「タコの頂点」第2話

浅「!」
閉じていた目が開く。見慣れた天井が目に入った。
浅「はあはあ」
ベッドに横たわる浅田の影。自分の部屋だと認識するのに、長い時間がかかったようだった。部屋のカーテン、自分の勉強机、と目線だけで追う。重たい腕がベッドに貼り付いたままだった。指がピクリと動いて、シーツに皺を作る。
浅(生きてる…夢だった)(今何時だ…)
今の時刻を確認しようと身体を起こそうとしたとき、右腕に付着した血が視界に入る。
浅「んだよ、これ…」息をのむ。
浅田は急いで起き上がり、身体を確認した。
浅「ここも、ここも…」
体中が血だらけで、シーツは指先の形に血が残り、制服もボロボロである。そして下のズボンとセットであるはずのブレザーはどこにもなく、
浅「っ……」
吉岡の首の無い胴体がブレザーを着ていたことを思い出し、吐きそうになる。

風呂場に行き、血を流す浅田。頭を洗う浅田の腕には選抜時使用された時計が付いており、AM03:11。
浅(アレは、本当に起きたことだったんだ)(そして)(第2選抜も、行われる)半分覚悟した顔。
浅田はリビングに入り、食料を探した。パンを頬張りながら、水分も一緒にかき込む。
浅(急に呼び出される、なんてこともあり得る)
鞄に適当に詰め込み、うろうろする。
浅(そうだ。母さんたちは初めて俺が帰らなかったわけだけど、騒いだりしてなかったのかな)
浅田は両親の寝室へそっと向かい、ドアを開けた。そこには誰もいなかった。
浅(事件になっているかもしれない)
テレビや携帯をつけるも、何も繋がらない。窓や玄関扉もあかない。
浅「玉鬼の時と同じだ」(この世界もおかしいと捉えても不思議じゃない)(選抜が終わるまでは、この調子でいくのかもしれない)
浅田は眠気には勝てず、選抜についての考察を巡らせる前に目を閉じてしまった。

浦「やあ。大丈夫?オレは浦部アキト。高2。よろしく」
握手をしながら起こす。
浅「浅田セイギ。浦部くん、ここは一体…俺はさっきまで家にいたのに」
壁も天井も赤い空間。
浦「セイギ…いい名前だね」「分かってるのは、第一選抜の突破者が集められたってことだけかな」
浅田が見渡すと、彼以外に9人(10~40代の男女)が目に映る。スピーカーから音声が流れてきた。
イ「ようこそ、タコ共。今からタコの頂点を決めるための選抜を行う」
42才男「まだこんなことを続けるのか」怒り
31女「というか、前の選抜の時もタコって…」
イ「お前たちはタコで十分だ。タコは足が8本、そして僕は上位互換である10本のイカである。イカの神様と呼べ」
イ「第二選抜は『玉守(たまもり)』。チーム戦だ。北と南に別れ、命の玉数が多い方が勝ちとなる。負けたチームは一つ玉が減らされ、第三選抜へと移る」
イ「あ、そうそう。これは置き土産だ」
6発撃てる銃が目の前に人数分出てくる。

浅「あ、浦部くん、どこに…」
消えた声に呆然とする参加者がいる中、浦部は銃を手に颯爽と部屋から出て行く。浦部に続き他参加者も外に出ると、部屋の外は森となっていた。閉じ込められていたのは小屋だった。
31女「もう戻れないってわけね」
小屋は、全員が出た途端扉が閉まり、開かない状態となった。小屋をでて目の前に、一つの大きめの箱が置いてあった。そこには貼り紙がしてある。一同が距離を置くが、浦部だけはすぐに近づいた。
浦「中に武器が一つ入っている。一つの玉と交換だってさ」
20女「玉って…」
浅「俺、玉鬼の時、友人が玉と引き換えに鬼になったのを見ました。今回も、命と交換ってことだと思います」
浅田は情報を得るために腕時計を触る。他の人も触りだす。
16女「制限時間…2時間59分で北:23、南:23」
42男「切り替えると、前回同様の玉と…追加で番号が振られてるな。」【数字】+〇〇〇。
16女「あとは地図の画面、通信?の画面」
 
それぞれが、今後どう動こうか迷っている中、浦部は突然、自身の腹に銃を打ち込んだ。
33男「君、突然何を!」
16女「早く止血しなきゃ!」
慌てて駆け寄ろうとする二人を余所に、苦しそうに腕時計を確認した浦部は、頭に銃を向けた。
浅「浦部くん…!」一瞬の惨事に、やっとの思いで出た声。
その声が届く前に、浦部は頭に一発撃ちこんだ。体が反動でのけぞり、グシャという音で着地した。
40女「キャー‼」
33男「うわー!」動揺した声
26男(口に手を当てて吐きそう)
銃声から5秒ほどで、消えた体。死体は跡形もなく消え、血痕だけが地面に残る。
19女「…消えたということは」
16女「どこかで彼は復活してるってことでしょうか…」
33男「時計をみろ!」全員時計を見る。
画面は北:22を示した。別画面では、3(×〇〇)の表示がされているアイコン。
浅(アキトくんはさっきので死んだことになったんだ。そして、彼は3番の参加者…)
42男「くそっ!あいつのせいで俺たちが不利になった。南を早く潰さないと」
40女「そ、そうよっ。ここは武器を確保した方がっ……。あなた、やって頂戴‼」
42男「なんで俺なんだ。言ったお前がやればいいだろう」

画面が反応し、浅田は再び見る。南の数が3減った。南で減ったアイコンは1,4,5。
浅田(死んだから減ったのか、武器で減ったのか分からない……おそらく先に浦部くんが死んだことで減ったから、北が武器を持ったと勘違いしたんだ)
20女「もし負けたら、玉が一つ減らされるんですよね……じゃあゲーム終了時点で玉が一つの人は」
19女「死ぬってことね。玉鬼のときもそうだったわ」
20女「だったら私、武器使います」
女は箱の前に立った。20女が胸に手を当てて目を瞑ると、手にテニスボールほどの玉が現れた。それを見た他の参加者がわざめく。
浅(玉鬼の時は気が付かなかった…玉は出せるんだ…)
20女は玉と武器を交換(すぐさま浅田は女が2だと確認)箱から出てきたのは、鉈。
42男「鉈なら、男が持った方が使いやすいだろう。貸してくれ」
33男「それは流石に酷い話だ。玉を使って交換したんだぞ」
40女「そうよそうよっ!」
42男「チッ。それが効率的だという話なだけだ」「俺も武器を持つ」
少し離れたところにある箱を見つけ、自身も武器を手にする(42男は6)→(北⑥)。
北⑥「俺は皮膚に触れたら壊死する液体のビンだ…微妙だな」説明書を見て、紙を浅田に渡す。
浅(武器はランダムみたいだ…武器にも有利不利もあるみたいだし、使いこなせる自信が無い。銃だって…)浅田は、出来れば使いたくないと鞄に紙と銃をしまう。

北⑥「とりあえず、向こうも武器を持っているんだ。俺は一人でやらせてもらう」「こんなメンタル弱い奴といたら玉がいくつあっても足らねえからな」
男は吐いていた26男を一瞥。そして森にずかずか入って行った。
19女「消えたおっさんは置いておいて、ひとまず私たちに振られた番号を確認しましょう」
31女「え、どうやって…」
19女「玉を取り出すのよ。これは出し入れ可能だわ。出すときと同様、胸に取り入れることができる」
浅(入れることもできるのか)
その後、残っている参加者のそれぞれの番号を把握。
北⑦(40女)「私も、他の箱を探してみたいけど怖いわっ…あなた、一緒に探してくれるかしらっ」
北②(20女)「ええ…まあ」
時計が進むのを見ていた北⑤は、浅田に話しかける。
北⑤(16女)「私、水野シオリ。浅田君って言ってたよね」「連携が大事だと思うんだ、だから、その…しばらく一緒に動いてみない?」水野、浦部の自殺や周りの参加者のやりとりに呆気にとられながらも、適応しようとして震えながらも提案する。
浅「ああ、俺もそう思う」「他の人も…」
北①(19女)「固まってたらそれも危険だわ。グループに分かれた方が探索ができる。幸い通信環境もあるから、これで連絡を取り合いましょう」
浅(この人の適応力が凄い…玉が3つ残ってる理由がわかる気がする)

北:20、南:19
浅(北はスタートしたばかりだし、南が今の時点で死んだとは考えにくい。武器は4つ)
なぜこんな選抜に強制参加することになったのか。浅田は茂みの中を進みながら考えた。
浅(そうだ、俺は学校から帰っている最中だったはずだ)
~回想~
【確か金曜日だった】
テスト範囲を告げられて、嫌な思いをしながら浅田は門を出ていた。
浅(またテストか)
ぶらぶら歩きながら携帯をいじる。ふと横を見ると、映画のポスターが貼られており、同じ年代の人がポスターのど真ん中に映っている。
浅(すげー…。この人俺と同じ年って、母さん言ってたな)(…普通だよな俺。勉強も友達付き合いも普通にこなして、そのまま普通の人生)(ま、それでいいけど)
【刺激が欲しいとも考えていなかったし、面倒なことは避けたかった。いや、避けてきた。そう、例えば…電車内での痴漢、同級生のいじめ、毎夜毎夜の夫婦喧嘩】
夕方の4時を過ぎた時間帯、ビルとビルの隙間から吹いた風は、血なまぐさいにおいを乗せてきた。
浅「…?」好奇心が勝ってしまった。
暗がりなのに、やけに鮮明に浅田の眼に映った。ナイフを持った男と、転がっている身体。転がっている身体からは、声がかすかに聞こえた「助けて」。
浅田は上がった手に応えられず、後ずさりをする。
浅「いや、俺には関係ない。俺は死にたくない。お前みたいになりたくない」
しかし、赤いナイフが自分に振りかざされ――
~回想終わり~

浅(そうだ……俺は一度)
死んだのではないか。

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