見出し画像

「第○条 削除」について

ツイッターで「第○条 削除」についてあれこれ書きましたので、まとめます。


「削る」と「削除」がある

条を廃止する方法には、「削る」と「削除」の2種類があるとされます。改め文に慣れていないと、なんじゃそりゃ、となるかもしれません。

「削る」

「削る」は、ある条を「跡形もなく消してしまいたいときに用いられる」ものです(ワークブック新訂第2版565頁)。

「削る」は、改め文で使われる用語です。改め文が溶け込まされた条文(六法などに載っているもの)だけを見ている分には、お目にかかることはありません。

(呼称は名詞であるほうが便利であるためか、解説では、「削り」という名詞になっているものも見受けられます。例えば、「全て第○条中での削り及び移動であるので」などです(ワークブック新訂第2版569頁の後ろから4行目)。)

ともあれ、例えば、独占禁止法の平成25年改正法(審判制度の廃止等)の中には、次のような改め文があります。

 第七十七条を削る
 第七十八条中「公正取引委員会の審決」を「排除措置命令等」に改め、第九章中同条を第七十七条とする。
 第七十九条から第八十三条までを削り、第八十三条の二を第七十八条とし、第八十三条の三を第七十九条とし、第八十三条の四を第八十条とし、第八十三条の五を第八十一条とし、第八十三条の六を第八十二条とし、第八十三条の七を第八十三条とする。
 第八十四条の四中「刑事訴訟法」の下に「(昭和二十三年法律第百三十一号)」を加える。

私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律(平成25年法律第100号)

第77条を「削る」としていますが、第78条を繰り上げて「第七十七条とする」としているので、欠番は生じていません。

第79条から第83条までを「削り、」としていますが、やはり、後の条を繰り上げています。改正前は、第83条の7の次は第84条であったので、ここでも、欠番は生じていません。(この第84条は、昭和22年の制定から一貫して、第84条です。)

(上記の例を見付けるにあたっては、過去の大きな独占禁止法の改正法のうち、たくさん削られていそうなものを選び、そのテキストを「を削」で検索しました。)

「削除」

上記のように、「削る」では、後の条を繰り上げることとなります。

しかし、後の条の番号を動かしたくないことは多くあります。

そのような場合は、

「第○条 削除」として、廃止する条が欠番にならないようにその形骸だけは残すことにすれば、煩わしくもなく、他の条や他の法令に対する影響もないわけである。

ワークブック新訂第2版565頁

と解説されています。

官報情報検索サービス(有料)で、令和4年8月〜令和6年8月の2年間に公布された法律を「"条 削除"」(「条スペース削除」という4字の文字列)で検索すると、20件くらいヒットし、その中に次のようなものが含まれます。

例えば、感染症法の令和4年改正法の中には、次のような改め文があります。

 第七条を次のように改める。
第七条 削除

感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律等の一部を改正する法律(令和4年法律第96号)

次のように、複数の条をまとめて「削除」とする例もあります。民法の令和6年改正法です。

 第七百五十三条及び第七百五十四条を次のように改める。
第七百五十三条及び第七百五十四条 削除

民法等の一部を改正する法律(令和6年法律第33号)

例えば、この改め文が民法に溶け込むと、次のようになります。これは、e-Gov法令検索で確認しています。

 (同居、協力及び扶助の義務)
第七百五十二条 夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。
第七百五十三条及び第七百五十四条 削除
    第三節 夫婦財産制
     第一款 総則
 (夫婦の財産関係)
第七百五十五条 夫婦が、婚姻の届出前に、……

民法等の一部を改正する法律(令和6年法律第33号)の上記部分が溶け込んだ場合の民法

noteの仕様で、引用した条文の字下げ(配字)は、完全ではないかもしれません。

「削除」と枝番号

上記のように、「削除」は、後の条を繰り上げずに済ませるための技なので、機能的に、枝番号と共通している面があります。

  • 「削除」は、後の条を繰り上げずに済ませるための技

  • 枝番号は、後の条を繰り下げずに済ませるための技

枝番号については、『法律文章読本』8〜11頁をご覧ください。

「削る」と「削除」がある(再度まとめ)

冒頭で既に述べたことの改めての確認ですが、条を廃止する方法には、「削る」と「削除」があります。

  • 条の廃止

    • 「削る」

    • 「削除」

「削除」は、あくまで、後の条を繰り上げずに済ませる、という場合だけに使われます。

したがって、ある法律で、かつて存在した条が廃止された例を探すときに、現行法で「削除」を検索するだけでは、十分ではない、ということになります。「削る」をして、後の条が繰り上がった場合などがあり得るからです。過去の改正の資料で改め文や新旧対照条文を確認するなど、する必要があります。

「廃止」「削る」「削除」の論理的相互関係については、私自身、理解が十分でありませんでした。今回も、ツイッターで@houjicha_juris様からご教示いただきました。ありがとうございました。

(ワークブック新訂第2版が、「削る」と「削除」を包括する概念として「廃止」という用語を使っています。)

条の数

例えば、「民法の条の数はいくつか」という場合、民法には第1050条まであるから1050、というと、多分、誤りです。

  • 枝番号の条がある。

  • 「削除」となっている条がある。

『法律文章読本』67頁で、「民法では、多数の条が……」と書きましたが、実は初校段階では、「1,000か条を超える数の条が……」としていました。

書籍の記述であるためにこれをきちんと確認しようとすると、枝番号と「削除」を、全て数えて、差し引きをする必要があるので、メンドイなと思って、「多数の条が……」とした次第です。

特に、枝番号の条の数を数えるのが大変です。

実際には、途中までは数えたのですが、疲れますし、数えた結果を編集者に示すのも大変だし、どんどん改正されるわけだし、『法律文章読本』67頁は数が1000を超えることに重要な意味がある記述ではないし、ということで、数えるのを途中でやめました。

民法の条の数について、次のようなページがあることを、ツイッターで@Matsuo1984様からご教示いただきました。ありがとうございました。

号でも同じ

枝番号については、条とほぼ同じことが、号にも言えます(『法律文章読本』10頁)。

同様に、「削除」も号について使うことができ、「三 削除」などがあり得ることになります(ワークブック新訂第2版566頁)。

項には枝番号を付けられないとされており(『法律文章読本』10頁)、同様に、「削除」の技も、項には使えないとされています(ワークブック新訂第2版566頁)。

「削除」は基本的知識か

『法律文章読本』を書いた時は、次のように考えていました。

「削除」という知識が必要か否かは、その人その人が置かれた状況によって、異なると思います。

また、例えば、上記の「「削除」と枝番号」の項目に書いたことだけを書けばいいのなら、基本的な書籍にも書いてもよいかもしれません。

ただ、上記の様々から分かるように、「削除」を説明したら「削る」も説明せざるを得なくなり、しかし「削る」は改め文にしか出てこないし……、などといった問題も誘発します。

大多数の方々の勉強や仕事では、例えば独占禁止法の場合、第7条の2や第15条の3などの枝番号の知識は必要ですが、第4条や第5条などが「削除」であることの知識は、それほど必要ではありません。

そんなわけで、『法律文章読本』には「削除」については書きませんでした。しかし、引き続き勉強しながら、更に考えてみたいと思います。


冒頭の写真は、なごやか亭発寒店の厚岸産いわしです。横で、厚岸・根室産活つぶが1貫、削除となっています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?