その後の説明は長くなるので引用を省略するが、白石の観点から、そこに書いてあることを帰納的に理解すると、次のようなことのようである。

      • 宣告の段階で打者はアウトとなるので、打球については、通常の打撃があり、かつ、打者がアウトとなった状況を前提として、通常のボールインプレイが進行するとみる、という趣旨と思われる。なお、打者がアウトとなっているので、いずれの走者もフォース状態ではなくなっている。

        • 野手がフライを捕球すれば、走者は帰塁する必要がある。

        • 野手がフライを捕球せず地面に落として、かつ、フェアとなったら、走者は(必ずしも帰塁を要せず)進塁することもできる。フォース状態でないのであるから、進塁しないこともできる。

        • 野手がフライを捕球せず地面に落として、かつ、ファウルとなったら、インフィールドフライの宣告は遡って無効となる。(通常のファウル打球があったものとして取り扱う。)

二つのルールの共通性

二つのルールは、「飛球が捕球されないことで複数のアウトが発生することを防ぐためのルール」であるという点で、共通性があると思われます。そのことは、公認野球規則に明示的に書かれているわけではありませんが、フォース走者がいることを要件としていることを見ると、そのように推測してよいと思われます。

二つのルールの違い:フォース走者の数の要件

故意落球ではフォース走者1名以上、インフィールドフライではフォース走者2名以上、という違いがあります。

この立法趣旨を推測すると、次のようなことではないかと考えられます。

インフィールドフライでは、ライナーとバントを対象外としており、故意落球の場合と比べると飛球が高めに上がっていて、仮にインフィールドフライの適用対象とならず、かつ、飛球が捕球されず地面に落ちた場合でも、打者が普通に走れば1塁に生きることができるはずです。

そうすると、インフィールドフライのルールが適用されない場合でも、守備側が複数アウトをとれてしまうという不適切な結果は、フォース走者が2名以上のときだけ、生じることになります。

そこで、インフィールドフライという特別なルールの発動場面をなるべく限定するため、フォース走者が2名以上であることを明文の要件としたのではないか、と推測します。

二つのルールの相互関係

二つのルールを比べると、故意落球のルールのほうがシンプルで、本来的であるように思われます。インフィールドフライのルールは、かなり人工的な感じがします。

ただ、両者は似通っており、立法趣旨も共通するところがあります。冒頭に書いたことの繰り返しですが、「飛球が捕球されないことで複数のアウトが発生することを防ぐためのルール」であるという点で、共通しています。

これはつまり、故意落球のルールが基本で、しかし、常にそれに頼ると法的安定性の観点から問題があるので、インフィールドフライのルールを創出し、特別に規定された要件を満たすことを条件として、故意落球の場合に類似した効果を早期に発生させて、法的安定性を早期に実現しようとした、ということではないでしょうか。あくまで、推測です。

  • 例えば、故意落球のルールは、「故意」をなるべく形式的に認定できるよう、野手がボールに触れてから落とすことを、要件としています(上記の「【規則説明】」)。そうすると、野手に余裕があれば、わざと触らずに落とすことで、故意落球のルールの発動を回避することができ、そのような意味でも、法的安定性の確保が必要となっているのではないかと推測されます。

故意落球のルールが基本であり「事後規制」であって、インフィールドフライのルールが特別な要件が仕組まれた例外であり「事前規制」である、と理解すれば、某方面で最近流行りの「事後規制と事前規制」の議論とも対比できるように思われます。

高校野球の故意落球の事例は、インフィールドフライの特別な要件を満たさず、本来の事後規制である故意落球のルールで処理された事例、とも言えそうです。

事例1

インフィールドフライのルールは、上記のように、かなり人工的で複雑なので、次のようなことが現に起きたようです。

1991年の大洋広島戦で、1アウト満塁で広島の達川捕手がフライを落とし、本塁を踏んで1塁に送球した。3塁走者は、その後、諦め気分の惰性で本塁を踏んだ。ところが、達川捕手がフライを落とす前にインフィールドフライが宣告されており、その時点で打者アウトで走者はフォース状態を解除されていたため、達川捕手が本塁を踏んだだけでは3塁走者はアウトでなく、アウトとなっていない3塁走者が本塁を踏んでいたことになったため、大洋の得点が認められ、大洋のサヨナラ勝ちとなった。
ソース:Wikipedia「インフィールドフライ」(2024-08-13閲覧

事例2

上記の規則の一例としてファイターズ事例を見つけたので、掲げておきます。

  • バントなのでインフィールドフライとはならない。

  • 打球に触れないで地面に落としているので故意落球とはならない。


この記事の冒頭の写真は、「なごやか亭 発寒店」の「石狩産 天然浜ゆでシャコ」です。


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